「楽しいだけじゃ生きられない」音大生に“諦めるチャンス”は必要? プロへの道が険しいキャリア選択の現実
【映像】「音楽で食べていきたい」険しい道のりの先には? 音大生の不都合な真実
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 卒業シーズンの3月。毎年およそ59万人の大学生が卒業し、新しい道を歩んでいく。理系ならば研究職やエンジニア、メディア系ならばマスコミ業界など、大学で学んだことを仕事にする人も多いが、音大では、それができるのは「ほんの一握り」だという。

【映像】音楽家としては月5万円…音大卒業後の月収内訳 ※戸田さんの例(画像あり)

「甘い世界ではないし、なかなかお金を稼げない」(戸田さん・仮名)

 音楽が大好きで音大に進んだ戸田さん。「クラシックの音楽家になりたい」「音楽に携わる仕事がしたい」と夢見ても、プロのオーケストラは全国に38しかない。楽団員として食べていける人は、オーディションに受かったわずかな人だけ。多くの人はフリーランスで活動することになる。ニュース番組「ABEMA Prime」では、当事者・専門家とその実情に迫った。

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 声楽家の戸田さんの場合、現在の活動は主催側から呼ばれる月1回程度の演奏会と、週2回の子ども向けの音楽教室の講師だ。2つ合わせても月5万円ほどの収入しかない。それ以外はコールセンターでアルバイトをしながら、生計を立てている。

 音大での教育は演奏スキルの向上がメインで、ほかのことを学ぶ機会は少なく、一般企業の就活を目指す際には「音楽しかやっていない」と選考から外されるケースもあるという。そんな姿にTwitterでは「卒業しても食っていけない」「将来性なさそう」との声もある。近年は学生数も減少傾向にあり、一部では定員割れも起きている。

 学生だった頃、将来の暮らしをイメージできていたのか。

「私の場合、成績が優秀だったわけでも、自信に満ち溢れていて将来が明るいと思っていたわけでもない。正直『そんなもんだ』と思ってここまで来ている。現時点で私はギャップを感じていない。ただ、音楽の比重をやっぱり増やしていきたい。音楽と関係ないアルバイトをして練習の時間がなくなったり、触れる時間が減ったりすることに、歯がゆさはある」

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 フリーランスの活動には、アマチュアオーケストラのエキストラ、自費での演奏会、自分の演奏をオンライン配信するなどがあるが、収益化は難しく、現実は苦しい。戸田さん自身も「オンラインは苦手だ」と話す。

「私は生の演奏会が好きだ。確かにオンラインはお金を稼ぐことにおいて、味方になってきているとは思う。でも、それが好きな人もいれば嫌いな人もいる。人によって、合う・合わないがある。YouTubeに私が参加した演奏会の動画があるが、コメントも反応もないから、実感がない」

 名古屋芸術大学教授の大内孝夫氏は「何か手を打っていかないと、音大生の減少に歯止めがかからない。この現状が続いていくことを懸念している」と危機感をあらわにする。なぜ音大生は、なかなか就職できないのか。大内氏は「就職できないのではなく、就職しようとしない傾向が強い」と話す。

「一般大学だと約9割が就職するので『みんなが就活しているから自分もやらないとまずい』となる。これがいいかは別として、音大では就職活動をする学生は3割。7割はフリーランスになる。全体として『就職活動しよう』という雰囲気にならない。『みんなもやっていないから就活しない』という形に陥りやすい」

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  大内氏によると、音大に来る求人は「ほとんどがパート、楽器ごとの募集だ」という。

「例えば『NHK交響楽団の第一ヴァイオリン募集』などだ。だが、プロのオーケストラは非常に厳しい。場合によっては応募者が100人ぐらい来る。学生はなかなか通らない。卒業生が応募して、通るケースが一般的で、学生時代からオーケストラに入れる人は極めて稀だ。『楽しい』だけでは、生きられない。20代はアルバイトで生きられるが、30代になると肉体的にもきつくなってくる」

 その上で、大内氏は「きめ細かい指導が必要だ」と見解を語る。

「例えば、将棋では『将棋会館に残れるのは何歳まで』、野球では『ドラフトで指名されなければダメ』とプロになるルールがある。『諦めるチャンス』と言っていいかどうかはあるが、それが音楽や美術の世界にはない。学生の立場にたって、例えば大学2年生が終わるときなどに『君は音楽家になれる』『ちょっと難しいよ』といった指導も考えるべき」

 「就職ができないのではなく、就職したくない」――大内氏の意見に、戸田さんはどう思ったか。

「私の場合、学費を両親に払ってもらったから引くに引けないというより、やっぱりここまで積み重ねてきたから、音楽から離れたくなかった。続けてきたプライドや夢、希望もあり今に至る。私は今年30歳になる。何事もポジティブにチャレンジしている人が、活躍できる世界だと思う。どうにか自分でプロデュースして、今後につなげたい」

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 男性アイドルグループ「ロゼオセロ」をプロデュースしている実業家の石田拳智氏は「お客さんにはやっぱり生で見てもらいたい」とした上で「生で来てもらうためにオンラインで誘導している」と話す。

「僕は『TikTok』は無名な人を有名にするアプリだと思っている。実際に踊ってみた、歌ってみたを配信しているが、YouTubeよりも可能性は広がっている。ロゼオセロは最初500人が入る会場にお客さんは3人しかいない状況だった。オンラインを続けてやっと160人くらいは来るようになった。戸田さんにも活用してもらったら、世界観が変わるかもしれない。戸田さんはオンラインが苦手だと言っていたが、こうやってインターネットの番組に出てくれた。僕もボイストレーニングの仕事を頼みたい」

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 外資系IT企業で働く63歳の薄井シンシア氏は「そもそも大学は就職するためにあるのか」と疑問を投げかける。

「大学で専攻したことを仕事で使っている人は何人いるか。私は大学で勉強したことが、就職につながる時代はもうそろそろ終わりだと思う。音楽が好きなら音大に行って、好きなだけ音楽をやればいい。今の時代、いくらでも仕事がある。どうしても過去の価値観で今を生きようとするから、絡まっちゃう。例えば、東京の音楽シーンを外国人に案内する仕事は、今すごく求められている。音大に行く人はついでに英語を勉強するだけでも、新たな仕事が生まれると思う」

(「ABEMA Prime」より)

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