森保ジャパンへの“手のひら返し”に「批判されようが賞賛されようが僕は同じことをする」三都主アレサンドロ&鄭大世と考えるサッカージャーナリズム
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 連日熱戦が繰り広げられているFIFA ワールドカップ カタール2022。12月4日(日本時間)からは、決勝トーナメントがスタートした。日本代表はグループステージでドイツ代表、スペイン代表を倒す“ジャイアントキリング”を演じ、予選Eリーグを1位で通過。6日に行われた本戦トーナメント1回戦では、クロアチア代表に延長戦からPK戦に及ぶ大熱戦の末に惜敗を喫したものの、列島は大興奮に包まれた。

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 Twitterでは「まさにドーハの歓喜」「堂安のシュートすごすぎ」「森保監督の采配が見事的中した」と選手や監督に対してあふれる称賛の嵐。しかしコスタリカに敗れた際には「ドイツに勝ってコスタリカに負けるとか意味分からん」「やる気あんの?クソ試合見せられたわ」「もう帰ってくるな!二度と日本の土踏むなよ」との声も見られた。ネットに溢れかえる誹謗中傷や批判の声、試合のたびに起こる手のひら返し。戦犯探しはどこまでが許されることなのか。叱咤激励と誹謗中傷の境界線について考える。

 実際に国を背負ってワールドカップの舞台に立った経験を持つ選手は、ファンたちの行動をどのように見ているのだろうか。

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 1994年にブラジルから来日、国籍を取得後日本代表として2002年、2006年のワールドカップに出場した三都主アレサンドロ氏は「かわいいなと思う。(プレーヤーが)傷ついたら終わり。サッカーは良い時も悪い時も必ずある。1試合勝って、1試合負ける。ずっと勝っていくのはすごく難しいこと。強いチームは勝つ確率の方が上だが、負ける時もある。負けた時はどうしていくのかを大事に考えないといけない。そこで自信を失ったらゼロからのスタートになってしまう。自信を持って、次は繰り返さないようにすればいい」と話した。

 “戦犯探し”のごとく、叱責されることについてはどのように考えているのだろうか。

 三都主氏は「それがスポーツだ。負けた時は絶対に誰かのせいで、誰かのミスがあったからの負けになる。サッカーは誰かがミスしたら失点になる」と述べた。

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 今シーズンで現役を引退し、2010年に北朝鮮代表としてワールドカップに出場したFC町田ゼルビアFW鄭大世氏は、「三都主さんのように、選手みんながメンタルが強いわけではない。僕のように超繊細な人もいる。人間は本性的に犯人探しをする。フラストレーションを人に向けて牙をむくことでストレスを発散する生き物で、生存本能だと思う。ある程度仕方ない」と語る。

 さらに「メディアも資本主義社会でビジネス。数字を追うとなったら、人間は本能的にネガティブに反応するようになっていると思う。勝った時は称賛して、みんなの声を届ける。需要と供給で、世論がネガティブを求めたら需要にそれをやると思うので、ある程度は仕方ない。傷つきやすい、僕みたいな人はそっと携帯を閉じるしかない」とした。

 ジャーナリストの堀潤氏は、代表経験を持つ両氏に「“手のひら返しじゃないか”という声に対して、“批判もサポーターの務めだ”という人もいた。それはどうだろうか」と質問。

 鄭氏は「基本的にみんな“スパルタ”が好きだ。例えば、監督が『この厳しい指導に耐えればお前は成功する。これを乗り越えろ』と言って、選手によってはそれで成功する人がいる。そういう人は言われても、もともと気にしない。でも、僕みたいに繊細な人は、それが気になってメンタルもプレーの質も落ちていく」とし、「いい指導者、いい報道は、選手のタイプに合わせて、この人は大丈夫だから言ってもいい。一方でこの人は将来の日本代表になるために、あえて言わない。そういう選別をしてあげることが理想的」と述べた。

 しかし、「実際はそうもいかない。手のひら返しと言うが、その手のひらはいっぱいある。1つではない。中には返してない人もいる。手のひら返しというテーマに注目するから手のひら返しになる。意外とそうではない意見の人もいる。意見を言うのはネガティブな人が多いから、論調はそうなる」と広い視点で語っていた。

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 防衛研究所の防衛政策研究室長で熱狂的なサッカーファンとしても知られる高橋杉雄氏は「安全保障の専門家としては、戦犯という言葉は良くないと思う。これは戦争犯罪だ。戦争で虐殺をする、暴行をしたことが戦争犯罪になる。敗戦の責任者に対して戦犯という言葉を投げつけるべきではない」と指摘。

 「ワールドカップやオリンピックのように、4年に1回だけのイベントにおいては、『こいつが悪い』が出がちだと思う。例えば、私は川崎フロンターレのサポーターだが、鄭大世選手に失望したことは1回もない。ゴールを決めてくれと叫んで、決めてくれたことの方がはるかに多い。上手くいかなかった時は次があると思ってずっと応援し続ける。4年に1度だとそうはいかないところはあると思う」との見方を示した。

 国の代表として世界の舞台に立つプレッシャーはどうだったのだろうか。

 三都主氏は「プレッシャーはあったが、楽しみの方が大きく、その舞台に立ちたいという思いの方が強かった。夢の場所なので楽しまないと後悔する感じがする。失敗したら大変だが、それよりもそこに立ちたい。選手はそういう厳しいプレッシャーを感じる場所に行きたいと思っている。だから、楽しんでいると思う」とポジティブな意見を披露した。

 鄭氏は「Jリーグ、海外リーグ、ワールドカップと注目度はどんどん上がっていく。ワールドカップレベルの緊張感になると、体はどんどん軽くなっていく。懸ける思いが強いほど体のキレも上がっていく。精神と肉体が連結しているというのを、ワールドカップですごく感じた。振り返っても、あの時は一番体がキレていたと思う。初戦のブラジル戦は最高で、1秒でも長くプレーしたいと思っていた。でも2戦目のポルトガルで、0-7で負け。1秒でも早く終わってくれと思った」と勝敗がフィジカル、メンタルに与える影響を語った。

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 寄せられる様々な意見。選手は何を必要とし、どこまで許容する必要があるのか。

 三都主氏は「まず、そういうニュースをあまり見ない」とした上で、「良い時も悪い時も見ない。自分は調子に乗りやすいし、自信を無くすのも早い。今日の試合で何が悪かったのか、何が良かったのかというのは、自分が一番分かっている。やり続けないといけないことと、絶対に直さないといけないものというのが自分の中にある。監督に求められたとしても、それをどれだけ取り入れて、さらに出来るのか、を考えることが大事」と述べた。

 SNSの普及により、現代では「見たくないが目に入ってきてしまう」という事象も。今と昔で感じ方は変わってきたのだろうか。鄭氏は「今の世代はSNSがかなり身近な存在。選手のほとんどが、自分のプレーが上手くいった時は絶対にエゴサしている」と選手ならではの感覚も披露した。

 リディラバ代表の安部敏樹氏は「スペイン戦が終わった後のロッカールームで、吉田選手が『スマホ見せて。“大・手のひら返し”があるだろう』と言っているのを見て、めちゃくちゃ嬉しかった。プレッシャーを楽しんでいるのを感じた」と話すと、鄭氏は「勝ったからこそ、そのプレッシャーは良いプレッシャーだったなと思う。負けた時はそのプレッシャーに潰されたと落ち込んでしまう」と述べた。

 続いて、選手の目に日本のスポーツ報道はどのように映るのだろうか。

 鄭氏は「どんな映画もドラマも、苦しい時を乗り越えるサクセスストーリーだから面白い。それを伝えるという意味での報道は必要だが、それ自体は選手の助けには全くなっていない。批判の報道は必要ではない。ネガティブはいらない」とプレーヤーとしての胸の内を吐露。しかし、「批判は人間の本能な部分なので仕方ないと思う。そこをどう受け止めるかを考えた方がいい」と話した。

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 過去には批判がエスカレートし、海外ではミスした選手が殺害されるなど犯罪行為に及んだ例も。また、直接的な攻撃ではなくとも、SNSなどでは人格否定や危害を加えるような書き込みが日常的に飛び交っている。

 鄭氏は「例えば、サポーターが空港で待ち伏せて選手に暴力ふるうことは、人としてやってはダメなこと。人と人、人とメディアでもそれは一緒だ。戦術的な批判やプレー、技術面でのミスにはいくらでも言っていいと思う。自分でも分かるようなミスをした時は、罪悪感もあるので怒ってくれた方が気持ちが楽というのもある。でも家族にも影響が及ぶような人格否定や、人物そのものを否定する発言や書き込みは絶対に間違っていると思う」と訴えた。

 高橋氏は「日本のメディアには検証報道が少ない」と指摘。「例えば、2018年ロシア大会で日本代表がベルギーに負けた後に、NHKスペシャルで『あの14秒で何があったのか』検証したことがある。あのような報道は、見ていて勉強になるし、選手目線でもいい影響があるのでは」と見解を述べた。

 別の事例として、「例えば、2006年ドイツ大会でのクロアチア戦では柳沢選手がフリーでボールを受けたが、思い切りシュートを外して『急にボールが来た』という発言があり、分かりやすい“ミス”に対して批判が集中したことがあった」と話すと、鄭氏は「いわゆるスケープゴートだ。誰か犯人を仕立てあげることによって、ストーリー立てが楽になる。サポーター目線だと思う」と指摘した。

 さらに別の視点から、『批評は期待の裏返し』という意見もあるが、選手はどう感じているのだろうか。

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 鄭氏は「森保監督のコメントにもあったが、“賞賛も批判も両方受け入れる。関心を持ってくれてありがとう”という言葉は、その通りだと思う。好きの反対は嫌い、ではなく無関心。批判は仕方ないと言っているのは、そういうこと」と述べた。

 さらに「結局、勝ったら嬉しいし負けたら悔しい。僕も現役時代には、上手くいかない時は本当に苦しかった。今、現役を終えて客観視する立場になって初めて分かるのは、それだけ本気だったんだなということ。応援している人も、人の道を外れてまで批判するのはそれだけ本気で応援しているということ。その部分には感謝している」と加えていた。

 様々な反応が寄せられるファンの声は、プレーヤー自身の技術向上に繋がった経験はあるのだろうか。

 三都主氏は「繋がる。パワーにもなる」と語る一方、鄭氏は「僕は批判を一生忘れない」と話し、「悔しさは一生残る。でも、何を言われようが言われまいが、僕は頑張れる。批判されようが賞賛されようが僕は同じことをする。誰かの批評をきっかけに頑張った訳ではなく、自分の人生だから責任を持つ」と加えていた。

 “手のひら返し”も目立った今回のサッカーワールドカップ。今後のスポーツの応援のあり方を考える機会にしたい。
(『ABEMA Prime』より)

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