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 言葉の違いや育った環境の違いを超えて<家族>を作ろうとする人々の姿を描いた映画『ファミリア』(2023年1月6日公開)で、役所広司吉沢亮が親子役初共演。陶芸工房で肩を並べて一緒に土をこねたり、ろくろを回したりして親子の絆を固め合った2人が、仕事をする上での“モチベーション問題”を語り合う。

吉沢亮、役所広司の芝居を間近に見て「凄まじい説得力を感じました」

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 役所が演じたのは、山里にある一人暮らしの自宅兼工房で昔ながらの焼き物作りに勤しむ神谷誠治。吉沢は誠治の一人息子でアルジェリアに赴任中の学を演じている。現地で出会った妻を連れて一時帰国した学と誠治のひと時の家族の時間に、隣町に住む在日ブラジル人と半グレのトラブルが忍び寄る。

 役所との初共演に吉沢が「物語の魅力もさることながら、役所さんと一緒にお芝居ができることが出演する理由の一つで、間近で役所さんのお芝居を見たいという強い思いがありました」と感激を口にすると、役所も「こんな土臭い映画に出てくれてありがたい」とユーモア交じりに初共演を喜ぶ。

 念願叶って役所の芝居を間近で見た吉沢。「その場に(誠治が)実際の人間として存在しているというか、役所さんの佇まいから陶器職人としての誠治の日常が見えるようで、凄まじい説得力を感じました」と舌を巻くと、役所は「立派な息子ですねえ」とひと笑い。「吉沢さんは自然で気負いもなくて、とても頼もしかったです。誠治にとって学は一番大きな存在になりますから、吉沢さんが学としてシーンの中に存在してくれていて助かりました」とキャリアを超えて互いにリスペクトし合っている。

役所広司、自宅駐車場で必死に陶芸の練習

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 誠治の工房で肩を並べて土をこねる場面は、親子の絆を感じさせる重要なシーン。憧れの名優との共同作業に吉沢は「まさに奇跡的な瞬間」と喜ぶ一方で、焼き物作りの苦労も実感した。「大きな土の塊を両手でこねて形成前の独特な形にするのが難しくて。こねながらも『本当に形になるのだろうか』と不安でした。土をこねる過程も練習が必要で、手のひらと背中へのダメージも結構あって大変でした」。

 この吉沢の感想に役所は同感するも「でも彼は結構器用でした。大河ドラマの撮影もあって練習時間もそこまで取れなかっただろうに『やるなあ』と思って見ていました。僕なんかこねる過程で腰が痛くなったりしてね」と苦笑い。しかも役所はろくろを回して器を形成する一連の過程にも自ら挑んだ。その見事な腕前の裏には、自宅駐車場での猛特訓の日々あり。「制作側の許しを得て、撮影に入る前からろくろと土を自宅の駐車場に持ち込んでクランクインまでずっと練習。器の量でいうと30個くらいは作りました。近所の方々は『どうしてこんなところに泥が?』と不思議に思ったでしょうね」と熱のこもった役作りを明かす。

役所広司、佐藤浩市と11年ぶりの共演で見せた安定感「浩市ちゃんのことは信頼しています」

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 役所と吉沢の初共演もさることながら、凄まじい共演が物語中盤に待ち受ける。誠治(役所)の幼馴染で刑事の駒田として登場する佐藤浩市だ。役所とは映画『最後の忠臣蔵』(2010)以来約11年ぶりの顔合わせ。同時代を駆け抜けてきた映画俳優の2ショットに鳥肌の立たない映画ファンはいないだろう。吉沢もその一人だ。「お二人の共演シーンは『素晴らしい』の一言です。物凄い画だなと。経験値が僕なんかとはレベルが違い過ぎますから、何が凄いのか言葉で説明が出来ないくらい凄いことだと思いました」と畏敬の念。

 役所は「吉沢さんにはまだ皺も白髪もないもんね」と笑わせながら、佐藤との久々の共演に「作品での共演回数は少ないかもしれないけれど、僕は浩市ちゃんのことは信頼しています。メールでも『なかなか飲めないね』なんて時々連絡を取り合ったりしています。今回は幼馴染という設定もあって、落ち着いた感じで演じることができました。作品のアクセントとしても2人の中年親父の会話は面白いと思います」と見どころに。吉沢は2人の知られざるプライベートな関係性に「何十年にも渡り日本の作品を支えてくださっている方同士が連絡を取り合っているなんて素敵です」と感動していた。

モチベーション問題に悩む吉沢亮に役所広司がアドバイス「役者とは人間を演じるものだから」

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 さらに、インタビュー中には、“モチベーションの維持”に悩む吉沢に、役所が自身の経験からアドバイスする場面も見られた。

――映画の内容とは少し離れて、お二人にお聞きしたいことがあります。それは仕事をする上でのモチベーションについてです。お二人は何をモチベーションに今の仕事に向き合っていますか?

吉沢:それこそ今の僕はモチベーション問題に悩まされている最中かもしれません。というのも、ちょっと前までは『もっといい芝居をしたい!』『凄い人と共演したい!』『もっといい作品に出たい!』というメラメラとしたものがモチベーションになっていましたが、最近は『自分のために頑張るぞ!』だけではモチベーションの維持は難しいのではないかと思い始めていて、何をモチベーションにすればいいのか迷い中です。とはいえモチベーションがないと言いながらも、やはりこの仕事は大好き。この大好きという感情があるうちは、与えられた役割を精一杯務めなければという気持ちを常に持っています。

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――役所さん、悩める吉沢さんにアドバイスをお願いします!

役所:いやいや、素晴らしい悩みだと思いますよ。今思うと自分も吉沢さんの歳くらいのときに、彼のような悩みと真剣に向き合っていれば良かったなと思うくらいです。自分の若い頃なんて酒を飲んではバカなことばかりをしていましたから。でも役者とは人間を演じるものだから、役者仲間や映画スタッフなどの人間と付き合っていかなければいけないわけで、人間とは実際に付き合ってみないとわからないこともある。そう考えると無駄な回り道をしたかもしれないけれど、必要な時間であったとも言えるわけです。

――役所さんは日本国内はもちろんのこと、海外でも高く評価される稀有な日本人俳優です。キャリアも長いし、賞も沢山受賞されている。ある意味、もう頂点に立っているわけですが、何にモチベーションを感じているのでしょうか?

役所:日本の作品だけではなく世界中の映画がこの世の中にはあって、そこで面白い作品を観て感動したりすると、映画館を出た後に『俺も同じ職業で挑戦する場所にいるんだよな』と思ったりして、自分が今やっていることに対しての勇気が湧きます。自分ももっと頑張れば、自分が受けた感動と同じものをお客さんに届けられるのではないか…。そのような気持ちが演じる上でのモチベーションになっている気がしますね。

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取材・文:石井隼人
写真:mayuko yamaguchi

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