「1年前の(1月の)ガス代は70万円くらいでした。それが今年は170万円以上になりました。100万円以上高くなったのです」
そう語るのは東京墨田区の押上温泉大黒湯の新保卓也店主だ。
ウクライナ情勢や円安の影響で天然ガスも高騰しており、1年前の同時期と比べると4割ほど上がっているという。
銭湯の入浴料の上限は戦後すぐに制定された物価統制令に基づき、都道府県知事が決定している。東京都の場合は一律500円と定められており、銭湯が独自の判断で入浴料の値上げができないのが実情だ。
この物価統制令がいまだに適用されているのは銭湯だけ。それは一体なぜなのか?本音を聞こうと取材を銭湯に申し込んだものの、50軒以上が取材NG。なぜ口を閉ざすのか?
そこで東京都の浴場組合に取材を申し込むと2週間後に返答するという。
そして迎えた2週間後。東京都浴場組合 佐伯雅斗常務理事が50軒以上の銭湯が取材NGだった理由について答えてくれた。
「物価統制令の入浴料のことで口をつぐんでいるのではなく、自分たちが言いたいことと違うことばかり流されることが続いているからだと思う」
では銭湯が発信したいこととは何なのか?
「この一過性のガス代高騰を受けて、入浴料を上げてくれという銭湯は少ない。計算をした上で、これなら毎日入れるということで決めてもらっている料金なので、入浴料が抑えられてかわいそうという値段でもない。これが適正なので」
とはいえ、ガス代が高騰する中、料金を値上げしたいのが本音ではないのだろうか?
「実は、『料金を上げれたらどうか』という趣旨の取材も多いのですが、料金を上げてすむならそんな簡単な話はありません。料金を上げれば売り上げも上がる、そんな単純な仕組みでは商いはできないのです。『10円や20円の値上がりでお客さんが減ってしまった』という経験を我々の業界は何十年と続けてきています。価格と今回のガス代の高騰とはそれほど照らして見てはいません」
つまり、値上げしたことでお客さんが減る方が、ガス代の高騰よりダメージが大きいのだという。
「現状苦しんでいるお店もその打開策を入浴料金で解決できるものだとは思っていない。今の料金を適正だとして、いかに多くのお客様に来ていただくか、いかに自分たちで経費を削減できるか工夫して乗り切っていくべきと考えている。『ガス代が上がって大変だろうから、ひと月に1回は銭湯に行って助けてあげよう』と思ってくださるのなら本当に助かります」
銭湯の料金を決める立場だった元東京都知事の舛添要一氏は、
「第二次世界大戦の後、自宅にお風呂がない人がたくさんいたが、食べていくのが優先なので、銭湯代が高いと行かなくなる。すると、感染症が流行ったり不潔になって病人が増えたりといった衛生上の問題が生じる。そのために物価統制で国が決めた値段を超えてはいけない、となりそれが今も続いている。とはいえ政府から銭湯への補助金はある。赤字になると、タイムラグはあるもののサポートを受けられる」
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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