先日、人気漫画『はじめの一歩』の作者として知られる森川ジョージ氏ら人気漫画家たちが東京都議会にある陳情を行った。求めたのは不健全図書の名称変更だ。陳情には、多くの漫画家たちが賛同の声をあげていた。
【映像】迫力がすごい…! 森川ジョージ氏が番組に寄せた色紙(画像あり)
「事業者は成年に対する販売は可能であるにも関わらず、誤った印象が広がり、販売そのものをやめてしまい経済的損失が生じている」(陳情より)
そもそも不健全図書とは、過剰な性表現や残虐表現が含まれる書籍や雑誌、文書などのことで、青少年の健全な成長を阻害する恐れがあるものと規定されている。
東京都の条例では、不健全図書に指定されると未成年への販売が禁止されている。また、成年には販売可能にも関わらず、書店が店頭に並べなかったり、Amazonなど通販サイトが取り扱いをやめてしまうなど、流通が制限されてしまう。
都議会では「不健全図書という名称が時代に即していない」という一定の理解はあったものの、陳情は採択されなかった。
なぜ名称変更は叶わなかったのか。そもそも不健全図書の選定方法や基準に問題はないのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、今回の陳情の中心にもなった漫画家・森川ジョージ氏と共に考えた。
不健全図書の名称変更に賛同している漫画家の森川ジョージ氏は「元々は、元都議・くりした善行さんと、星崎レオという不健全図書に指定された女性作家が2人で訴えていた。途中から僕が協力するかたちになった」と経緯を語る。
「条例を変えるのは、いろいろなものをひっくり返すことになるのでまず名称から手を付けた。僕は別に不健全図書という名前が残ってもいい。だが、映像なり記事なり雑誌なり、エンタメの全てに関わることなのにマンガ専門の条例になっていて“マンガいじめ”になっているイメージだ。だったら僕はもう『不健全マンガ』と言ってほしいくらいだ」
▲番組に出演した漫画家・森川ジョージ氏
森川氏によると“マンガいじめ”は約60年前から存在するという。
「手塚治虫さんのマンガが学校の校庭で燃やされた事件があった。なぜ、不健全図書がマンガのみなのか。調べたところ、都の職員の人6名が毎月ランダムに100冊のマンガを本屋さんに行って買ってくる。その中から選んでいる。他のマンガは買っていない」
実際に不健全図書のレッテルを貼られることによって、困ることはあるのか。
「事実上の発禁になってしまう。不健全、有害と付くとネット販売ができなくなる。書店さんの方にプレッシャーかかって売れなくなってしまうことが多い。東京都では『不健全図書』だが、全国的には『有害図書』と言われていて、もっと侮辱的な言葉になっている。僕はその名称があまり好きじゃない」
本来は「未成年に売ってはならない」と区分けすればいいだけのはずが、例えば鳥取県で有害図書に指定されたマンガがAmazonで買えなくなる弊害が起きたケースもある。
表現の規制について、森川氏はこう話す。
「僕のマンガはボクシングが題材なので、血が出たりする。『暴力マンガだ』と指定される危険性もあるが、一緒にやっていた仲の良い医者マンガを描いていた人は『手術シーンで血を描くな』と言われていた。身内に手術して亡くなられた方がいると心が痛むという理由だ。だから、メスを入れるところの一滴しか血が描けなかったらしい。そうすると、医療マンガの体をなさない。だんだん狭められていって新種の寄生虫しか描けなくなった」
表現規制によって、リアリティを失っていく現実にEXITの兼近大樹は「想像力が欠如する」と指摘する。
「そのマンガを見た子供が『血って一滴しか出ないんだ』と思ったら、より不健全ではないか。現実をなかったことにして規制すると、想像力がどんどん欠如する。とはいえ、ルールを作った人たちが不健全なのかと言ったらそうではない」
森川氏は「不健全図書は指定されるのに、健全図書と言われるものはない。『これを見習いなさい』と言われない限り、僕らはどこを目指していいか分からない。不健全図書に指定されていないものが、健全ならば、それをみんなが読んでいるはずだ。じゃあ世の中は健全なのか。そういうことになってくる」と訴える。
都議会では否決されたものの、今回の陳情そのものには手応えがあったという。どのように感じているか。森川氏は「都議会の様子をネットで見ていた」と明かす。
「結果は『内容は賛成だけど、今回は否認する』だった。それが2党あった。他の党の人たちは賛成してくれた。あとは、その2党の人たちが『賛成』と言ってくれればいいだけの話。これを見ていたら『いかがですか』と言いたい。ただ、60年間続いていることが、1回や2回の陳情でひっくり返るなら、それもまたおかしな話だとも思う」
今回の陳情に向けて、他の漫画家にも声を掛けていった森川氏。最初は「巻き込んでいいのか」と自問自答したという。
「声を上げてくれたのは、僕の友人が多い。40歳を超えて売れている連中ばかりだった。自分たちの後輩や若者を応援する立場になっているから、そういう意味でも賛成してくれた」
番組の終わりに、『はじめの一歩』ファンの兼近が「僕は一歩の『強いって何ですか?』という強さについて考えるシーンがすごく好きだ。あの答えは、どこにあるのか」と聞くと、森川氏は「強さは、過去に何かやったとしても、それをほじくり返されたとしても、今を一生懸命生きていくことだと思う」と回答。
続けて森川氏は「今は若い人たちがデビューしやすくて、読み手も取捨選択がしやすい、いい世の中になっていると思う。僕は、これからマンガ業界に入ってくる人たちに、いろいろな“枷(かせ)”がかからないようにしたい。今が頑張りどころだ」と話した。
(「ABEMA Prime」より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側