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 前WBC世界ライトフライ級王者の矢吹正道が28日、名古屋市の名古屋国際会議場でIBF同級次期挑戦者決定12回戦に臨み、IBF7位のロナルド・チャコンに11回2分35秒TKO勝ち。世界王座返り咲きに大きく前進した。

 昨年3月、現L・フライ級2団体統一王者の寺地拳四朗にWBC世界王座を奪い返された矢吹が再起2戦目で勝負の一番を迎えた。相手は25連勝中というベネズエラの強豪、チャコンだった。

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 長身の矢吹がジャブ、右ストレートを打ち込み、チャコンが矢吹の打ち終わりに左フック、右ストレートを狙うという立ち上がり。ジャブが得意な矢吹が初回から右も積極的に打ち込む姿に、10日ほど前の公開練習で話していた言葉を思い出した。

「様子を見すぎると良くない傾向がある。多少もらってもいいから距離を詰めていきたい」

 とはいえ矢吹が試合前に得ていたチャコンの情報はゼロに等しい。積極的に立ち上がりながらも、2回以降は相手の情報収集に神経を尖らせた。チャコンは矢吹が打つと必ずリターンを返す。左フック、右ストレートの威力は十分だ。矢吹はジャブ、右を突き刺しながらチャコンの動きを見極め、リスクを極力回避しつつ試合を組み立てていった。

 序盤こそ危険な空気を醸し出していたチャコンだが、矢吹がスキのないボクシングを展開したことによって、徐々に攻め手を失っていく。情報収集を終えて余裕の出てきた矢吹はジャブに加え、右クロスでもチャコンにダメージを与えていく。試合を完全にコントロールし始めた7回、強烈な右を打ち下ろしてダウンを奪うと、さらに攻め立てて2つめを追加。8回にも右でチャコンをキャンバスに転がした。

 勝負の行方は明らかになりつつあったが、ここからベネズエラの実力者は意地を見せた。矢吹は「タフな相手だな」と逆転の一発を狙い続けるチャコンの粘りに驚きながら、そんな思いはおくびも出さずにコツコツとていねいにパンチを当て続けた。迎えた11回、矢吹がカウンターを当ててラッシュを仕掛けると、たまりかねたように主審が試合を止めた。

 矢吹は試合後、「5、6ラウンドに左小指を痛めた。11ラウンドには右手甲も痛めた」と意外な事実を明かした。アクシデントに見舞われながらも、「KOチャンスだったのでいくしかないと思った」との言葉通り、11回に作り出した一瞬のチャンスを逃さず、フィニッシュに持ち込んだのはさすがと言うしかない。

 この日の矢吹は生命線のジャブが相変わらず冴えわたり、随所に打ち込む右と左ボディブローもタイミング抜群で、攻撃にこれまで以上の厚みを感じさせた。加えて出るところは出て、守るところは守る、相手の出鼻をくじく、という試合運びの巧みさも大いに目を引いた。矢吹が再び世界タイトルマッチの舞台に立つにふさわしいボクサーであることを、だれもが認めたことだろう。

 IBF次期挑戦者決定戦を銘打たれた今回の一戦は、正確には2位決定戦という位置づけになる。2月25日、フィリピンでランキング4位のマーク・ビセンスと6位のレジー・スガノブが1位決定戦を行うことが決まっているからだ。矢吹も「自分が2位になって、1位の選手が先にチャンピオンに挑戦して、自分はその次になるのではないか」と見通した。

 矢吹は「半年か1年は待つかもしれない」と話す一方で、松尾敏郎会長は「次にでも挑戦させたい」と南アフリカのIBF王者、シベナティ・ノンティガへの早期挑戦に意欲を見せる。いずれにしても挑戦権は獲得したわけで、あとは時間の問題だ。

 矢吹は弟の力石政法とともに“兄弟同時世界チャンピオン”を大きな目標に掲げている。力石は今月6日、WBOアジアパシフィック・スーパーフェザー級王座を獲得し、東洋太平洋王座に続いて2本目のベルトを獲得した。現在の世界ランキングはWBO13位だ。

 大きなチャンスがいつ巡ってくるかは分からないが、“その時”はもう手の届くところまできているのは間違いない。ボクシング漫画の不朽の名作『あしたのジョー』の主人公とそのライバルからリングネームを名付けた異色の兄弟が夢に向かって大きな一歩を踏み出した。 

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