日本ヘビー級チャンピオンの但馬ブランドンミツロがデビューから4戦連続初回KO勝ちをマークした。6日にエディオンアリーナ大阪第1競技場で行われたヘビー級8回戦で、タイのスタット・カーラレックに1回1分15秒KO勝ち。ヘビー級で世界を目指す但馬の今後を占ってみたい。
試合の内容は語るまでもないだろう。体重127.5キロの但馬が体重94.5キロのスタットを圧倒した。パワフルな連打でスタットに襲いかかると、但馬のパンチを食らったスタットはバッタリとダウンして失神。電撃のノックアウトに会場は大いに沸いた。
実力差は明らかだった。但馬は試合後、「このマッチメークでどうなんだと言われるのは分かってる。まだ次の自分のステップをお見せする相手じゃなかったのは事実。強引になぎ倒せる相手だった」と正直に語った。一方で、そうした相手でもあっても、但馬がこの試合にひとつの意義を見いだしていたのは興味深い。
「日本ヘビー級の最高傑作と言われる(藤本)京太郎選手が2度戦って6ラウンドかかった相手を1ラウンドで倒せたことはよかった」
元日本チャンピオンの藤本は18年と19年にスタットと対戦していずれも6回TKO勝ちだった。藤本より早く倒したからといって「藤本より強い」という証明にはならない。ただ、日本のヘビー級を10年近く牽引した藤本を一つの物差しとして、自分の立ち位置を少しでも確認するという意味は確かにあった。
ヘビー級で世界を目指す。日本のボクサーにとっては気の遠くなるような話だ。その困難なミッションに本気でチャレンジした数少ない日本人ボクサーが藤本だった。K-1チャンピオンからボクシングに転向した藤本は2013年、56年間空位だった日本ヘビー級王座に就いた。日本のボクサーとして初めてヘビー級世界ランキング入りも果たした。
そんなトップランナーでさえ世界を目指す環境は厳しかった。まず、日本国内にはスパーリングをできる相手がほとんどいない。試合をする相手だっていない。もちろん大金を積めば海外の有力選手を呼ぶことはできるかもしれないが、簡単な話ではない。こうして対人練習は増えず、実力差のある楽勝試合が増える。このような状況で己を律し、実力を磨き、格上の外国人選手に勝とうというのである。
ヘビー級で世界を目指すなら、まずはこうした厳しい環境に打ち克つ強靱な意志を持たなければならないのだ。但馬にはそれがある。だからこそプロテストに合格したものの、コロナ禍の影響などでなかなかデビュー戦の決まらなかった但馬に、3150FIGHTの亀田興毅ファウンダーも手を差し伸べたのではないだろうか。
22年1月に大阪に引っ越し、KWORLD3ジムで再スタートを切ってから1年がたった。22年はプロデビューし、日本タイトルを獲得した。但馬は「2022年はリハビリの1年。今年からスタートだと思っている」と現在の心境を説明した。そして23年を迎え、次は自分よりも体の大きな選手との対戦を希望した。身長180㎝とヘビー級では背の低い但馬はより大きな選手と拳を交えることにモチベーションを見いだしている。
「僕は自分と同じくらいか、自分より小さいフレームの選手はやりにくい。自分より大きな選手のほうがやりやすい。小さい選手が大きい選手を倒すという面白いところが見せられると思う」
コツコツと試合を重ね、やがて海外に進出し、世界のトップ選手と拳を交えるというのが但馬の描く青写真だ。但馬はモデルケースとも言える藤本を例に上げて次のように語った。
「(藤本)京太郎選手は戦って、戦って、20戦以上してデュボア戦のチャンスをつかんだ。僕も戦って、戦ってチャンスをつかみたい」
藤本はボクシング転向から8年かけ、22戦目にイギリスのダニエル・デュボアと対戦するチャンスを得た。結果は2回TKO負けに終わったが、無敗の世界王者候補と拳を交えることができた。但馬は勝ち続け、いつか京太郎のようにチャンスをつかみ、そして勝利をつかみ取ろうとしている。
次戦は4月16日に代々木第2体育館で開催される「3150FIGHT vul.5」に出場する予定だ。ミッションインポッシブルとも言えるヘビー級世界王座獲得に向け、まずは小よく大を制するボクシングでファンを魅了しようとしている。
この記事の画像一覧