コロナ禍に入って以降、K-POPの人気が世界的に過熱する中で、韓国ではお馴染みのオーディション番組もさらなる活況を見せている。そうしたオーディション番組で使用される課題曲の傾向について、本稿では詳細に掘り下げていく。

 おうち時間が増えるなかで、オーディション番組にハマった人も多いことだろう。韓国のオーディション番組では、参加者たちがステージ上でのパフォーマンスなどさまざまなミッションに挑み、視聴者投票や審査員の評価などを経て徐々に脱落していくのが常である。そのパフォーマンスで使われる課題曲を、番組側が公式プレイリストとしてまとめて、音楽配信サブスクリプションサービスで公開していることも珍しくない。番組で印象的なパフォーマンスを見たことから、新たに原曲アーティストのファンになったり、原曲を繰り返し聴いたりした経験がある人も少なくないのでは。オーディション番組は、新たなスターを発掘するのみならず、視聴者に名曲の魅力を再度訴求する場としても機能しているのだ。

日本でも大流行中の「K-POPオーディション番組」よく使われる課題曲と傾向を900曲超の楽曲から分析してみた
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▲SEVENTEENの「Pretty U」(『Girls Planet 999:少女祭典』より)

 NiziUを生んだ「Nizi Project」(2020年)に主催のJYPエンターテインメントに所属するTWICE、2PMらの楽曲が多く登場したように、それぞれの番組で主催者に近しいアーティストの楽曲が課題曲として使用されるケースはもちろん多い。だがいくつものオーディション番組を見ていると、「この楽曲、前に別の番組でも使われていたな」「このアーティストの曲はオーディション番組でよく見るな」と、点と点が繋がったような感覚を覚えることがある。

 では実際にどのアーティストの曲がよく使われているのか。どのような傾向があるのか。本稿では、主要オーディション番組で課題曲として使われた楽曲を集計し、そこから読みとれたことを記していきたい。

 集計の対象としたのは、K-POPアイドルの楽曲がメインで使われている番組のうち、直近5年間(2018〜2022年)に放送された主要オーディション番組と、2023年2月に放送スタートした「BOYS PLANET」「PEAK TIME」の3月1週目までの放送回。日本向けに制作されたものは、韓国企業が関わっている番組に限った。

 ラインナップは「PRODUCE 48」「YG宝石箱」(以上2018年)「PRODUCE X 101」「PRODUCE 101 JAPAN」(以上2019年)「Nizi Project」「I-LAND」「G-EGG」「CAP-TEEN」(以上2020年)「LOUD」「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」「Girls Planet 999:少女祭典」「Who is Princess?」「放課後のときめき」(以上2021年)「THE ORIGIN -A,B,Or What?」「青春スター」「&AUDITION-The Howling-」「THE IDOL BAND:BOY’s BATTLE」(以上2022年)「BOYS PLANET」「PEAK TIME」(2023年/放送中)の19番組

 集計の対象となった曲数は約940曲超にも及んだ。なお基本的には予選にあたる審査は対象外とし、同じ番組内で同一曲が別のミッションかつ別の参加者によって披露された場合は、原則としてそれぞれを1回として集計した。

アーティスト部門1位は、予想通り…?

 まずはアーティスト別に集計した結果を紹介する。1位は、予想が当たっている人も多そうだが、世界的に圧倒的人気を誇るあのグループ。そう、BTSだ。2位に大きく差をつけた47回で、堂々の首位を飾った。

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 ▲BTSの「ON」(『PEAK TIME』より)

 2位はSMエンターテイメント所属のEXOで、派生ユニットのEXO-KとEXO-CBXの楽曲も含めると28回使用されていた。EXOはメンバーが順に兵役に就いており、ここ数年は完全体としての活動が行われていなかったが、変わらず楽曲への支持は厚いことがうかがえる。

【映像】難しすぎて敗北、BTSの「ON」を披露するアイドル

 3位にはガールズグループの中で最上位となるBLACKPINK(25回)がランクインしたが、彼女たちの楽曲は男性によって披露されることも多々ある。放送中の「BOYS PLANET」のグループバトルでも、「Kill This Love」が使用されていた。日本人の佳汰を含むチームが妖艶にパフォーマンスし、喝采を浴びていたことも記憶に新しい。

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▲BLACKPINKの「Kill This Love」(『BOYS PLANET』より)

 反対に、4位のSEVENTEEN(22回)は女性によってカバーされる機会も多く、「Pretty U」は「PRODUCE48」「Girls Planet 999:少女祭典」、「VERY NICE」は「放課後のときめき」でかわいらしく表現されていた。また放送中の「PEAK TIME」では、全員がアルバイトをしながらアイドルの活動を続けているという5人組グループ・VANNERが「Adore U」で圧倒的なパフォーマンスを見せ、ギュヒョン(SUPER JUNIOR)やティファニー(少女時代)ら審査員たちから絶賛を受け、強い印象を残した。

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 ▲SEVENTEENの「Adore U」(『PEAK TIME』より)

 5位にはTWICE(20回)がランクインしているが、うち11回は所属事務所JYPエンターテインメント主催の「Nizi Project」内でのカウント。BLACKPINKとは異なり、すべて女性によるパフォーマンスであるところも興味深い。同じく8位のiKON(13回)も、そのうち半数は当時の所属事務所であるYGエンターテインメント主催の「YG宝石箱」内での使用回数だ。このほか6位はWanna One(16回)、7位は2PM(14回)、9位タイはGOT7、 ITZY(各12回)、11位タイはMONSTA X、Stray Kids、IU(各11回)だった。シンガーソングライターのIUは、アイドルグループ以外では最上位。参加者の歌唱力を測るためか、バラード曲がよく使われていた。

 14位以下にも視野を広げると、少女時代(各10回、ユニット含む)、SHINee東方神起NCT DREAM(各8回)が続く。俯瞰して見てみると、活動歴が長いグループの名前が多く並んでいる。また上位にK-POPアーティストが並ぶ中に、イギリスのガールズグループ・Little Mix(7回)がランクインしていたのは目を引いた。Little Mixと同順位にはJessi、MAMAMOO、(G)I-DLEが付けており、3位のBLACKPINKを含め、女性はガールクラッシュテイストの強いアーティストの楽曲がよく使用されている印象を受けた。

楽曲別の結果は、SM2強!

 続いて楽曲別の集計結果だ。こちらもBTSが1位を飾るかと思いきや、EXOの「Growl」とNCT 127「英雄; Kick It」が各6回でタイという、SMエンターテインメントの楽曲がそろって首位を飾る結果になった。

 「Growl」は2013年にリリースされ、ミリオンセラーを記録したEXOの大ヒット曲。巧みなシンクロダンスと、「ウルロン ウルロン」と繰り返されるフレーズは、一度聞くと耳からも頭からも離れない。NCT 127「英雄; Kick It」はカリスマ性あふれるダンスをこなす高い実力が要求される難曲。6回のうち3回は「Girls Planet 999:少女祭典」「放課後のときめき」「Who is Princess?」と、女性によるパフォーマンスだったのも驚くべきポイントかもしれない。「Girls Planet 999:少女祭典」において、現Kep1erのメンバー・ヨンウンが初めてステージに上がるやいなや、この曲を気迫たっぷりに披露して度肝を抜いたことをよく覚えている人も多いだろう。

 3位は2PM「My House」とBTS「DNA」「MIC Drop」(各5回)。「My House」は韓国語の発音の「ウリチブ」という愛称でお馴染みの楽曲で、2015年にリリースされたが、2020年にYouTubeのアルゴリズムによって推薦され、チャートを逆走して再ヒットを飛ばした。「青春スター」ではカズタ(現n.SSignのメンバー)が初めてのパフォーマンスでこの曲を披露し、強烈な印象を残した。また「BOYS PLANET」ではパク・ドハとチョン・ミンギュが未熟ながらそろってこの曲をひたむきに披露して会場を沸かせ、その時着用していた衣装の色から、それぞれ「青い家」「赤い家」という愛称で親しまれるという現象が起こっている。

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▲2PM「My House」(『青春スター』より)

 BTSの楽曲は見事にバラエティ豊かで、「DNA」「MIC Drop」に続いたのは「I NEED U」「FIRE」(各4回)。近年の大ヒット曲「Dynamite」(3回)「Butter」(2回)を凌いだ。ほか、上位にはPENTAGON「Shine」、SEVENTEEN「Pretty U」、Wanna One「Energitic」「Boomerang」、Stray Kids「Back Door」、BLACKPINK「Kill This Love」、(G)I-DLE「LATATA」、ITZY「WANNABE」(各4回)がランクインしていた。

 流行り廃りが目まぐるしいK-POPの世界。オーディション番組でも最新曲や近年の話題曲がすぐさま課題曲として使用されている印象があったが、こうして総括してみると、ロングヒットを飾っている楽曲も根強く起用され続けている。誰もが知っている曲こそ、それぞれのパフォーマンスでいかに個性を光らせられるかが重要なので、オーディション番組にうってつけということなのかもしれない。

 今後も「放課後のときめき」の男性版「少年ファンタジー」、「I-LAND2」そして「Nizi Project2」と、大型オーディション番組の放送が数多く予定されている。今後はどのような楽曲で感動的なステージが披露されていくのか、楽しみでならない。

テキスト:岸野恵加

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