政府は22日、安倍元晋三総理大臣の「国葬」の検証について、有識者21人へのヒアリング結果を公表した。
【映像】「国葬」検証 200ページにも及んだ報告書のもくじ(画像あり)
ヒアリングは、岸田総理が一定のルール化を目指す中で実施され、法的根拠、国会との関係、国民の理解、国葬の対象者などが論点だった。報告書は200ページにも及び、野党などが指摘した法的根拠に関しては、有識者によって意見が分かれた。また、具体的に国葬実施の基準作りにおける今後の対応については、示されなかった。
報告書は有識者の意見を掲載するのみに留まったが、意味はあったのだろうか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、実際にヒアリングに参加した有識者と共に考えた。
行政法が専門の成蹊大学法学部教授・武田真一郎氏は、ある日「内閣府から大学に電話があった」と話す。
「新聞やテレビの取材と同じように、大学を通して『意見聴取の申し込みが来ている』と連絡があった。まず、概要がメールで送られてきて、実際に内閣府の方がお二人ずつ、私の研究室に2回お見えになった」
22日にヒアリング結果が公表されるまでは「意見を聞かれたことを含め誰にも話さないでほしいと、何度も言われた」という武田氏。「私以外にどのような有識者が意見を聞かれたのかは、全然分からなかった。人数は50人くらいにヒアリングしていると言っていたが、実際には21人だった。謝金もあった」と明かす。
聴取された内容に政府のチェックは入ったのだろうか。
「質問事項は事前にメールで来ていた。私も取材を受けるときは、事前にメモを作る。自分の発言の趣旨が変わってしまうと困るからだ。メモはお渡しした上で、いろいろ勝手なことをしゃべった。後日『これでいいか?』という文書が届く。それを見て、さすが内閣府の官僚は文章をまとめるのがうまいなと非常に感心した。私が言いたかったことを私以上にうまくまとめてくれた。チェックは数回あった」
一方で、日本学術機構代表理事で政治学者の岩田温氏は「最初、いたずらメールだと思った」と話す。
「最初、私のところにメールが来て、怪しいと思った。国葬儀に呼ばれてもないのに、なぜ国葬儀について、こんなことを言ってくるのかと思った。『他の有識者メンバーはどんな人がいるのか』と聞くと『それは答えられない』と言われた。謝金は時給で6100円だったが、辞退した。謝金額は人によって違うのだろう」
内閣府の公表によると、意見聴取は50名に打診され、了承したのは21名。打診を受けた半数以上が断ったことになる。岩田氏は「怖いことだ。政府のヒアリングに答えることは悪いことでも何でもない。ただし、答えると『自分や家族の命に関わることになってしまうのではないか』という不安が勝って、辞退された方が多かったのではないか」と指摘する。
「具体的に申し上げると、安倍晋三元総理がいきなり暗殺された。その後には、私とは全く考え方が違うが、社会学者の宮台真司さんが襲撃された。つまり、言論を暴力で封殺していいという、危険な兆候になっている。あるいはその兆候をひしひしと感じていたからこそ、半数以上が辞退された結果になってしまったのでは。私自身も若干躊躇した。怖いと思った」
文書の中で削除された意見などは一切ないのだろうか。
「まずヒアリングを報告書の形で作ってくれる。私もそれを見て、言いたいことの意が尽くせてないと思ったところは全部書き直した。まさに自分の主張がそのまま入っている報告書になっていると思う。公表された文書には、21人分の意見が載っていると考えていい」
また、国葬実施の意義について、岩田氏は「我々はテロに屈しないと示せた。そこに最大の意義がある」と述べる。
「1つは言論封殺を絶対に許さないということ、2つ目は民主主義社会の根本は選挙だ。選挙の最中に国民に向かって主張している政治家、しかも、元総理大臣の暗殺を是認するようなことがあってはならない。それを内外に対して示すことができた」
一方で、武田氏は「選挙中だったのは偶然だ。国葬をする理由にはならない」と異議を唱える。
「岩田さんがおっしゃったように、暴力に言論が屈してはいけない。ただ今回、選挙の演説中に安倍元総理がこうなったのは、偶然だったのではないか。山上徹也容疑者が、選挙や民主主義を破壊するために、安倍元総理を殺害したわけではないと思う。もし、安倍元総理が選挙中ではないとき、例えばゴルフ中に球が当たって亡くなったとしたら、民主主義に対する挑戦ではないので『国葬をやらなくていい』となってしまわないか」
武田氏の意見に、岩田氏は「一番狙いやすいのは選挙中だ。国民の前に出てきて、政治家が応対している。その場面を狙うのは当然だ。山上容疑者が狙ってなかったと思うなら、武田さんは民主主義に対する理解が甘いと思う」と反論。「例えば岸総理と同じように、90歳くらいまで生きて畳の上で亡くなったなら、国葬儀にはならなかったと思う」と述べた。
政府は安倍元総理の国葬費用について、およそ12億円と公表した。費用を含めて、法律上、どのような形の葬儀が適切だといえるのだろうか。
武田氏は「半額でも反対の声は出る」とした上で、こう話す。
「国葬という形で全額国費で、しかも国民全体に弔意を求める形で行うのは、やはり問題が残るのではないか。法治国家だから本当は法律を作っておくことが望ましい。誰を国葬にするかは、すごく議論が分かれる問題だ。あらかじめ法律で基準を作っておくのは、ほとんど不可能に近い。ただ、だからといって国民の代表である国会が関与しないで決めていいかというと、そうはならないと思う。国葬の手続きや予算は、あらかじめ法律で決めておき、具体的に実施する時は『国会の決議を必要とする』などの形で法律を作っておけばいいのではないか」
国民の理解があったかどうかも重要な論点だ。
武田氏は「決め方のプロセスを見ると、あれよあれよという間にまず閣議決定をしてしまった。国会における説明も後付けだった。これはやっぱり順序が逆だ。まずは、きちんと国民の代表が国会で議論する。国会で議論し、決議した上で、閣議決定をする。これが本来の筋だと思う」と述べる。
「今回は法律の根拠がはっきりしなかったのだから、従来の中曽根康弘元総理の葬儀のあり方を踏襲し、内閣葬なり国民葬でやればよかったんじゃないか。違憲かどうかだが、憲法20条3項を見ると『国は一切の宗教的行為をしてはならない』と規定されている。この20条3項との議論がほとんど今回なされてない」
武田氏の説明に、岩田氏は「今『順序が逆』とおっしゃったが、法律的に考えると順序は逆ではない」と指摘。「基本的に三権の長、例えば衆院や参院の議長、最高裁判所の長官に相談しておいて、閣議決定の形を作っておくこと自体は政治的にある。違法行為でも全くない。合法的にやっているのに、それがまるで国会を軽視しているように言うのはおかしい」と述べた。
「国葬儀をやってはならないという法律はない。葬儀そのものが宗教的かといわれると、非常に難しい問題だ。一般論で考えたら『霊の存在を信じる自体が宗教だ』といえる。だが、法律の『信教の自由』は、そういうものにとらわれるべきではなく、特定の宗教を持ってきて、その宗教で、例えば安倍元総理の国葬儀を『じゃあ旧統一教会のやり方でやりましょう』というと問題になる。そういうことだ」
(「ABEMA Prime」より)
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