“次元の異なる少子化対策”は本当に少子化対策になるのか 中室牧子氏「産む人のインセンティブになるかが重要」
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 今月23日、岸田総理は「次元の異なる少子化対策」を表明した。この対策が少子化問題にどのような影響を与えるのか、ニュース番組『ABEMAヒルズ』では慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子氏に話を聞いた。

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“次元の異なる少子化対策”は本当に少子化対策になるのか 中室牧子氏「産む人のインセンティブになるかが重要」
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 23日、岸田総理は施政方針演説で、日本は社会機能維持できるかどうかの瀬戸際とし「当事者であるお父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方や、若い世代の方々の意見を徹底的に伺うところから始める」「こども家庭庁の下で、今の社会に必要な政策を体系的に取りまとめつつ、6月の骨太方針までに将来的な予算倍増に向けた大枠を提示」「子ども・子育て政策は最も有効な未来への投資」と語っていた。

 30年近く政策課題とされていた“少子化問題”。岸田総理が表明したことは「とても大きなこと」だと中室氏は話す。

「総理の施政方針演説の中では、あまり具体的なことについて話にはならず、『今後こども家庭庁を通じて必要な政策を取りまとめます』という話だった。なので、具体の政策というのはわからないわけだが、今報道等で議論されていることだけを見る限りにおいて一つポイントがある。

 『今子どもがいる世帯に対する支援』と、将来子どもを産みたい、あるいは産もうと思っている若い人たちに対する『産むインセンティブ』になる支援は違う。今議論されている少子化対策というのは、『今子どもを持っている人の負担を減らすこと』にかなり偏りがあって、それが将来子どもを産みたいと思う人を増やすかどうかというとよくわからない。ここをしっかり議論していくことが重要かと思う。

 そして今までこの少子化対策は、非常に重要でありながら政治的なメインの一つにはならなかった。その時の政権や財源によって、かなり行ったり来たりしているところがあった。海外でも財源を理由に子育て世代への現金給付が打ち切られた例も少なくないので、こういう政策がちゃんと持続するものなのか、サステナブルなのか、というのを若い人たちは見ていると思う。『今はちゃんとやると言っているけど、5年後には続かないかもしれない』という考えを持たれてしまうと、子どもを持とうというインセンティブにはならない」

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 国の動きもある一方で、それぞれの地方自治体も動き出している。東京都では「18歳以下の都民に月5000円支給(所得制限なし)」ということで話題になった。これが少子化対策になるのか。

「これはどう出るかわからない。その理由は、有名なノーベル賞経済学者のゲーリー・ベッカーの『子育てにはその質と量のトレードオフがある』という有名な理論があって、子育て世帯に現金を給付すると、一人の子どもにかけるお金を増やそうと考えるか、あるいはもう一人子どもを持とうと考えるかというのは、どっちに出るかわからないということ。

 公立に行かせる家庭では学習費だけでも小学校から高校までおよそ500万かかる。私立に全部行かせたら二千万円近くかかるということで、月5000円の給付がもう一人子どもを増やす方向に働くかというと、今いる一人の子どもにかけるお金を増やす方にとどまるのではないかと思う。現金給付をする場合は、相当大きな金額ではないともう一人子どもを増やそうというインセンティブにはなりにくいのではないか。

 もう一つ重要なポイントとして、こういう少子化対策を自治体ごとにやるべきかどうかというのもよく考えないといけない。ヤードスティック競争といって、自治体間でも競争が起きる。例えば、『東京都が18歳以下の都民に月5000円を支給します』となったら、今子どもがいる世帯・もうすぐ子どもを持とうと思っている世帯で、神奈川や埼玉、千葉に住んでいる人が東京に移住しようと考えるかもしれない。

 このヤードスティック競争というのは、選挙の前に起こりやすいと言われている。子どもの医療費助成は、選挙の前に自治体の首長がどんどん対象を広げるという選択をした結果、子どもが24歳まで所得制限なしで入院費が無料というケースも存在している。24歳は乳幼児ではないし、こんなことが許されるのであれば『70歳の親で50歳の子ども』も無償化すればいいじゃないか、となってしまう。無制限にどんどん税金をばら撒いていこうというようなことに繋がりかねないリスクもある。(自治体間の)移動をおこすということが重要なのではなくて、数を増やすことが目的だとすると、それに資するお金の使い方であるかどうかということはしっかり見ていかなければならない」

(『ABEMAヒルズ』より)

“異次元の少子化対策” 本当に対策?
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