ワールドカップが冬開催でシーズンの中断期間があり、その間にクラブのフロントスタッフが準備する時間があったからなのか、23年の冬の移籍市場は大いに賑わった。マーケットの中心選手になるのは、お金を多く持ったチームと、才能豊かな若手選手を多く持ったチームなわけだが、プレミアリーグでいうと前者はチェルシーで、後者はブライトンだったのではないだろうか。ブライトンにとっては引き抜きの噂が絶えない、辛い期間だったはずだ。
三笘薫のライバル・トロサール退団の影響は?
現在6位につけるなど、中規模のクラブとしては大躍進を遂げているブライトンだが、日本代表FW三笘薫、エクアドル代表MFモイセス・カイセドをはじめ、何人もの逸材が活躍している。そのためビッグクラブのターゲットになりやすかった。
そんな中、真っ先にチームから移籍していったのは、ベルギー代表FWレアンドロ・トロサールだ。2019年に加入した小柄なドリブラーは、得点もとれるアタッカーとして前線のどこでもプレーできる選手だ。加入後、一時期は苦しむ時期もあったが、今季はハーフシーズンでリーグ戦7得点決めるなど、得点直結のプレーで結果を残した。
本来、左ウイングの選手だが、三笘ほどドリブル突破が強みというわけでもなく、日本人選手が躍動し始めてからは、ワントップの位置で起用されることが増えていた。彼の退団は、前線の選択肢が減るという意味では、マイナスかもしれない。
ただ、すでに今シーズンにも何人もの若手選手が育っているため、大きな問題にはならないだろう。例えばイングランド人FWエヴァン・ファーガソンは、18歳ながらシニアレベルですでに通用する体格を持つストライカーだ。加えて、スピードがあり、瞬時に落下地点を見抜くセンスや、駆け引きのうまさも持つ。このようにブライトンでは若手がどんどん伸びている。
何よりロベルト・デ・ゼルビ監督とトロサールは、確執があったという噂もある。不穏分子が減った上に、移籍金を手に入れ、新陳代謝を加速させたと考えれば、ポジティブな退団とも言えるかもしれない。
三笘薫に好影響、移籍志願・カイセドの残留が決定
むしろ三笘的に大きな影響を及ぼすのはカイセドの残留だ。
とにかく戦力として大きい。SNS上で移籍を志願するという問題行動を起こしたカイセドに対して、ロベルト・デ・ゼルビ監督が今後、どのような対応をとるかは不明だ。ただ彼も過ちを反省し、チームにうまく再合流できれば、戦力的には大きい。ポゼッション時はゲームメイクができて、潰しでショートカウンターの起点にもなれるカイセドほどのMFは世界中探してもいないレベルだ。
彼がいるからこそ、三笘がいい形でボールを受け取って、ドリブルを仕掛けられているという面もある。
戦力ダウンを回避したブライトン、今後の展望は?
いずれにしても、草刈り場になる可能性もあった冬の移籍市場で、主力放出トロサールだけに抑えることができたので、ひとまずブライトンとしてはほっと一息というところだろうか。カイセドの去就など、いくつか問題は残るものの、チームの雰囲気が上向きなのも間違いない。
なによりチェルシーが爆買いを敢行するなどチームを再編成中で、リヴァプールは怪我人が多い上に財政難で十分な補強を行えないなど、今季は上位陣が苦しんでいる。現在の勝ち点差からするとチャンピオンズリーグ出場権を獲得できる、4位以内は厳しいだろうが、ヨーロッパリーグや、カンファレンスリーグの出場権の獲得は十分可能性がある。
ただ近年のプレミアリーグは資金的な優位性を利用して、下位のチームが大型補強をする事例が多い。中位から下位までの戦力差がほとんどないのが特徴だ。事実、6位ブライトンと、11位アストンヴィラの勝ち点差はわずか3である。少しでも油断すれば、転がり落ちる怖さがあるのも、今のプレミアリーグのおもしろみの一つだ。
とはいえ、三笘をはじめ、主力に怪我が連続しない限り、大きく落ちることはないだろう。不安は負傷離脱だけだ。それほどに今のブライトンは戦術的に緻密で、選手たちのクオリティも高い。イギリス南部の港町から出港しているこの大船で、日本が誇るドリブラーがどんなお宝を手にしていくのか。シーズン後半戦も、注目して見守っていきたい。
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