■斜め45度の『堂安ゾーン』に持ち込むまで
【FIFA ワールドカップ カタール 2022・グループE】日本2-1スペイン(日本時間12月2日/ハリファ インターナショナル スタジアム)
1点ビハインドで迎えた後半に投入されると、わずか3分後に仕事をやってのけた。ドイツ戦に続き、日本を勝利に導く大事なゴールを決めたのは8番だった。
ゴールが生まれる数十秒前。堂安は右サイドで仲間たちが繰り広げる激しいプレスを見ていた。
ボールは相手GKにあった。そこに前田大然がスピードで猛プレスを仕掛けると、GKシモンは左のCBロドリへ横パス。これに鎌田大地がコースを切る形でプレスに行くと、さらに左にいたMFファティへ横パス。左タッチラインまで追い込んだところに、堂安とともに投入された三笘薫が猛プレスを仕掛け、ファティはたまらずバックパス。三笘はさらにパスを受けたロドリにスピードそのままにプレスに行った結果、GKシモンへの横パスを引き出させた。
シモンがトラップした瞬間に前田がスピードプレスを仕掛けたことで、ついにスペインのビルドアップが崩れた。シモンは慌てて左サイドバックのバルデに浮き球のパスを送ったが、バルデのトラップが浮いたところを、プレスに来た伊東純也がヘッドで競り勝つ。そのこぼれ球が堂安に飛んで来た。
堂安は飛び込んできたペドリよりも先に落下地点に入ると、左足アウトサイドで柔らかくボールの勢いを消し、ペドリの逆かつ自分の武器である左足の強シュートが打てる場所までワンタッチでボールを運ぶ。
完全にフリーで右斜め45度の『堂安ゾーン』に入ると、全ての力を込めて左足の弾丸ミドルシュートを放った。ニアサイドへ一直線に飛んでいったボールは、GKシモンの手を弾き飛ばす形でゴールに突き刺さった。
■スーパーなのはトラップとキックだけにあらず
値千金の同点弾。
このゴールは堂安の超絶なファーストタッチと左足のキックが称賛されるが、シーンを巻き戻すと2つの“細かすぎて伝わらない”プレーがあることに気づく。
1つは前田、三笘、伊東という3人のスピードのあるアタッカーの能力と動きを予測したポジション取りだ。左サイドのプレスの展開の時、右インサイドにいた堂安は、いつでもスペインの選手が横パスを出すのを待っていた。そのままインターセプトしてカウンター、もしくはプレスをかけてバックパスやパスミスを誘発させられるように、細かいポジション修正と体の向きを作っていた。
そして、ボールが自分のサイドに来ると、最初はボールを受けようとしているバルデにプレスに行こうとしたが、伊東がプレスに来る姿を捉えて、間に合うと判断したことでその場で一瞬ステイしたのだった。
2つ目は伊東のヘッドの浮き球が自分のところに来た時だ。堂安は戻りながらその浮き球の落下地点を把握すると、一瞬だけ首を振りスペースを埋めているペドリの姿を捉えた。浮き球が堂安の頭上を越したのと同時に、堂安もターンをして前を向くとペドリと向き合った。
この瞬間に堂安はボールは2人の中間よりも自分の方の手間に落ちることを一瞬で判断している。これは事前にペドリの位置を把握していなければできなかった。もしボールが飛んできた時点で首を振らず、ボールばかり見ていたら、ターンした瞬間にペドリがいることで堂安も慌てたり、イーブンボールとして競り合いに行ってしまったりしていたかもしれない。
堂安は冷静にこのボールをゴールチャンスに変えた。この2つの判断があったからこそ、あの左足のファーストタッチと強烈なシュートが生まれたのであった。
普段はビッグマウスと呼ばれ、負けん気の強い表情と言動で荒々しいイメージがあるかもしれないが、実は非常に頭が良く、情報収集能力と情報処理能力にも長けている。つまり冷静な頭脳と、燃え上がる野性的な本能の両方を持ち合わせている稀有な選手だと言える。
次は決勝トーナメント。ラウンド16の相手は前回大会の準優勝しているクロアチア。明晰な頭脳と強烈な左足で、クロアチアを撃破し、日本初のベスト8への扉をこじ開けてほしい。
文・安藤隆人