三笘薫とエストゥピニャンのコンビは、すでにプレミアリーグで屈指の破壊力を誇るが、名将ロベルト・デ・ゼルビはさらなるアップデートを試みているようだ。問題のないように思える2人のコンビにも、ある懸念点が存在していた。
それは三笘、エストゥピニャンともに最も得意なエリアは大外のレーンであり、2人が大外のレーンを取り合ってしまう現象だ。ブライトン指揮官はこの懸念を思いもよらない方法で解決してみせた。それが、エストゥピニャンの“偽サイドバック化”だ。
【映像】“偽サイドバック化”が進む三笘薫の相棒 エストゥピニャン
デ・ゼルビの奇策 “偽サイドバック”は新しい武器になるか
ここで一度偽サイドバックについて解説しておきたい。ビルドアップの際に、センターバックがボールを持ったらサイドバックはサイドに開いてパスコースを作ることがセオリーとされている。それに対して偽サイドバックの場合はサイドバックは中に絞り、ボランチに近いポジションを取る。
この偽サイドバックシステムを採用することのメリットの一つが、ウイングが仕掛けやすい状況を作ることができる点だ。ブライトンの状況に置き換えて考えてみよう。
エストゥピニャンが偽サイドバックとして中盤に入ることで相手のサイドアタッカーを中へ釣り、センターバックから直接大外にいる三笘にボール配給することができる。三笘はプレミアリーグの屈強なDF相手でも打開できるので、偽サイドバックを導入することでビルドアップの段階から三笘のドリブルを活かすことができる。三笘にボールが渡った際には中盤にいたエストゥピニャンが三笘のサポートへ周るので、日本代表FWが孤立することもない。このようにエストゥピニャンの偽サイドバック化によって三笘の強みを存分にいかすことができる。
直近のクリスタルパレス戦においてもエストゥピニャンが中盤で敵を引きつけ、大外の三笘に展開する形が何度も見受けられた。三笘の立ち位置を何度も確認しながら、インサイドにポジションを取るエストゥピニャンの姿にシステムの狙いがはっきりと現れていた。
“偽サイドバック”システムの課題
ただブライトンの偽サイドバックシステムにも多くの課題が残されていることも事実である。それはエストゥピニャンが本来得意としていないエリアでプレーせざるを得ないという点だ。
先述したようにエストゥピニャンは大外レーンを最も得意としている選手だが、偽サイドバックシステムの際にはインサイドでプレーしなければならない。もともとサイドバックにしては攻撃的で技術もそれなりにある選手ではあるが、現段階では偽サイドバックの役割を完璧にこなすのは難しい。
センターバックから三笘へ繋ぎ、中盤のエストゥピニャンにボールを預けた場面では、逆サイドへの展開やアタッキングサードへの侵入をスムーズにこなすことはできていない。エストゥピニャンの課題である球離れの悪さと攻撃時のポジショニングミスの改善が求められるだろう。このエクアドル代表DFの偽サイドバックとしての進化は不可欠だ。
三笘薫を最大限に活用できるシステム
まだまだ発展途上の新システムであるが、直近のクリスタルパレス戦では意図したビルドアップの形を再現することに成功している。三笘にボールが入った後の形は、ややぎこちなさも感じられるが、もしエストゥピニャンが偽サイドバックの役割を完璧にこなせるようになれば、今まで以上に三笘が輝くことは間違いないだろう。
大外を得意とするエストゥピニャンを偽サイドバック起用は一見奇策にも見えてしまう。しかし、デ・ゼルビの手腕を持ってすれば、エストゥピニャンの問題点も強みへと昇華させられる可能性が高いだろう。目まぐるしい速度で成長を遂げてきた三笘とエストゥピニャンのコンビが、偽サイドバック導入で更にアンストッパブルなコンビへと成長する未来が待ち遠しい。
(ABEMA/プレミアリーグ)(C)aflo