「葬式代としてとってる貯金が壁に」生活保護を“断る側”の苦しみとは? 受給打ち切りに違法判決
【映像】“進学”は贅沢か? 「生活保護」受給打ち切りに違法判決 ひろゆき氏「正直者がバカを見る」
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 孫の収入増加などを理由に生活保護を打ち切られたとして、70代男性が熊本県を訴えた注目の裁判。今月3日、裁判所は男性の訴えを認め、県に受給打ち切り処分を取り消すように命じた。

【映像】ひろゆき氏「正直者がバカを見る」進学は贅沢か?「生活保護」打ち切りに違法判決

 原告の70代男性は8年前、生活保護を申請。妻と看護学校に通う孫と同居していたが、現在の法律では、生活保護世帯には大学や専修学校への進学が原則として認められていない。そのため、男性は孫との世帯を分ける“世帯分離”を行なった。

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 住民票に登録されている1つの世帯を2つ以上の世帯に分けるため、家計も別となる。生活保護世帯から外れた孫は看護学校に通い続け、アルバイトや奨学金で学費、生活費を賄い、准看護師の資格を取得した。

 その後、孫が病院で働き始めたところ、月収が十数万円に増加。県側は、この収入増加を理由に「家計を助けられる」と判断し、一方的に世帯分離を解除、生活保護を打ち切った。

 県側の対応について、熊本地裁は「生活保護の打ち切りが原告世帯を困窮させ、孫の将来の自立を妨げることは容易に予測できた」「世帯分離は大学や専修学校で能力を身につけ、将来の自立を促進することが目的であり、収入の増加のみをもって世帯分離を解除するのは相当ではない。生活保護解除の判断は行政庁の裁量の範囲を逸脱、乱用するものとして違法性が認められる」として違法と判断。県に打ち切り処分を取り消すよう命じた。控訴期限は今月17日となっている。

 進学や自動車、装飾品の所持のほか、クレジットカードの使用など、時代にそぐわない制限もある生活保護。生活保護には今後どのようなアップデートが必要なのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、専門家を交えて議論を行った。

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 原告弁護団のメンバーで、はみんぐ法律事務所に所属する弁護士・阿部広美氏は「今回の判決は勝つべくして勝ったと思う」と話す。

「お孫さんは、准看護師の免許を取っただけではなく、その後、正看護師の免許を取るために進学しました。つまり、世帯分離の目的は正看護師の資格を取ることにあった。ところが、福祉事務所が進学の目的を考慮せずに『収入が増えた』と、そこばかりに目を奪われ、打ち切った。世帯分離が何のためにされたのか。それを理解せずに進めた結果がこれだ。今回の裁判はまだ就学中であるにも関わらず、世帯分離を一方的に解除した特殊な事案だ。福祉事務所にとっても異例の対応だったと思う」

 生活保護は高校に通っている間は受給が認められている。受給世帯の進学率も上がっているが、その先の大学・専門学校については世帯分離を行わないと、これが認められない。逆に考えると、同居していても、世帯を分ける手続きをするだけで、進学は可能となり、これに関しては「合法的裏技ではないか」といった声もある。

 阿部氏は「一律に『大学・専門学校だからダメ』よりも、個別の事情を聞いて、しっかり判断していただく必要があるのではないか」と訴える。

「たとえば、親御さんから虐待を受けて援助を受けられない人が、奨学金を借りながらアルバイトをして頑張って大学に行っているとする。でも、身体を壊してもうアルバイトができなくなったら、大学を辞めないといけない。そういう場合の支援制度の選択肢として、生活保護があってもいいのかなと私は思う。今のルールでは、ダメになっている」

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 福祉事務所のケースワーカーの担当によって、判断が分かれることはあるのだろうか。

「今回の裁判では、担当のケースワーカーさんが変わって、その人はとてもソフトな対応だった。その後、最初の担当に戻ってから、かなり強硬姿勢になっている。残念ながらそういった職員の方が一定おられるのも、この制度の難しいところかなと思う」

 被告である熊本県側は「世帯分離の解除、元に戻したということに処分性はない」「判断に誤りはなく適法。何ら裁量の逸脱濫用はない」「判断の慎重及び合理性は担保され、恣意も排除されていた」と主張している。

 これに、お笑い芸人・カンニング竹山は「熊本県の主張のほうがよく分からない」とコメント。「孫が一生ずっと爺ちゃん、婆ちゃんの面倒を見なければいけないのか。孫には孫の人生もある。『一緒に住んでいる限りは面倒見なさいよ』と言われても、それはなかなか納得いかない。若いお孫さんが、看護師になって、お給料をもらったところで、自分を含め大人3人を1人で養わなければいけない。裕福ではない」と指摘した。

 24年間にわたって京都市役所で生活保護などの福祉部門を担当した、花園大学・社会福祉学部教授の吉永純氏は「世帯分離は、お孫さんが学費や生活費を自分で工面するなら勝手にしていいという意味だ」と話す。

「お孫さんがあと2年頑張れば、正看護師になれるところで、受給がダメになった。お孫さんは記録で『これでは学校に通い続けられない』とはっきり言っている。それにも関わらず、県がこれを打ち切った。これが最大の問題だと思う」

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 自治体や担当者の側に「できるだけ生活保護を認めたくない」といった思いはあったのだろうか。

「県は『収入が増えた』という表面的なところに目を奪われた。世帯分離を解除したら『最低生活費を上回るからダメ』となった。そんなことは通知文書には書いてないのに、福祉事務所がそう判断した。お孫さんの将来、おじいちゃんとおばあちゃんの生活よりも『生活保護を打ち切れるならやろう』と間違ってしまった」

「残念ながら、日本の生活保護は非常に厳しい。よく言われるのが、受給時は貯金ゼロが原則で、車を持っていたらダメなどだ。日本の受給率は1.6%あまりで、ドイツは9%、フランスは10%になる。日本は絞りに絞っている」

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 吉永氏は、生活保護を断る側もやったことがあるという。

「どんなに私が『この人は生活保護が必要だ』と思っても、通知で縛られている。できない場合はお断りせざるを得ない。どちらかというと、もらえないケースが多い。たとえば、ある高齢者が来られて『年金が5万円で全然生活できない』と話された。『貯金はあるか?』と聞くと『それは葬式代でとっている』と答えた。これがあるうちはダメだ。担当者としては『貯金がなくなった時点でまた来て下さい』となる。ただその時に、生活保護が認められる保証はない。断るのは非常につらかった」

 生活保護について、国からは「できるだけ増やすな」という圧力はあるのだろうか。

「表向きにはそんなことは言わない。年に一回は監査があるので、受給者が増えた自治体には『目をつけられるかも』という、じわっとした感じがあるし“暗黙の前提”みたいなものはある。監査は厚生労働省、場合によっては会計検査院も来る。ここでチェックされたものが、自分たちの評価や成績につながる」

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 元霞ヶ関官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「担当課によって判断が割れたケースだろう」と見解を示す。

「そもそも、自立に資するような進学の基準自体が曖昧で、どうしても担当に裁量の余地が出てきてしまう通知になっている。こういう制度である限り、一定確率で出るものだから、トラブルを排除するのは難しい。元々の制度の基準自体を大きく変える必要がある。ただ、そうするにはちょっと予算がきつい。どちらかというと国側より、地方側の予算がきついのだろう。生活保護は自治体が4分の1、国が4分の3を持つ。仮に自治体が5分の1、国側が5分の4だったら、もうちょっと余裕が出るかもしれない。そのあたりを見直して、議論にしないと根本的な解決にはならない」

(「ABEMA Prime」より)

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