「試合に出なければ、次の年には無職のリスクがある」サッカー権田修一選手も直面した“オーバートレーニング症候群” 経験者が明かす苦悩と負のスパイラル
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 世界が熱狂したFIFAワールドカップカタール2022。ゴールキーパーの権田修一選手がスーパーセーブを連発し、日本の躍進を支えたが、過去には“ある病”に悩まされていたという。オーバートレーニング症候群だ。

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 主な症状は、激しい練習で自分の体を追い込んでしまい、休んでも疲れが抜けない慢性的な疲労状態のこと。体が動かないだけでなく精神的なストレスにもつながるという。権田選手も2015年に公表、半年間休養し、一時は引退も考えていた。

 元日本代表MFで現在はサンフレッチェ広島でアンバサダーを務める森崎浩司氏も現役時代、同じ症状に悩まされたと明かす。

「自分のプレーが納得いかなくて、そこから不眠症に陥ったんです。疲れも取れなくなってきて、その中でまたハードなトレーニングをしたり、試合に出場したりして、悪循環に陥りました」

 思い通りにプレーできない焦りから、さらに厳しい練習を積み重ねてしまう。それでも森崎氏は、当時アスリートとして活躍する以上、仕方がないと感じていた。

「常に競争なんです。ライバルもいる。どの選手にも調子が良いとき、悪いときがもあるが、良い状態をキープしたい。そこを追い求めすぎたんです」

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 ある日、プレー中に目の不調を感じた森崎氏。「ボールがぼやけて、二重に見える」。オーバートレーニング症候群と気づいたのは、いろいろな症状が出た後だった。

「自分の持ち味だった“ミスの少ないプレー”という特徴が失われて、ネガティブな思考に陥った。それまで不眠症の経験はなかったのに、寝る前にその日のトレーニングやプレーがすごく気になり始めた。ミスが増えている自分を許せない。疲労も抜けないので、朝起きて練習に行くのがつらい。体が重い。朝ご飯もなかなか食べられなかった」

 重症化する前にチームドクターに相談しなかったのか。

「一応、相談はさせてもらったが、当時は『寝られないこともあるよね』と言われてしまった。自分のプレーに納得いかないので、監督にも弱みを見せられない。『言い訳だ』と言われるのが嫌だった。最初はなかなか相談できなかった」

 その後、心療内科を受診し、睡眠薬や抗不安薬などを処方してもらったという。森崎氏は「もちろん、自分の体の不調に気づいていたが、最初はそれを理由に休むことができなかった」と話す。

「休養中は『このままサッカー選手に戻れないのではないか』という不安がつきまとっていた。今となっては、病気によって自分自身を知れて、自分にとってプラスに進んでいると思っている。うつ病で苦しんでいる方には、僕がこうやって復帰できて、仕事もできて、とても楽しんでいることを伝えたい」

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 休んだ場合、契約的には給料が減るのか。

「給料が減るというより、契約があるので、どうしても試合に出なければ当然評価に影響してしまう。だから次の年に『契約はありません』というケースもある。無職のリスクがある以上、休むことが難しい。頑張りすぎてしまう。アスリートは現役を辞めたら、いくらでも休める。そう考えると休まずにプレーやトレーニングをやり続けることにこだわってしまう」

 森崎氏が兄と共著で出版した『うつ白 〜そんな自分も好きになる〜』(TAC出版)には、現在、サッカー日本代表の監督を務める森保一氏のコメントが書かれている。森崎氏は、森保氏の言葉をどのように感じたか。

「森保監督は本当に話をしっかりと聞いてくださる方。病気に対しては『すべてを理解することはできなかった』と言われたが、理解しようとする姿勢を僕自身にしてくれる。僕の弱みを見せられるというか、なんでも話せる方だ」

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 アスリートに休むよう説得するのはどれほど難しいのか。

 スポーツメンタルコーチの東篤志氏は、サッカーのようなチームスポーツの場合「なかなかチームのスタッフに伝えることが難しい」と話す。

「チームスポーツと個人スポーツで考え方が違う。個人スポーツの場合は、1日単位で考えるのではなく、長期的に考え『今休むことが必要だよね』と納得できる。しかし、チームスポーツの場合、他の選手との兼ね合いやライバル、レギュラーに残らなければいけない中で、なかなかチームのスタッフに伝えることが難しい」

 東氏はトップアスリートだけでなく、アマチュア選手も気を付ける必要があるという。

「普通の疲労感と混同し、自分でも把握できなくなってしまう。アマチュア選手も『トップの人たちはすごい努力している』と思って、同じようにトレーニングしてしまう。学生の部活動も『練習をたくさんした方がうまくなる』と思ってしまう風土がある。逆に指導者がうまくコントロールして、選手に休養を戦略的に取ってもらう必要がある」

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 休養はどのくらい取ればいいのだろうか。

「競技にもよるが、1週間に2日くらいは休養を入れたほうがいい。トレーニングの法則でも、体を休めないと実際の筋肉が付かないという考え方もある。しっかり休養をとった後、モチベーションが高い状態で練習すると質も上がる。アクティブレストと言われる、軽く体を動かしながら休むのも効果的です」

 東氏によると、昨今ではチームが自分と向き合う時間を作るようになり、メンタルサポートの事例も増えてきたという。

「メンタルが強い・弱いと言われるが、自分を自分で把握できているかどうかが一番のポイントだ。そういった環境がだんだん欧米から日本にも浸透してきた。今後も取り組みを押し進めていく必要はあると思う」

(「ABEMA Prime」より)

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