三笘薫はもう日本人の贔屓目を抜きにしても、異次元の存在になりつつある。
1月29日に行われたFAカップ4回戦でブライトンはリヴァプールと対戦した。プレミアリーグを含めると両チームの対戦は3度目だ。ブライトン目線だと、リヴァプールは1勝1分と勝ち越している相手。この日も試合を優位に進めたいところだったが、30分に先制を許す苦しい展開となった。
この段階では予想できなかった。日本人選手が試合終了後に英雄になるなんて、夢のような展開を…。39分にイングランド代表DFルイス・ダンクの得点で追いつくと、91分に三笘薫が得点を決めてチームを勝利に導いたのだ。
しかもその得点の決め方が半端じゃなかった。左サイドから蹴り込まれたエクアドル代表DFペルビス・エストゥピニャンのクロスを、ボックス内のファー寄りの位置でボールを受けたところから、三笘劇場が始まった。
「ドリブルだけの選手じゃない」三笘の選択とボールタッチ
浮き球のクロスを右足のアウトで止めると、ボールは三笘の間合いにこそ入ったが、自身の肩の高さ程度まで浮いてしまう。しかしここからのボールタッチとプレーの選択が神がかっていた。
身体能力が強みであるリヴァプール所属のイングランド代表DFジョー・ゴメスに、体を投げ出されて詰め寄られたが、三笘はキックフェイントで鮮やかにかわしたのだ。しかもボールを浮かせたままで。その後、少しでも迷えば他の選手たちに寄せられて、シュートチャンスを失うところだったが、迷わず浮いているボールをアウトサイドでシュート。コースも悪くなかったが、それ以上にブラジル代表が誇る名手アリソンの虚を突つけたのが大きかった。逆転弾を決めて、三笘は英雄となった。
この得点、第一に、ゴメスに寄せられた時点で、シュートを強引に打たなかった判断が素晴らしかった。リヴァプールという強豪が相手、しかも引き分けは再試合だが基本的には一発勝負のカップ戦、加えてアディショナルタイムという究極にプレッシャーがかかる状況で「急いで打たない」という選択を、常人にはできない。
こうしてボールは浮いてこそいるものの、トラップ時点よりはボールをゴールに近づけた状態で、今度はワンテンポ早くアウトサイドでシュートを打つという選択を選んだ。そして、その意外性がアリソンの判断を鈍らせたのだ。
そして何より、最善の選択をボールが浮いた状態で続けた点と、それを実現する技術の高さが素晴らしかったのは言うまでもない。
三笘はワールドカップ期間中の記者会見で「自分はドリブルだけの選手ではない」と語ったが、まさにその通りだ。ゴール前の落ち着き、ゴールへの嗅覚、そしてそれを実現する技術、様々なフットボーラーとしての能力を持ち合わせるからこそ生まれた、スーパーゴールだった。
(文・内藤秀明)(C)aflo