冬眠を医療に応用?手術時の臓器負担軽減をマウスで確認も  “人工冬眠”の可能性に研究者「元気で長生きできる状況が作り出せる」
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 クマやリスなどが行う「冬眠」。冬が近づくと栄養を貯めこみ、巣ごもりをするといった活動だが、これを本来冬眠しない動物で人工的に行うことで、人類の生活に役立てようとする研究が進んでいる。

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「マウスなど冬眠をしない動物を使って、非常に冬眠に近い状態を作れるということ。このモデルを使うと、薬剤を投与しただけで30分後ぐらいに冬眠に近い状態に誘導できる。今回のように病気のマウスや手術を模したマウスを用意して、それに対して“冬眠様状態”を誘導した時にどうなるかが見られる」

 こう話すのは、理化学研究所の砂川玄志郎チームリーダー。砂川さんらのチームは、2年前に「人工冬眠」という研究を発表した。遺伝子操作を加えたマウスの脳内にある特定の神経に刺激を与えることで冬眠に近い状態、「冬眠様状態」を作り出すことに成功した。

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 さらに今月、この「人工冬眠」の研究をベースに発表されたのが「医療分野への応用」。理化学研究所と京都大学のチームはマウスを冬眠様状態にすることで、手術時の臓器負担を軽減できる可能性を確認したと発表した。

 この研究を砂川さんと共に行ったのは、理化学研究所の升本英利上級研究員。心臓血管外科の医者でもある升本さんによると、心臓や血管の手術では、体の血液の循環を一時的にすべて止める場合がある。こうした時、従来では人間の体温を下げる「超低体温法」が行われている。

「体温をすごく下げると、単純に臓器は代謝が落ちて保護されることになるので、血液が流れなくても多少大丈夫になる。そういうことをこの50年間やってきているが、体を冷やすと血液が固まる作用とかが落ちてしまうので、手術のあと出血する可能性がある。そういう状況があるので、体を冷やさずに(手術が)できるといいなと思っていたが、その手立てがまったく無かった。人でもそういうこと(冬眠様状態)が手術の時に出来るようになれば、体を冷やさずに手術をしていけるんじゃないかなと」

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 患者の負担が少ない治療法にもつながるはず――。そうした思いから升本さんらはマウスを使って実験。冬眠様状態にした上で、正常体温のまま心臓手術のように血液の循環を一時的に遮断した。すると臓器へのダメージを、低体温にした時のように少なく抑えることができたのだ。

「すごくリスクが高いようなお年寄りの患者さんとか、『いま手術が難しいね』と言っている方でも出来るようになっていく可能性がある。元気で長生きできる状況がより作り出せるんじゃないかと」

 冬眠を人類に役立てることが出来ないか。今回の研究のような仮説は他にもあるものの、自然界では検証する術が無かったと砂川さんは話す。

「研究で使おうと思って冬眠納物を観察しようとしても、今このタイミングで冬眠してほしいと思ったときに冬眠してくれるわけでは無い。今回のその論文の非常に大事なところは、冬眠を使ってこういう人に役に立ちそうな治療であったり、処置ができるっていうことが、初めて実際に示されたというところ」

 今回マウスで検証した「人工冬眠」。人間でも同じように出来るかはまだ未知の領域だが、将来的に実現できれば冬眠が人々の価値観を大きく変えることになりそうだ。

「ひと言で言ってしまうと、老化がある程度、その冬眠の間抑えられたりするっていうことも可能になるかなと。50年、100年と安全に冬眠できるようになると、その100年先っていうものが現実的に行ける世界になってくると思う。もっともっと研究を進めたいなと思っているが、今すごくその研究者が世界的に見ても非常に少ない。興味を持っている人は冬眠研究に手を出してほしい」

(『ABEMAヒルズ』より)

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