コロナ禍で自傷行為をしている人の割合について、国立成育医療研究センター「コロナ×こども本部」が調査した結果、小学生(4~6年生)14%、中学生12%、高校生で25%だったことが分かった。
【映像】“裏アカ”から引用RTで…デジタル自傷が止められないナナさん(高校1年生)
“デジタル自傷行為”は、他人に対してネガティブなコメントを書く誹謗中傷と違い、自らの裏垢や匿名アカウントで他人になりすまし、自分を中傷する。近年、アメリカでは若者のセルフ・ネットいじめ、通称“デジタル自傷行為”が問題になっている。とあるアメリカの調査では、10代の5〜9%が“デジタル自傷行為”を行っていることが明らかになった。
言葉にできない“しんどさ”を抱えている若者たち。高校1年生のナナさん(仮名)もその一人だ。TikTok用の動画を撮り、自撮りするナナさん。自撮りはSNSにアップ。しかし、その後の行動は……
「裏垢を使って、誰も知らないような垢を使って自分の(画像付き)投稿を引用リツイートする。その引用リツイートで『かわいくない』とか『整形しろ』みたいなことを書く。自作自演のようなものだと思う」
週に1回ほど、他人になりすまして“裏アカ”で自分を中傷するナナさん。背景にあるのは、不安な気持ちだ。
「他の子の自撮りと自分の顔を比べて『なんでこの子はかわいいのに私は加工しないとかわいくないんだろう』って、自信がなくなったときに書いちゃう。『いやいや、この子かわいいよ』や『そんなこと言わないであげて』とかリプライが来ると『ああ(自分は)存在していていいんだ』と思える。中毒性がある。一回やると止められなくなっちゃう」
1年前、他人から「かわいくない」と書き込まれた際、周囲が擁護してくれたナナさん。それをきっかけに「うれしいと思って、自作自演するようになった」という。
一方で、徐々にデジタル自傷がエスカレートした人もいる。アヤさん(仮名・28歳)は「最初は単純な『かわいくない』や『面白くない』みたいなのが多かったが、だんだん『生きている価値ない』『世界一ブス』『親の顔を見たい』とか、そういうのを自分で書いた」と明かす。
当時キャバクラに勤めていたアヤさん。お店の情報が書き込まれるネット掲示板で他人になりすまし、自身の悪口を投稿した。
「自分の悪口を先に書いておいて、知らない人から自分が悪く言われるのをセーブするみたいな。『面白くない』や『かわいくない』だと、乗っかって来る人が多い。えげつない内容を投稿しておけば、あまり(それ以上書く人が)いない」
人から批判される恐怖から、徐々に過激な言葉を使うようになっていったアヤさん。きっかけは些細なものだった。
「掲示板には話題が出る子と出ない子がいる。私は出ないタイプだった。今思うと出ないに越したことはないのに、当時はそれがちょっと寂しかった。そこで、掲示板に『アヤどう?』と一言書いたのがきっかけ」
デジタル自傷は、キャバクラの売り上げにも影響が出た。「良くも悪くも掲示板に書かれたことで『どんな子なんだろう』と初来店やネット指名があった」という。
「夜の世界の掲示板は『自演』と言われることが多い。ポジティブなことを書くと『自演じゃん』みたいな。逆に『良くなかった』『おもしろくない』だと、あまり自分で自分を批判する人はいないので、自演と言われることもなく話題には上がる。あと、自分で書いたことなので、あまり傷つかない。一瞬ちょっと傷ついたあとに『これ書いたの自分だった』と思い直して、スルーできる。他人からだと、普通に傷つく」
目に見えないため気付きにくく、手助けするのも難しいデジタル自傷。多様化する若者のSOSをどのように受け止めたらいいのか。
若者のネット事情に詳しいITジャーナリストの鈴木朋子氏はネットでの自傷行為の危険性について、こう指摘する。
「ネットの世界で誰かに叩かれている人は『この人は叩いていい人なんだ』という認識になりがちだ。最初は自作自演で中傷したとしても、何かがきっかけで他人から中傷が来るようになって、精神的ダメージを受ける可能性があり、危険だ」
自傷行為について発信している、児童精神科医の山口有紗氏はデジタル自傷に関して「まだ知られてない部分が多い」と話す。
「お話を聞いていても、おそらく人によってその意味合いが違って、全体像を捉えられてない段階なのではないか。自傷行為の意味は大きく分けて2つある。1つ目は対処行動としての意味だ。ナナさんやアヤさんがおっしゃったように、先に手を打っておくことで後の痛みを和らげる防御だ。ナナさんのように『自分を守ってくれる人がいるんだ』と安心できる」
「2つ目はトラウマの症状としての意味だ。人間はつらい体験をすると、いろいろな反応が起きる。再演という行動で、自分ではコントロールできないが、同じようなつらかった環境に身を置いてしまう。イジメに遭った人が、つらかったはずなのに同じようなことを無意識のうちにやってしまう。中にはそういう理由で、無意識にデジタル自傷をやってしまう人もいるのではないか」
親からの承認じゃ物足りない、他人に承認されたい気持ちもあるのだろうか。
山口氏は「特にティーンエイジャーになってくると周りの影響を受けていく。その中で心の健康を保っていくわけだが、親から受けていた承認が、仲間の中で自分を確立していくことで『自分はこういう存在なんだ』と確かめていく時期でもある。周りからの広い承認に不安を持ち始める時期と合致するのかもしれない」と答える。
相談されたらどのように受け止めればいいのか。山口氏は「ある女の子に言われてすごく印象に残っている言葉がある」と話す。
「『何でも相談してねという大人が一番信用できない』と。本当にそうだなと思う。『相談して』と私たちは簡単に言うが、相談は何に悩んでいるかまず気づいて、相談先がいくつか思い浮かんで選んで、それを人が分かる言葉に言語化してさらに返ってくる反応を受け止めなくてはならない。けっこう複雑なプロセスだ。小さいSOSは行動や生活リズム、着るものに出ているはずだ。『相談して』と丸投げするのではなく、深掘りしなくてもいいけど、そういうのにちょっと目を向けてあげるステップがすごい大事なのかなと感じる」
中には悩む人に向けて「#いのちSOS」や「チャイルドライン(18歳まで)」「あなたのいばしょ」といった相談窓口がある。
「『この相談を私がしてもいいのだろうか』と思う人はすごく多いと思う。本当にSOSの手前の手前の手前の手前ぐらいでかけてみてほしい。かける練習だと思ってかけてみるぐらいな感じで、連絡してもらってもいいと思う」
当時を振り返って「発散に近い部分や注目されたい気持ちも少しあったのかもしれない。暇だったんだなと思う。今は全然(デジタル自傷を)やっていない」と話すアヤさん。どうしてやめたのだろうか。
「やめられたというか、ちょっと今推しがいる。推しの現場を追いかけるのに今すごく忙しくてそんな場合ではない。新型コロナでライブがなくなったが今年復活した。久しぶりにライブに行ったらめっちゃ楽しくて。そこからずっと現場を追いかけている。今は(掲示板を)見てもいない」
(「ABEMA Prime」より)