57年前、静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。死刑が確定した袴田巌(87)さんの再審(裁判のやり直し)を認めた東京高等裁判所の決定について、検察側は最高裁判所への特別抗告を断念した。これによって死刑確定から40年余りを経て、裁判のやり直しが決定した。
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1966年、味噌製造会社の専務一家が刺殺され家が放火、現金20万円や小切手などが奪われた事件。その会社の従業員だった袴田さんが逮捕された。当初は無罪を主張していた袴田さんは、逮捕から19日後に警察に自白した。
裁判では弁護側が「自白は強要された」と主張。一方、検察側は袴田さんのパジャマに血が付いていたと主張していたが、事件から1年2カ月後、会社のみそタンクから下着やズボンなど「5点の衣類」が見つかった。検察側はパジャマではなく、これが袴田さんの犯行着衣だと主張を変更。一審の静岡地裁はこの主張を認め、袴田さんに死刑を言い渡した。
この判決で採用された取り調べ調書は袴田さんが検察官に自白した1通のみで、その他の44通は裁判官の職権で排除された。
1980年の死刑確定以降、袴田さん側は無実を訴え、2度にわたって再審を求めた。「開かずの扉」とも呼ばれるほど高い再審のハードル。その扉をこじ開けるため、弁護団は「5点の衣類」に付着した赤い血痕について実験を行った。実験では味噌に漬けられた血痕は黒く変化。「5点の衣類」は1年2カ月も味噌につかっていたにしては血痕が赤すぎる。後から何者かが入れたのではないのか?
弁護団は、これを新たな証拠として2回目の再審を請求。静岡地裁はこれを認めて再審の開始を決定し、2014年、袴田さんは拘置所から釈放された。
東京高裁は今年3月13日の再審開始決定で、「5点の衣類」に関して、「袴田さん以外の第三者がタンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できない。第三者は事実上、捜査機関の者による可能性が極めて高い」と踏み込んだ。
東京高裁判事、最高裁判調査官を歴任し裁判官としておよそ30件の無罪判決を確定した元裁判官の弁護士の木谷明さんは「証拠の捏造はありうる」と指摘する。
「これまでの冤罪事件を調べてみると、警察や検察が事実証拠を捏造したっていう事件はたくさんある。私が実際に担当した事件でも証拠の捏造が疑われて、最高裁で職権調査の上破棄して差し戻してもらった事件もある。警察は正義の味方。検察も正義の味方。そんなことをするはずがないというように、単純に思い込んでいる人がかなりいるが、それは間違い」
痴漢冤罪事件を通して日本の刑事司法の問題をテーマにした映画『それでもボクはやってない』を監督し、様々な冤罪事件を取材してきた周防正行氏は、日本の刑事司法の問題点を指摘する。
「袴田事件は一審の合議で、3人の裁判官のうち、1人は無罪心証。違法捜査、証拠の捏造の可能性を指摘している。その時の人に任せてしまっていて、きちんとしたシステムができていない。どんな裁判官にあたるかで死刑か、無罪か決まる、こんなひどい話はない。捜査機関も裁判官も弁護士も間違えることはある。袴田事件は57年もかかる事件ではなかった。システムの問題だと思う」
再審は無実の人が、刑罰に処せられているのを助ける唯一の方法。周防監督はその再審制度の問題点にも言及する。
「日本に再審法はあるが『裁判のやり直しを求めることはできる』という決まりだけで、どうやって再審を始めるかの決まりがない。やる気がない裁判官にあたれば何も進まない。何も進まなくてもルール違反ではない。そもそもルールがないから。袴田事件は再審法の現状を明らかにして、法改正への大きな転換点になる事件だと思う」
元裁判官の木谷弁護士も
「裁判所が良きに計らえ。2年3年平気でほったらかして転勤してしまう裁判長がいっぱいいる。(袴田事件は)ご本人が亡くなるのを待っているんじゃないかという気さえする」
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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