先日、政府が新しい国家公務員宿舎の建設計画を公表した。場所は、東武スカイツリーライン・小菅駅の近く、14階建て446戸の住宅だ。整備費用はおよそ90億円。2029年度の入居を見込んでいるという。
【映像】14階建て446戸を90億円で…「国家公務員宿舎」建設予定地(周辺の様子)
国家公務員宿舎の新設は実に13年ぶりになる。建設の理由として、財務省は東京23区内の独身者・単身者の宿舎が不足していること、既存の宿舎の老朽化などを挙げている。
過去、家賃が相場より破格に安く「必要以上に優遇している」と批判を浴びてきた公務員宿舎。12年前にも埼玉県朝霞市で建設が始まっていたが、東日本大震災直後の復興増税を控える中「税金の無駄遣い」などと批判が集中した。当時の野田総理大臣は建設中止を指示し、その後、政府は公務員住宅を削減した。
今回の新設にも批判の声があがる一方、一部では「官僚は激務、都心に近い宿舎は必要」「家賃を相場に近づけるなら納得はする」などの声も寄せられている。
公務員宿舎はどうあるべきか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、元官僚と共に考えた。
元厚生労働省官僚の西川貴清氏は過去に都内の公務員宿舎に半年居住した経験がある。西川氏は「私の場合は特殊かもしれない」とした上で、こう振り返る。
「正直なところ、かなり汚かった。例えばお風呂場の壁を見ると、黒ずみやカビがあった。コバエもいて『ここで生活するのはなかなか厳しい』と思って、私は半年くらいで違う所に退去した」
全体として部屋が汚い傾向はあるのか。
「現在でも、全体の約2割は築50年くらいだ。古いのは間違いないと思う。場所も官庁から通いやすい所ばかりにあるわけでもない。遠いものだと、霞が関まで1時間強かかるような所もあったはずだ」
当時、医薬品制度の立案担当をしていた西川氏。官僚の中には緊急招集という仕組みがあり、他国からミサイルが飛んできたり、地震が起こったりしたときに対応しなければならない人は、官庁の近くに住まなければならないルールだという。
ある意味、政治家の下請けのような仕事も多いのか。
「普通の会社と違って、官僚は組織の中だけで仕事のコントロールができない。普通の会社でいう“社長”が“政治家”で、国会という別の所にお仕えする形になっている」
コロナ禍でリモート業務を推進する時代に逆行しているといった指摘もあるが、どう思うか。
「役所仕事の特徴として、納期のスパンがすごく短い。『今日中にやらなければいけない』『何時間後に官邸に持っていかなければいけない』といった仕事が頻繁に発生する。だから、リモートをすると、なかなか機敏に反応できないことがある。仕事のスパンをもう少し長くするような配慮がないと、なかなか難しい。紙を使わないでデジタルでやろうとしても、国会中継を見てもらうと分かるが、みなさん紙を使って答弁されている。デジタル化が一つの鍵になるが、なかなか進んでいない」
国家公務員宿舎は2009年時点で22万戸近くあったが、2016年には16万戸と、約4分の1になった。今になって逆に足りなくなり、新しい建設計画が浮上したが、当時の削減方針について、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「愚策だったと思う」と見解を述べる。
「賃料の安さがどのくらいなのか、許容範囲はもう少し考えたほうがいいと思う。ただ、優秀な官僚は国家の土台だ。それなのに、ブラック労働で給料はたいして高くない。おまけに住んでいる家は老朽化して、お風呂にバランス釜を使っているような物件もある。昔だったら天下りするから最後は辻褄が合うかと思っていたら、今や天下りは許されない。何もいいことがないまま退職していく。結局、若手の官僚が流出して、外資系コンサルに行く人も多い。使命感だけでやってもらうのは限界があるから、やっぱり待遇は改善するべきだ。だいたい、なぜ震災後に公務員宿舎を減らすバカげた政策をとったのか。復興財源はもちろん必要だが、そのために『公務員宿舎を減らす』は愚策だったと思う」
新しく建築するのではなく、住宅手当を出せば済む問題ではないのか。西川氏は「住宅手当は、宿舎に入っていない場合は支給される。2万円後半くらいだったと思う」とした上で「宿舎の問題に限らずだが、政策の意思決定が見えないのが問題だ」と話す。
「宿舎を建設することになった意思決定の過程が、普通の人から見えにくい。みんなが理解できるような環境作りが大事だと思う。役所のホームページを見ても、どこを見たらいいか分からない。宿舎建設の意思決定まで調べられる人は、日本国民の100人に1人くらいだと思う。もっと分かりやすく広報することが大切だ」
官僚(国家公務員総合職)志望者は年々減少傾向だ。10年間で35%減っている現実を西川氏はどう見ているのか。
「入所当時の官僚たちにアンケートをとったことがある。『国を支える大きい仕事ができる』という理由で入る人が大多数だ。お金のことを考えて官僚になる人は意外と少ない。でも、辞めるときは『働き方が大変だ』と、そういう理由で辞める人が一定数いる。給料を上げるといったやり方で待遇改善もできるが、人間らしい生活ができる仕事のスタイルを提供するために、政治的な判断は必要だと思う。私も『忙しい職場だな』と思ったし、やったことが徒労に終わるようなこともよくあった。国会答弁を準備していて質問されなかったときは『朝までやったのにな』と思った」
その上で、西川氏は「外から優位な人材を招くことも積極的にやっていくべきだ」と述べる。
「役所に外から入ってくる人はすごく少ない。役所には特殊な職業習慣あって、民間の人がなかなかなじめなかったり、長時間労働に合わなかったり、いろいろな理由がある。でも、私はいろいろな人材が混ざり合うことで『ここの働き方はもしかしたらおかしいかもしれない』という声があがることもあると思う。東京都の副知事も外から入ってきた人がやっている。局長級で外から人材が入ってくれば変わるかもしれない」
(「ABEMA Prime」より)
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