カタールW杯で席巻の中国マネー…代表不出場でもなぜ? 親近感は「欧米諸国への嫌悪感と裏表」
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 アルゼンチンの36年ぶりの優勝で幕を閉じた「FIFAワールドカップカタール2022」。リオネル・メッシ選手の悲願の戴冠もあり、世界中のサッカーファンの心に足跡を残した大会となった。

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 大きな存在感を放っていたのは、選手だけではない。試合会場では「万達」「蒙牛」「Vivo」「Hisense」をはじめ、インパクトのある中国企業の広告が多数掲載されていた。実際にカタールで取材したテレビ朝日・外報部の張予思デスクはこう話す。

「習近平主席のサッカー好きは知られた事実です。中国はW杯招致の話もあり、国を挙げてサッカーを推進していますが、何よりも中国国民のサッカーへの熱量が大きいんです。国営テレビのCCTV(中国中央テレビ)でW杯はもちろん、欧州リーグなども無料中継されています。ナショナリズムよりも単純にゲームを楽しみたい層も多く、中国代表への呆れから日本をはじめとしたアジアチームへの評価も高いです。学校でも手軽なスポーツとして認識されています」(以下、張デスク)

 中国では視聴率1%でもかなりの人気番組ですが、カタールW杯の決勝戦は深い時間だったにもかかわらず、CCTVの中継の視聴率は最高5.5%を超え、瞬間占有率は70%を上回りました。

「2018年に行われたロシアW杯におけるFIFA報告書によると、中国の視聴者は6億5570万人で、世界の18.4%を占めていたことがわかっています。そもそも、中国代表はW杯に出場していませんが、視聴者数を見ても『商機』があり、企業としては国内消費者に向けて『国際的に有名な企業』だと宣伝したいですし、十分広告として回収できるのです」

 中でも試合会場で目立っていたのは「蒙牛」の広告だ。

「『蒙牛』は中国でかなり有名な大手乳製品会社です。『蒙』はモンゴル、『牛』は乳製品で、内モンゴルの牛乳を意味しています。ツートップであるライバル会社の『伊利』とは激しい首位争いをしていて、海外では20を超える生産基地や企業の買収例もありますが、メインターゲットは中国国内です。また、『蒙牛』は国営企業より上のランクの中央企業であることから、カタールでは政府と一緒に青少年サッカー選手の育成と、中国文化の宣伝をやっています」

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 W杯で「中国企業の本気度がわかった」という張デスク。蒙牛は決勝に進んだアルゼンチンとフランス両チームのエース(リオネル・メッシ、キリアン・エムバペ)とCM契約をした。

「今回のW杯でスポンサー契約が取れなかった蒙牛のライバル『伊利』も一気にアルゼンチン、ポルトガル、スペインとドイツ代表とのスポンサー契約をしました。ほかにもクリスティアーノ・ロナウドやネイマールとも契約するなど、ほかの中国企業もW杯でスポーツマーケティングを大展開しています」

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 上位スポンサーの中に中国の企業は4社と国別では最多となった。

「蒙牛のように中国語の広告をメインに出し、国内向けにアピールする会社は多かった印象です。一方で、グローバルに展開する企業のHisenseやVivoは世界に向けての宣伝も視野に入れていました。中国企業とFIFAはスポンサー料について公表していませんが、中国メディアがロンドンの調査会社の数字として、カタールW杯では中国企業が14億ドル(約1900億円)で、アメリカ企業の11億ドルを上回っていると報道しています。ちなみに今回日本企業は一社もありません。業績の問題や、2015年ごろのFIFAの巨額汚職問題の影響で撤退した企業も多かったのです。FIFAのスポンサーは『1業種1社』とオリンピックなどより厳しいので『日本企業が撤退したおかげで、中国企業がスポンサーになれた』との本音も聞こえていました」

 中国の存在感は、スポンサーだけではない。W杯直前、中国は2頭のパンダをカタールに贈った。

「今カタールに中東初のパンダがいます。中国が協定に基づいて贈ったパンダで、15年間カタールにいる予定です。現地では2頭だけのために12万平方メートルという広すぎるパークが建設され、中のパンダも生き生きしていたように見えました。カタールは非常に暑いのですが、空調設備もしっかりしていました。ドーハからけっこう距離があり、周りには砂漠だけですが、中東各国からお客がわざわざ来るほどです。見に来た客に話を聞くと『中国から素晴らしいプレゼント』をもらったと喜んでいました。館内は中国語の併記がされ、“中国からの贈り物”ということがよく分かります」

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 張デスクによると、ワールドカップグッズの7割が中国製であり、シャトルバスには中国製のEV(電動)バス、メインスタジアムの建設を中国企業が請け負うなど、中国外務省は大きく宣伝しているという。

 現地の人々は、中国が存在感を強めることにどのような反応を示しているのか。

「3週間滞在し取材した結果、現地の人たちは中国への親近感を強く持っていました。出稼ぎ労働者を含むカタール在住者だけではなく、観戦に訪れていた中東の国々の人も『中国は我々の友達なんだ』と話していました。移動でUberを使ったとき、運転手は『最近買ったこの車は中国製で、安くて使いやすい。中国を貶めているのは欧米のプロパガンダだ』と言っていました。その裏には、植民地時代の歴史に加え、カタールW杯や中東、イスラム教を厳しく批判する欧米諸国への痛烈な嫌悪感があるのです」

 取材中に感じた、現地の人たちが持つ欧米への嫌悪感。カタールに到着して早々、、テレビ朝日の取材チームが現地の人に「日本を応援している。初戦でドイツに絶対勝って!」と言われたという。

「欧米への嫌悪感と、日本や中国への親近感は裏表になっているんです。現地の人は『ドイツをはじめヨーロッパは我々をけなしてきた』『カタールは安全、ロンドンとは違う』などと話していて、欧米に対する苛立ちを持っていました。日本戦を見て感じた人もいるかもしれませんが、日本への声援が多かったのはそういった背景もあったのです。カタールをはじめ中東の国々の人は、ヨーロッパの相手国を応援するので、ほとんどの試合でヨーロッパチームがボールを持った途端大ブーイングが起きていました」

 これまでアラブ世界における連帯を重視してきたカタール。W杯を通してアジアとしての自己認識を強めました。張デスクは「日本と中東が手を結ぶチャンスだ」と話す。

「カタールは『欧米と違う価値観とシステムで、世界で自分の位置を探りたい』という意志が強い。中国や日本は当然パートナーとして見られます。日本は西側にいますが、現地では『欧米とは違う』と思われているので、日本と中東が協力を深めるチャンスでもあります」

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