ここまでゾクゾクさせる愛憎劇は近年珍しい。『あちらにいる鬼』(11月11日(金)公開)は、直木賞作家・井上荒野が、父であり作家である井上光晴と瀬戸内寂聴、そして光晴の妻との特別な関係をモデルに記した同名小説を映画化したもの。寂聴にあたる長内みはるを寺島しのぶ、光晴にあたる白木篤郎(豊川悦司)の妻・笙子を広末涼子が演じる。寺島と広末が揃うシーンは3回しかない。それにも関わらず、濃密に絡まり合い、篤郎を磁力で引っ張り合ったかのような不思議な印象が残る。篤郎というコインの表裏に刻印されたような、みはると笙子を演じ終えた二人には連帯感があり、母親というプライベートでの共通項もプラスに働いたようだ。