アルゼンチンがクロアチアを、フランスがモロッコを破り、決勝進出の2チームが決定したFIFAワールドカップ2022。試合内容や選手の活躍と合わせて注目が集まっているのが審判員の存在。公平かつ正確なジャッジが求められ、判断1つで勝敗を決することもある重要な役目だ。しかし、その役割について考えさせられる試合があった。
準々決勝のオランダ対アルゼンチン戦。強豪同士、意地と意地のぶつかり合いとなったが、試合はラフプレーが目立つ展開に。審判がイエローカードを出す場面が頻繁に訪れたほか、両軍選手が入り乱れ、あわや乱闘の小競り合いで収拾がつかなくなる場面も。この試合はPKの末、アルゼンチンが勝利したが、イエローカードが18枚も出される後味の悪いものになった。試合をコントロールできていなかったと審判に批判が集中した。
「審判はカードを出しすぎだ。重要な試合であんなジャッジは感心しない」(アルゼンチン代表・メッシ選手)
一方で、誤審がなくなるよう導入されたVARにより、スペイン戦での日本代表・三笘選手のラストパスが生まれたのは記憶に新しいところだ。
審判の役割、そして集中する批判に何を思うのか。14日の『ABEMA Prime』で、ワールドカップのピッチに立った経験を持つ元審判に聞いた。
2010年の南アフリカ大会と2014年のブラジル大会で副審を務めた元サッカー審判員の相樂亨氏は、この試合について「『レフェリーが壊した』と言われるが、そもそも選手同士とベンチもケンカになっている。そこから『押さえろ』と言われても、なんとかできる可能性はあるが、誰がやってもこれに近い状態になっただろう。ケンカ腰で、相手へのリスペクトが低い戦いになっていた」との見方を示す。
メッシ選手が苦言を呈した一方で、FIFAは「PKやファウルなどの決定は優れていた」と評価している。「レッドカードを出すやり方もあるが、それを見ると選手は余計に興奮する。『何でうちだけなんだ』『向こうもだろ』と誘い出したりもするので、赤を出せば収まる、というほど簡単なものではない。違う意味で荒れる可能性もある」。
では、ボールがラインを割ったかどうかの判断が難しいシーンはどう判定しているのか。相樂氏は「出たか・出ていないかよくわからない時は“出ていない”。ボールがはっきり出た時だけ“出た”と判定する」と話す。
「基本はゲームだし、裁判をやっているわけではない。みんなでプレーしているので、わざわざ微妙なシーンで出たとせずに、ボールがすべて出た時にだけ止める。浮いた球は余計難しいので、迷ったら続けなさいということだ」
“三笘の1mm”は「『出ていない』と私も言う」と相樂氏。実際の判断の流れについても明かす。
「副審が真横から見たものに対して、『絶対に出たという確証はあるか?』と聞かれ、『絶対出たとは言えない。証拠はない』と返すような形だ。ビデオで見てもこれだけ微妙なわけで、『何の証拠があって旗を上げたのか?』となるので、旗を上げない。だから、『出ていない』でも全然おかしくない。選手は出たと主張するだろうが、『絶対出たとは言い切れない』と私は言う」
しかし、微妙な判定についてはVARに委ねるのであれば、審判員の役割も変わってくるのではないか。
「判断が微妙な場合は、ゴールの直後に『ディレイしておけ』となる。その後、主審が『俺は出た(または出てない)と思うけど、VAR見て』と伝える。すると副審の役割は減り、ラインを出た・出ないの判断や、オフサイドに関しては、AIなどに任せる時代が来ると思う。主審と副審の配置も変わってくる可能性はあるが、ピッチに主審1人だけというのは難しい」
VARに対しては、「判定に時間がかかる」「厳密すぎるオフサイド判定」「PKの増加」などの要因から「サッカーがつまらない」という意見が出ることもある。相樂氏は「結局、VARが入っても入らなくても批判は出る」とした。
将来的に審判にはどのような能力が求められるようになっていくのか。
「昔はその人の腕力というか、“俺の言うことは絶対だ”“この人が言うなら”というようなパーソナリティがすべてだった。それに比べると、今は自分で判定しながら、耳からの情報とVARとのトークを踏まえ、全てを使ってベストチョイスを選択するという情報処理能力になってきている」
(『ABEMA Prime』より)
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