私立小学校 年間167万円(公立35万円)、私立中学校 年間144万円(公立54万円)、高等学校 年間105万円(公立51万円)。小学校〜高校まで全て私立だと合計1838万円、全て公立だと574万円。
もちろん、上記は「学費」の話である。トータルの金額もさることながら、私立と公立の「差」も気になるだろう。
そんななか、注目を集めているのが東京都の小池知事によって打ち出された、私立中学に通う子どもがいる家庭への政策だ。都の関係者によると、世帯年収が910万円未満の場合、年間10万円を助成することで最終調整をしているという。
たしかに、「理想の子どもの数を持たない理由」のアンケート結果を見ると「子育てや教育にお金がかかりすぎる」という要因が最も大きい。しかし、東京都の10万円は本当に効果が見込めるのか? 識者と共に分析してみた。
そもそもなぜ、私立に人気が集まるのか。そこには東京都の特殊性があるという。公教育に詳しい立教大学の中澤渉教授に聞いた。
「日本全国で見た場合、圧倒的多数は公立で、『公立に行けなかった子が私学に行く』という構図です。対して東京は私立高校に通っている生徒の割合が25.5%と高いのです(2022年 文科省「学校基本調査」)。その背景には公立高校の人材難があります」
なぜ東京だけが人材不足を抱えるのだろうか。
「東京は他県と比べて就職先の選択肢がたくさんある、というのが主な要因です。より魅力的な職場なんだと伝えていかないと、東京や首都圏で優秀な人材を集めるのは厳しいのです。また、労働時間など様々な課題を指摘されているとなおのこと、優秀な学生は離れてしまいます」(中澤教授)
その人材難が教育の質に影響を及ぼしているという。では、公立校が信頼と人気を獲得するにはどうすればいいのだろうか?
「生徒や保護者など教育を受ける側のニーズを把握すべきです。東京の場合、近隣の学校も多く、塾とも競合しているため、要求水準が高い人が多い。一律にこうすれば信頼が高まる、というものではありません。個別のニーズを掴む必要があるのです」(中澤教授)
ここからは教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授と共に最初の問い「東京都による私立中学の学費10万円助成は本当に効果が見込めるのか?」に立ち返ろう。
「おそらく、結果としては家計の負担を減らす方向に働かないのではないかと見ています。なぜなら、『私立中学の学費が上がるだけだから』です。過去に幼児教育の無償化を行なった際にも幼稚園の学費が上がりました。また、出産育児一時金の増額があった時も、その金額の分だけ産婦人科が値上げしました。政策を立案する側は需要サイド(生徒や親)に支援をすると供給サイド(学校など)がどんな対応をするか予想をしないと効果が減じてしまう。今回の政策が私立中学の学費上昇に繋がらないか、今後慎重に見ていく必要があります」(中室教授)
では、どのような政策を行えば事態は好転するのか。海外事例を見ていこう。
「バウチャーというクーポン券を配布している国もあります。バウチャーは習い事に充てるもよし、学費に充てるもよし、教育に関することであれば自由に使えます。なぜいいのかというと教育側で『使ってもらおう』という競争が起きるからです。今回の東京都の政策だと私立教育側としては頑張って教育の質を上げるインセンティブは何もありません。同じ金額を使ってもより効果が高い選択肢がないか探索していくことが大事なのです」(中室教授)
その他の政策立案・実装のポイントとロードマップを聞いた。
「王道のアプローチとしては、公教育の質を高め、公教育を選択する保護者が増えることで、保護者全体の負担を減らすというものです。道のりは長いかもしれませんし、短期的に成果は出ないかもしれませんがじっくり取り組む姿勢を政府に見せてほしいです。また、『理想の子どもの数を持たない理由』には、お金以外の要因もあります。子どもが小さい時は保育所の充実・働き方の改革にしっかり向き合って時間を捻出。高校・大学のタイミングではお金のサポートを考える。ライフステージにあった支援が必要なのです」(中室教授)
最後に、国民の意識改革も必要だと語ってくれた。
「実は15歳以下の子どもがいる世帯は全体の18%しかいません。ほとんどの人に子どもはいないけど、少子化対策にお金をかける意義をしっかりと伝え、納得してもらい、持続可能な政策を立案してほしいです」
(『ABEMAヒルズ』より)
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