女性が自宅で料理する様子をただ映したものや、古民家でゆったりした暮らしを紹介した動画。最近、顔出しをせずに人気を博すクリエイターが続出している。
【映像】脅威の774万再生 “勉強する手元と青空をただ映した”動画
登録者数42万人を誇る「pikeチャンネル」は、ある大学生の一人暮らしを紹介したもの。勉強する手元と青空をただ定点観測した動画は約774万回再生されている。何気ない日常だが、便利なグッズやオシャレな雑貨、インテリアに囲まれる暮らしをこだわって撮影し、編集。顔出ししないのは、伝えたい内容や中身について視聴者にしっかり見てもらいたいという思いからだという。
「外見は人それぞれ好みとかすごく差があるのかなって感じていて。その人の外見だけで動画、チャンネル自体のイメージが決まってしまう。余計なフィルターを作らないために顔を出さない」
これほどウケている理由を聞くと、「コロナ禍で多くの人が家で過ごすようになって、生活の質を上げたかったり。あと、モチベーションがほしい時に、YouTubeから得られるメリットが大きい、といったことがきっかけだと思う」と分析。
博報堂生活総合研究所の上席研究員・酒井崇匡氏は「インスタでもZ世代を中心に顔以外のモノを見せる発信が主流に。また、“顔を盛る”ことへの気恥ずかしさや、見栄え良く写すことで自己肯定感を得る行動そのものに古さを感じてきている。顔出しナシ動画を当たり前とし、抵抗感なく見られる視聴者が増加しているのでは」との見方を示す。
「有名になりたかったら自分のタレント性を推していきたいと思うが、全くそんなことはない。ただ生活を共有したいという願いがあるだけ」というpikeチャンネルさん。「顔が見たい」という視聴者の声はほとんどないそうで、「それが視聴者さんが顔なしのコンテンツを求めている裏付けになっていると思う」と述べた。
■顔出しは「“リスクまで許容して伝えたいことがある”という意思表示になる」
一方で、あえて顔出しすることにこだわるチャンネルもある。
農林水産省のYouTubeチャンネル「BUZZMAFF ばずまふ」は、職員個人が出演し、農林水産業の魅力や政策などを発信。ユーモアを交え、わかりやすく伝えている。例えば、食品ロスの現状や課題について職員が自作の歌詞でラップにして歌ったり、コロナ禍で売れなくなった花の需要拡大を訴える動画では、職場などで花を飾る楽しさを淡々と伝えている中、カットが変わるたびに花が増え、最後はほぼ顔が見えなくなるくらいにいっぱいに。シュールさがウケ、再生回数は100万回を越えている。
公務員のお堅いイメージを払拭するスタイルがハマり、チャンネル登録者は16万人を超えた。出演する職員には顔出しを強く推奨しているそうで、広報戦略グループ長の安川徹氏は「それまで農林水産省の情報発信は専門家の方にお願いしたりして、職員が自ら顔を出したり名前を出したりして発信しているものではなかった。それが故に伝わりにくかった。自分の思いも含めて伝えることで、初めて正しい情報や“この人は嘘をついていない”ということを認識してもらえるのではないか」と話す。
動画に出演し、管理・運営も行う白石優生氏は「組織を出すよりも、『広報で働いている4年目の白石優生が話します』と言ったほうが、聞いてくれる人が多い実感はある。やはり私たちは組織を背負っているので発言に責任を感じることが多く、みんな顔を出したがらない。私も最初はめちゃくちゃびびっていたし、やりたいという職員もいなかった。ただ、当時の江藤農水大臣が『もう何でもやっていい』と。『YouTubeの業務を正式な国の業務として認めろ』『発信の責任は大臣である私が持つ。上司は口出しせずに、若手の個性をそのまま発信できるように体制を作ろう』としたら、やってみようという職員がたくさん出てきた。その時に思ったのは、責任感で自重している部分がすごく大きかったということだ」と話す。
炎上を防ぐため、問題ある表現がないか、権利侵害がないかなどを徹底チェックし、職員向けのマニュアルも作成。「“嫌われないこと、応援される存在になること”が究極の炎上対策」だという。
白石氏は「公務員の情報発信は『リスク』と言いすぎると思っている。炎上したくないから顔を出さないというのは結局、自分は痛い思いを全くしないけれど、情報は一方的に出したいという態度だ。国民の皆さまはそんな人の話を聞こうと思わないと思う。顔出しをしていることが、“私たちはリスクまで許容してあなたたちに伝えたいことがある”という意思表示にもなっているんじゃないかと思う」と語った。(『ABEMA Prime』より)
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