ウクライナへの侵攻開始から1年が経過したがこの戦いの現在地と今後について、テレビ朝日 元モスクワ支局長 武隈喜一氏に話を聞いた。
「ウクライナ東部のバフムト周辺は3カ月以上激しい陣地戦となっており、まるで第一次世界大戦のような塹壕戦が続いています。特に今年の1月中旬以降はロシア軍の大攻勢が始まっており、開戦当初の2倍以上のスピードで双方死傷者が出ています」(以下、武隈氏)
世界各国から支援が入っているが双方のパワーバランスは現在どうなっているのか。
「ヨーロッパ各国はドイツ製のレオパルド2などの戦車の供与を決めましたが現在はまだウクライナ国内に届いたばかりで、前線に投入されるのはまだ1~2カ月先になりそうです。ウクライナ軍は昨年夏からアメリカから最新兵器を供与されているものの砲弾が足りておらず、ソ連の旧式の迫撃砲などで戦っています。いっぽうのロシア軍は戦争開始当初は動員兵が約16~19万人でしたが、現在は約32万人を前線に投入しています」
当初のプーチン大統領の目論見から戦争の長期化は想定外だったが、誤算の最大の要因はどこにあったのか。
「長期化の要因は大きく3つあります。1つは予想以上に西側諸国が団結し、最新鋭の兵器なども含めてウクライナへの支援を続けていること。2つ目はウクライナ側の戦略です。2014年3月からロシアとの紛争を始めていたこともあり、いつロシアが侵攻して来ても戦えるようにNATO軍と演習をしたり、最新のITを駆使したりなど、8年間も備えていたのです。3つ目はウクライナ国民が自国の領土を守るという闘争心を前面に出して戦い続けていることが挙げられます」
経済制裁をされながらの長期戦。ロシアも苦しいのではないか。
「金融面ではボディーブローのように効いていますが、ロシアの一番の輸出品である石油や天然ガスは中国やインドが大量に買っています。そして、意外なことに産油国がロシアから石油を安く買って、備蓄して高値で売っているのです。つまり、ロシアの石油は引く手数多というわけです。また、果物や野菜は中東や中南米から問題なく入ってきますし、電気やガス、暖房はほぼ無料、市民生活そのものは維持できているのです。いっぽう、シベリアなどの地方は予算がなく、道路が整備できないなど疲弊しています」
プーチン大統領がいま最も恐れていることは。
「やはり150~200キロを超える長距離高機動ロケット砲などの最新鋭の武器が西側諸国からウクライナ軍に渡り、それを使いこなすことでクリミアを取り戻そうという動きになり『ロシアが勝てない状況』を作られることでしょう。対するロシアは国民の大量動員を続け戦争を長期化させることで、西側が“支援疲れ”を起こすことを狙っています。支援に対して反対する有権者が出てくると選挙で支援に消極的な候補者が勝ちます。するとウクライナに支援が出来なくなる。その結果ウクライナが戦えない状況になることが一番の狙いです」
この侵攻の終着点は。
「ウクライナはロシア軍を国土から追い出すまで戦いをやめません。いっぽう、プーチンも併合した4州を軍事的に手に入れるまでやめられない状況のため、停戦の見通しが全く立っていません」
核の使用については。
「ロシア側が戦術核を使うのではという話題もありましたが、アメリカはロシアに対し『もし核を使った場合、核は使わないが通常兵器によって同等の被害をロシア側に及ぼし、その責任をプーチン大統領に取らせる』としています。プーチン大統領がもし自身が生きていることにこだわるのであれば核は使えない状況ではありますが、逆を言えば“自分の身が滅ぶのであれば世界も一緒に滅ぼす”という発想に立たないとも限りません」