労働者が自身のストレス状況を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的に2015年から一定規模以上の事業者に実施が義務付けられた「ストレスチェック制度」。
会社(事業者)が委託した医師などが実施主体となり、労働者はストレス調査の質問票に回答。結果は従業員に直接伝えられ、会社側には、従業員の同意がない限り回答内容も結果も通知されない。
労働者を守るために設けられた仕組みのようだが、ネットでは
「ストレスチェックとかされるけど正直に書くわけないじゃん」
「ストレスチェックで引っかかって『指導受けましょう』って書かれたけど連絡先が人事課の時点でバレるんじゃない?」
「正直ストレスチェックをすること自体がもう既にストレス」
との声が上がっており、課題も多く見受けられる。
「会社に結果が漏れるのではないか」という不安や、質問の数が多いことによる煩雑さ、面接指導を受けるためには結局会社側に通知しなくてはならない点など、回答に積極的になれない問題があるのだ。
従業員側も、結果が自分の状態を正しく反映したものではないことがわかっているため、「“そもそも実態を把握できないストレスチェックに本当に意味があるのか〟と答えるモチベーションが下がってしまう」(東京大学大学院 北原祐理研究員)という。
どうすれば「ストレスチェック制度」の問題点を乗り越えられるのか、臨床心理学者で東京大学の下山晴彦名誉教授に話を聞いた。
ストレスが大きくなると、意欲がわかない、集中できない、夜なかなか眠れないなどの弊害が多く出てくるが、こうした状態から抜け出すには、「会社が従業員の健康を管理する」という発想から抜け出さなくてはならないという。
「ポイントは『誰が主人公か』という点です。現状のストレスチェックや働き方改革における主人公は会社であり、社員はやっぱり管理される側。そのことにみんな気づいているんですよ。そして、会社を信頼していない。だからうまくいかないんです」(下山教授)
下山教授らの研究チームがストレスチェック制度に代わる方法として提案する「セルフモニタリング」では、質問項目を絞るかわりに、従業員の状態を細かく把握・フィードバックをしていくことで、従来の問題点を乗り越えようとしている。
「セルフモニタリングでは、『自分のために回答するんだ』という前提を強く打ち出しており、ストレスチェック制度の限界を克服できているのではないかと考えています」(東京大学 大学院 内村慶士研究員)
続いて、大学在学中の19歳で起業し、現在、SOICO株式会社取締役COOを務める土岐彩花氏と共に別の角度から解決策を模索しよう。
「会社側の工夫と努力で社員が変わることがあります。私の前職にはメンターがいて、何度も助けられましたね。当時のメンターは『直属の上司ではなく、利害関係がない・ちょっと近い部署の上司』で何でも相談できました。また、仮に自分から声をかけなくても、月に一度の1オン1ミーティングが定期で入っており、話すネタがなくても絞り出していました。そういったことから自分の体調とか気持ちが見えてきたこともありましたね」(以下、土岐氏)
海外ではどのようなメンタル不調対策を行なっているのか。
「日本人は頼まれたら断らないのが美徳ですが、私が見てきたアメリカ人やフランス人は上司からの依頼も『今日は15時からビールを飲みに行くので』などと、迷いなく断っていました。また、休みを取る際も日本人の場合は、『この日はお休みをいただきます。緊急の場合はこちらへお電話をください』などとアナウンスしますが、フランスでは『緊急のケースが生じても連絡しないでください。緊急の場合は警察を呼んでください』と一斉メールされていた方もいました。『自分には休む権利がある』という強い想いがあるのです」
国や会社側が設ける制度や仕組みも重要であるが、「誰かが勇気を持って踏み出す」ことで世の中の空気も変わっていくのかもしれない。
(『ABEMAヒルズ』より)
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