経済ニュースメディア「NewsPicks」や経済情報プラットフォーム「SPEEDA」などを運営するユーザベースは9日、同社の普通株式と新株予約権に対してカーライル・グループ傘下のTHE SHAPER社がTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。
【映像】「NewsPicks」で約20億円超え? 営業利益一覧(画像あり)
アメリカの投資会社カーライルは2004年、京セラと組んでKDDI傘下の通信サービス会社「DDIポケット」を買収し話題になった。2016年には経営不振に陥っていた教育大手「ベネッセ」の社長に、日本法人の会長が就任。経営再建と再生の手腕で知られている。そのカーライルが買収に際して打ち出した方針が会社の非公開化だ。
ニュース番組「ABEMA Prime」では、さまざまなニュースサイトが乱立する今、戦国時代とも言われる経済メディアの未来について、専門家と共に考えた。
未来投資家でシニフィアン共同代表の村上誠典氏は「株価は相当厳しかった」と指摘。
「ユーザベースは、NewsPicksを軸にしたハイブリッドモデルを展開しようとしていた。ただ、メディアの変革期でフロントランナーだったはずのNewsPicks自体が減速してしまった。そうすると事業の立て直しが必要になる。株価も低迷して、このまま上場している意味が薄れてきたのが大きなテーマで、根本的なきっかけだと思う」
村上氏は「そもそもメディア事業自体に特殊性がある」とした上で、苦戦の原因について以下の2つをあげた。
「1つ目は、アメリカの経済メディア『Quartz』の買収だ。そこで描いた画が実現できず、業績的にも資金的にも厳しい状況に追い込まれた。2つ目は、繰り返しになるがNewsPicks事業の鈍化だ。メディア事業は、人がコンテンツを生み出して、それで儲ける。ただ、コンテンツに興味がある有料課金ユーザーは無限にいるわけではない。ここを伸ばそうとすると、広告主を見て記事を作らないとグロースできない。それが、メディアの罠だ。そして最近はNewsPicksの人の異動が激しかった。つまり、コンテンツの質と、グロースに向けた動き、そして人材。このバランスが悪くなったことが理由だと思う。私も中身を細かく知っているわけではないが、客観的にはいわゆるメディア事業の特殊性の中で、コンテンツでマネタイズしていくモデル自体に限界が見え始めたのだろう」
2020年から始まったコロナ禍以降、ユーザベースの収益はほぼ横ばいだ。課金ユーザーについては、獲得が解約を下回る状況が見られる。
村上氏は「ユーザベース自身も創業10年くらいで、NewsPicksの事業も5年以上やっている。元々のターゲット層が5歳、10歳と年齢を重ねていくにつれて、時代やビジネスモデル、競争関係が変化していく。ある程度ユーザーを取りきったゆえに、次の一手というのが難しくなったのだろう。ある種、時間が招いた停滞もあると思う」と話す。
ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「上場企業は株主から1年以内に利益を出すことを要求される。そうすると、きちんとした専門家ではなく、ポッと出のインフルエンサーなどを使ってPV稼ぎをやることになる。結果として人が離れてしまう。ただ、メディアはまともな人が見るし、まともな人がお金を払い続けてきた。そういう意味で、上場廃止はメディアとして生き残るために正しい道だ」と指摘。
その上で、ひろゆき氏は「昔のNewsPicksは有名な人や識者が経済ニュースにコメントしていて、新聞社のサイトで見るよりも、NewsPicksで見た方が多角的に物事を知れる面白さがあった。ところが、今は誰でもコメントが書けるようになってしまって、優秀な人のコメントが埋もれてしまった。そういう中で、たまにNewsPicksの記事をクリックした時に、それが有料で見られないと『うぜえ』となる。僕にとっては『なるべくクリックしないURL』になっている。『あそこは古いよね』と思われたメディアを復活させるのはかなり難しい。今後は少しずつ縮小、リストラされていくのではないか」と見解を語った。
経済ジャーナリストで元日経新聞記者の後藤達也氏は「NewsPicksの有料会員は20万人弱ぐらいで、これでもだいぶやってきたほうだと思う。評価したほうがいい」とコメント。
「ただ、ここから30万人、40万人、50万人と増やしていけるか。それは相当厳しい。日経新聞は、いま80万人で頭打ちになっている。パイとして、ここから取っていくのはなかなか厳しい。昔は日経新聞も紙で300万部以上、読売は1000万部以上あったが、それは昔のマスメディアの話。『これを読んでいれば情報が全部分かる』といわれるような、ある種の百貨店みたいな存在だった。今はどんどん専門店ができている。政治や国際ニュースに比べると、まだ経済はマネタイズしやすい分野だ。“立て直し”の意味は分からないが『20万人を維持できれば上出来だ』というフェーズだと思う」
一方のひろゆき氏は悲観的な見方だ。
「どういう切り口、企画でやるかが大事。優秀な人はPVを伸ばせるが、そうじゃない人はどうでもいいことをやる。後藤さんは日経を辞めても1人で1万人の有料会員を抱える力がある。それを見た優秀なNewsPicksの人は『じゃあ俺も会社を辞めてやろう』となる。これからは優秀な人から抜けていくモデルが始まるので、かなりきつい」
(「ABEMA Prime」より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側