アメリカの科学雑誌「サイエンス」で発表された、遺伝子編集に関する調査結果が議論になっている。子どもが名門大学に入学できる可能性を3%から5%に改善できるなら「ゲノム編集・胚選別を利用する」と約3割の人が肯定的に回答したという。
このまま心理的ハードルが下がり、技術が進めば、自由に子どもの能力や容姿などをデザインできるようになるのだろうか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、ゲノム編集の未来について、専門家と共に考えた。
生命倫理を研究している北海道大学教授の石井哲也氏は「一部事実として、受精卵の検査が行われている」と話す。
「社会で活躍していけるなら、子どもためにもいいし、親もそれを期待している。若者がより良い子供を志向することは、ある意味で頷ける。受精卵の段階で知能の高さを見極めるのは、技術的ハードルが高いが、アメリカでは知的障害になりそうな胚をチェックできるサービスもある。体外受精のオプションサービスだ」
動物や植物では、すでにゲノム編集が行われている。人間は、どこまで可能になってきているのか。
「京大が開発した『肉厚マダイ』に置き換えて考えてみる。このタイは、運動能力が高められて、筋肉がたくさんついている。1つの遺伝子を操作するだけで、こういうタイが生まれる。僕はよくないと思っているが、人間でも1つの遺伝子を操作するだけで、筋肉モリモリにするのは可能だと思う」
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「フランスの場合、出生前診断は保険適用だ。不妊治療でもどの受精卵を母親に戻すか選べる。科学的なゲノム編集がないとしても、受精卵を選んでどの子を残すかはすでにやっている。時間の問題だ」と話す。
その上で、ひろゆき氏は「一卵性双生児で性格が違うことがある。性格は遺伝子ではないのか」と石井氏に質問。
石井氏は「アイデンティティの確立が関係している。一卵性双生児で家庭環境が同じでも、学校に行って、あるいは地域社会で近所の人とコミュニケーションする。その中で自我が違う形で作られていく。遺伝子だけがすべてを決めるのではない」と答える。
一方で、学力は約1万個の遺伝子が関係しているといい、操作は「現実的ではない」という。また、どの遺伝子がどこまで関連しているか分からないため、親が思った通りにならない可能性もある。石井氏は「育ちの部分も重要だ」と話す。
「例えば知能を学歴だとする。しかし、いくらIQが高いお子さんが生まれたとしても、その子をうまく励まして、動機づけする必要がある。例えば、虐待されたり、グレてしまったりすると、大学へ行くどころの話ではなくなってしまう。遺伝子も大事だが、育ちの部分も大事だ。それが相互にブレンドした場合、良い結果につながる。性格もそうだ」
ゲノム編集について、石井氏は自身の著書に「人が神を演じるような領域だ」と書いている。
「農水産物や肉厚マダイを例に考えると、狙い通りの性質を持っていない植物や動物は捨てられている。結局は、作物や魚の育種だ。一方で、人間の子どもだとどうなるか。これまでは親は産むか産まないかだけを決めていた。間違えて別の遺伝子を傷つけてしまったら、捨てるのか、安楽死させるのか。人間がプロダクトというか、物になってしまうと思う」
髪の毛や肌の色など、外見に関する遺伝子操作も現時点で可能なのだろうか。
「色素などはいくつかの遺伝子操作を行えば、例えば色白の子どもにできる可能性はあると思う。ただ、私たちは誰一人、自分で同意してこの世に生まれていない。親が全部、命のあり方を決めている。考え方のベースは、今の生殖医療、不妊治療だ。夫婦が同意すれば体外受精を利用できる。生まれる子供は同意なんかできない。ゲノム編集の話はみんなが納得する形にするのは、かなり難しい。日本ではちゃんとした法律はないが、国民がガチで議論して、しっかりしたルールがあるべきだと思う」
石井氏は「遺伝子がすべて人のあり方や価値を決めるわけじゃない」と話す。
「もし親になりたいのであれば、自分の子どもにとって豊かな人生が送れるよう祈るべき。一側面の外見や知能、筋肉の量などを志向するのではなく、そういう技術に頼るよりも『どういう子育てをしようか』を夫婦でお話ししたほうがいい」
元官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「僕も子どもの出生前にダウン症の可能性があるかどうかを検査した」と明かす。
「産む・産まないの判断ができない状態になってからやったが、何のためにやったか。それは、事前にダウン症の子が生まれてくると分かったら、それなりに準備ができるし、受け入れてくれる社会であれば、前向きにとらえられると思ったからだ。ただ、日本がそういう社会かというと、そうでもない。けっこう家族に負担がかかる。そうすると、障害児を育てられるか分からない親が選別したいからこういう検査をする。『どうなったって大丈夫だよ』という社会の“受け入れ幅”をどう作るかも問題だと思う」
(「ABEMA Prime」より)
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