将棋の棋王戦コナミグループ杯五番勝負が2月5日、長野県長野市の「長野ホテル犀北館」で開幕した。11連覇を狙う渡辺明棋王(名人、38)に、最年少六冠獲得を目指す藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、20)が挑戦する大注目のシリーズ。第1局は、藤井竜王が角換わりの一局を125手で快勝した。ABEMAの中継には、両者とタイトル戦で激闘を繰り広げた経験を持つ広瀬章人八段(36)が出演し、「角換わりは今、藤井竜王が世界一強い。先手番での強さをまた思い知らされた内容だった」と総括した。
棋王戦五番勝負初挑戦の藤井竜王が、開幕局で無類の強さを示した。注目のシリーズ第1局は、振り駒の結果で藤井竜王の先手番に。後手の渡辺棋王は、藤井竜王得意の角換わりの戦型選択を見越してか、「予定だった」と7筋の歩を進め、下火となっていた仕掛けを展開した。速いスピードで進行して一気に中盤へと突入。渡辺棋王の想定を外れ、読み合いから攻めのターンが巡ってきた藤井竜王が勢いよく攻め込み、ペースを握った。
「盤面全体で戦いが起こってどういう方針で指すのか、一局を通して難しかった」と振り返った藤井竜王は、後手陣を広く包み込むように攻撃を展開した。解説の広瀬八段は、両対局者とタイトル戦を戦った経験を持つだけに、その棋風を熟知。「藤井竜王が2筋に歩を垂らしてからの一連の構想が素晴らしく、ぴったり勝っている変化が多かったと思います」と桂香で後手玉に迫り、包囲網をさらに狭めていった終盤のポイントを指摘。さらに、「この少し前に角を進めていましたが、この角が攻めにも受けにも利いている重要な駒になっている。藤井竜王は、この駒がいるから先手玉が迫られても大丈夫な変化が多いと、いち早く気付いたんだと思います」と解説した。
最終盤では、自玉の安全を見切った藤井竜王が守備駒の金も加勢させ、全軍動員でリードを拡大。攻め合いを選んだ渡辺棋王に冷静な対応でじわじわと後手玉を追い込み、勝利を掴んだ。終局後には「一局を通して難しかったと思います」と語った藤井竜王だが、「良いスタートが切れた」とホッとした表情。タイトル戦を掛け持ちでこなす多忙な日々において、勝利は何よりの原動力になっていることに違いはない。
一方、10連覇中の渡辺棋王は「勝負所がどこだったのかよくわからなかったです。あったとしたらすごく狭い範囲だたと思う。そこがサッと過ぎてしまったような将棋になってしまった」。大盤解説会場でファンの前に登場すると「なんでこんなにいきなり酷くなるのかな…」と素直に心境を吐露する場面もあった。
広瀬八段は、「渡辺棋王の注文もあって難しい将棋だったが、その中でも藤井竜王が技を駆使して、“いつも通り”の快勝だったと思います。初めて見る局面でも大きな悪手なく、途中からリードを奪って以下、簡単ではないのに割と簡単に逃げ切ったように見えた。先手番での強さをまた思い知らされた内容だったかなと思います。
(終盤戦の)渡辺棋王の銀取りの桂打ちに対して、攻め合いを選んだら一手負けコースになっていたと思うので、そのあたりがひょっとしたら(渡辺棋王にとって)最後のチャンスだったのかもしれません。際どい将棋ではありましたが、進んだら先手のはっきり一手勝ちで、渡辺棋王からしたら『気が付いたらレールに乗ってしまった』という感じだったと思います。最近は具体的な敗着がわからない将棋が多いですが、本局もそのような内容だったんだと思います。
感想戦で渡辺棋王は『今日は受けに徹しないといけない将棋だった』とコメントしていましたが、自身は攻めの棋風とあり、抵抗があってそういったところから判断を誤らせてしまったのかもしれません。角換わりは今、藤井さんが世界一強いですから」と総括していた。
五番勝負とあり、ひとつひとつの白星が重みを持つシリーズ。次局で藤井竜王が奪取に王手をかけるか、先手番を持つ作戦巧者の渡辺棋王が追いつくか。第2局は2月18日、石川県金沢市の「北國新聞会館」で行われる。
(ABEMA/将棋チャンネルより)