毎年10月のノーベル賞ウィーク。科学や医学など様々な分野の研究で功績があった人に授与されるが、その速報でよく聞くのが「日本人が受賞しました」、もしくは「日本人の受賞はありませんでした」。なぜ日本のノーベル賞報道は日本人にこだわるのか。
【映像】島袋氏が研究拠点を中国に移したことが記事になりバッシングが…
そして、考えたいのが海外に拠点を移す研究者の増加と、日本からの「頭脳流出」だ。2021年、毎年のようにノーベル賞候補になっている藤嶋昭東京理科大学元学長が、研究チームごと上海の大学に移籍し話題となった。一方で、天文学を研究する島袋隼士氏は中国の大学に研究拠点を移したことが記事になり、「研究費も私生活も『中国のほうが上』だが…」と見出しがついたことでバッシングを受けることに。
ノーベル賞と日本人について、そして頭脳流出は本当にダメなことなのか。6日の『ABEMA Prime』は島袋氏を交え議論した。
■「我々はノーベル賞を目指して研究をしているわけではない」
島袋氏は14歳で相対性理論をきっかけに宇宙に心酔し、東北大学理学部で宇宙地球物理学専攻、名古屋大学大学院で素粒子宇宙物理学専攻を修了。その後は、フランス・パリ天文台のポスドク、中国・清華大学の天文学科ポスドクを経て、現在は中国・雲南大学で西南天文学研究所の副研究員を務めている。
ノーベル賞の価値については「世界を変えたような研究、業績に与えられるもの。賞を受け取るのはすばらしい研究者の方々だと思う」とする一方で、「我々はそれを目指して研究をしているわけではないということもご理解いただきたい」と説明する。
「ノーベル賞が与えられるのは、研究者の界隈、コミュニティではすでに知れ渡っているような業績だ。賞が与えられたからその人に価値がつくわけではなくて、研究者の人々は“ようやくノーベル賞を取ったか”という気持ちで受け止めることが多い。ノーベル賞は“こういう研究がされているんだ”ということが広く知れ渡るきっかけになればいいなと思っている。
私自身、『日本のために』とか『他の国のため』と思ったことは一度もない。自分の興味にしたがって研究をしてきたし、その研究結果が論文として世界に公開されて、人類の知的財産として貢献できればという気持ちだ」
ジャーナリストの堀潤氏は「メディアの問題がある一方で、科学界にも“自分たちが発信してこなかった”という悔恨があると聞いた。東京大学卓越教授の藤田誠さんに以前お話をうかがった時、『自分たちで発信しなければいけない。自分たちが大衆に語りかける言葉も、大衆に理解を求めてさらに研究を広げていくようなこともやってこなかった。』と。科学界から発信を始めようという動きはある」と話す。
島袋氏も「一般の方々に研究内容を紹介していくのはすごく重要だと思う。実際、近年は研究者のほうからアウトリーチというかたちで、一般の方々に向けて発信する機会が設けられることもたくさんある」とした。
■「頭脳が流出しないように『頭脳循環』を」
研究場所として中国の大学を選んだ経緯について、島袋氏は「ポスドクは2、3年の任期がついている職で、これが切れたら次のポストを探さないといけない。任期のついていない大学教員や研究所の常勤ポストは探すのが困難な中で、中国の雲南大学の教員の募集があった。実は雲南大学以外にも、アメリカやヨーロッパ、日本の大学にも応募していて、その中で雲南大学からオファーをもらったということだ」と説明。
高度な知識や技術を持つ人が海外に拠点を移すことが「頭脳流出」と言われることについては、「そういう表現だとネガティブな印象を与えてしまう。逆に頭脳が流出しないように、『頭脳循環』というかたちで海外にいる人材を呼び戻したり、海外に出なくても日本で研究を続けられるような研究環境づくりが重要だと思う」との見方を示す。
堀氏は「“チャイナリスク”というのが一般の経済活動においてはある。技術であれば、それが別のものに転用されていって、利活用が違うものに変わっていく。そういったことは国選びの時に頭をよぎったりされたのか。実際に働かれてみて、そういう兆しはあるのだろうか」と投げかける。
これに島袋氏は「よく言われることで、確かに可能性は払拭できない」としつつも、「今中国に渡るのは若手の基礎科学の研究者が多い。基礎科学は“役に立たない”と言われたりする研究分野で、その内容は論文というかたちで世界に公表されているので、囲い込まれるというのはあまり気にしなくていい。それこそノーベル賞が出た時、基礎科学の研究は『それって何の役に立つの?』と言われたりするのに、中国に研究者が渡るとなると『技術流出だ』となる。それまでは役に立たないものだと思われていたのに、急に流出するような言われ方をするはちょっと違うと思う」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側