香川県観音寺市にあるうどん店「本場かなくま餅 福田」。この店で働くユカさん(20)は、「仕事は楽しい。お客さんと会話するじゃないけど、接客するのが好き」と笑顔で話す。しかし、その裏ではある悩みを抱えている。
【映像】漢字が読めないユカさん(20) 「夜間中学」で学び直し
走り書きで綴られた順番待ちの名簿を見ながら、「これ(清水)とか、こういうの(山地)が読めない。『やま』まではわかるけど、一緒に働いている誰かに聞いたりしないと読めない」とユカさん。さらに、客から合計金額を聞かれた時、簡単な計算ができないことも。
その理由は、小学校時代にあった。「勉強ができる状況ではなかった。通っていたけど、いじめがあって勉強に集中できなかった。授業・勉強は本当に写すだけ、みたいな。頭に入ってはいない。当たり前のことが分からないのが辛かった」。
2022年の国勢調査で、「最終学歴が小卒だ」と答えた39歳以下の人が7031人いることが分かった。実際は義務教育制度のため、形式的には中学校を卒業している。しかし、病気による長期入院や、いじめや不登校で満足に教育を受けられず、「自分は小卒だ」と認識している人たちが多くいるようだ。
そうした人たちのために、文部科学省が全国に設置することを推進しているのが「夜間中学」。元々は、戦後の混乱で学ぶ機会が得られなかった人や、外国籍の人のために設置されたものだが、最近では若い世代の学び直しの場としても注目されている。
ユカさんも去年9月から通っている。「授業は楽しい。中学の時はあまり頭に入っていなかったから、知れてよかったと思う。当たり前のことを当たり前のようにしたいというのが一番。人に頼らず、自分でできるようになりたい」。
彼女が通う三豊市高瀬中学校の夜間学級で、全国初のある試みがスタートした。「岡山に夜間中学校をつくる会」理事長の城之内庸仁教諭は「まさに今困っている子どもたちが通うことができないか?という問題意識で、現役の中学生が通うことができる学校を作った」と話す。これまで夜間中学に通えるのは16歳以上だったが、増え続ける不登校生を救おうと全国で唯一、現役学生の受け入れを可能にした。
中川大貴さん(15)は、ここの夜間中学に通う中学3年生だ。「中学2年の夏休みに入る前、仲良かった友達とケンカになって行きにくくなった。ここに来るまでは、1年ぐらいはゲームばかり。部屋にこもったままだった」。
通学のキッカケは、学校の存在を知った親が大貴さんに提案したことだ。母親は「夜間中学にはいろいろな年代がいたり、外国の人もいるみたいだよという話をしたら、本人が『行ってみようかな』と。同じ年代ばかりじゃないのが、気が楽だったのではないか」と明かす。大貴さんは「楽しい。少しでも勉強ができる環境ができた」と語った。
高瀬中学校の夜間学級の時間割は、17時半から20時40分までの40分×4コマ(学齢期生徒のみ0時間目が存在)。城之内氏は「夜間中学は元々、学校に行っていない方の補完的なものだったというルーツがある。仕事が終わってから勉強に行っても4時間くらいしかとれないところで、年間時数を計算すると700時間ぐらいだろうと。文部科学省は、社会人生活の中で“義務教育段階のどこかで学びがあった”ということを加味しているので、中学校の1015時間までいかなくても、卒業認定はできるという解釈だ。一方で学齢期の子は社会に出ていないので、三豊市が検討した結果、ギリギリのラインが700~800時間で、文部科学省がそれを認定してくれた。足りない200時間分は、例えば英語と社会で共通するような学習内容があれば統合して見るとか、違う教科で合わせていく感じだ」と話す。
小中学生の不登校数は増え続け、2021年度は過去最多の24万4940人。「文部科学省も教育委員会も、不登校の問題については深刻に考えている。また担任の先生であれば週に何回も家庭訪問をしているが、それでも24万人という数字だ。昼間の学校が唯一の存在ではなくて、オルタナティブスクールであるとかフリースクール、メタバースのようなものもありなのかなと思う」(城之内氏)。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「どちらかというと、今通っている方よりも、通っていない方にどう届けていくかが大きな課題だと思う。それこそ私も不登校だったし、妹なんて小2から不登校だったが、我々に夜間中学の情報は届かなかっただろう。福祉の面からも合わせて、『じゃあ夜間中学でどうですか?』と提案をしていく最後のラストワンマイル、アウトリーチしていく人がいないと、意義があったとしても広がりは見られない気がしている」と疑問を呈した。
国が新規開校を推奨する一方で、大阪では生徒や教員不足を理由に統廃合が検討されていたり、沖縄では校舎の面積が基準を満たしていないとして設置が認められなかったりと、逆行する動きもある。
城之内氏は「統廃合は真逆のことだと思う。現実には生徒が減っているのではなくて、生徒の掘り起こしをしていないということだ。つまり広報をしていない。受け皿があれば行くのに、知らないから通えない。その意味では、大阪のことは危惧している。夜間中学は特別な時間帯でいろんな人が学ぶ場所、という観点からすると、そこは一度緩めてみたらどうかという声は確かにある」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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