24日、国立競技場でウルグアイ代表と強化試合を行った日本代表は、これまでの戦いではあまり見られなかった戦術に果敢にチャレンジした。新生森保ジャパンは4年後のワールドカップでベスト8以上という“新しい景色”を見るためにも、偽サイドバックという新たな戦術にトライしている。
「偽サイドバック」がもたらす3つの利点
偽サイドバックとはピッチを縦に5分割した際、本来は一番外側に位置するはずのサイドバックの選手が1つ内側のレーンもしくは中央のレーンに移動することを指す。その際、ボランチの選手がセンターバックの位置まで落ちてきて最終ラインでビルドアップに参加する。
偽サイドバックを行うことで得られるメリットは主に3つある。1つ目は前線サイドに控える個人の能力が高いプレーヤーへのパスコースができるということだ。日本代表でいうところ、三笘薫や堂安律、伊東純也らにセンターバックから直接パスを通すことができるようになる。
2つ目は相手が守備を行う上で定めたい基準点を乱すことができるということだ。サイドバックが中に絞ることで、本来サイドバックをマークするべき相手選手が守備の対象を見失う。また中央に人数が集結することで数的優位を作ることができ、必然的にフリーの選手を作り出すことが可能となる。
3つ目は守備時に中央を重点的に守れるということだ。ボールを失った際に中央を空けてしまっているとゴールへのプロセスが短略化され、失点のリスクが高くなる。逆に中央に人数をかけて守ることができると失点のリスクが軽減されるということだ。
メリットがある反面、もちろんデメリットも存在する。中央に人数が集中することでスペースがなくなり、攻めにくくなることもある。また、サイドバックが中央に向かって移動するためサイドバックが本来位置している大外のスペースを空けてしまう。そのためボールを失った際にこのスペースを狙われると一気にピンチになる可能性があり、ボランチやセンターバックには広いカバーエリアが求められる。
日本代表がチャレンジした「偽サイドバック」
ウルグアイ戦ではサイドバックの伊藤洋輝と菅原由勢がピッチ幅を狭くしてポジションを取り、ボランチの守田英正か遠藤航のどちらかが最終ラインに入り、余った選手がサイドの空いたスペースをケアするという構図で「偽サイドバック」が試された。
最終ラインから前線大外レーンへのパスコースは作ることができていたが、そのコースをボールが通るシーンは少なかった。まだ不慣れなせいなのか、パスをカットされた時のカウンターが怖かったのか、もう少しチャレンジしてもよかったのではないだろうか。そのため相手の守備の基準点を乱すという点ではほぼ無意味に終わった。
なにしろウルグアイがゾーンディフェンス(相手選手を基準とするのではなくボールを基準とし、立ち位置を決める)を行ってきたため、守備の基準点は乱れなかった。むしろ鎌田がボールを受けるスペースがなくなり、結果的に鎌田が消えるという事態に陥った。サイドのスペースを空けることによって生まれる守備の懸念点はキャプテンの遠藤や守田がうまくカバーしていたため、失点は防げた。
まだチャレンジ段階のため深刻に考える必要はないが、今回はデメリットの方が多く出てしまっていた。センターバックの板倉滉は「ビルドアップの部分は初めてのトライということもあるので、ポジティブにとらえていいと思います」とコメント。途中出場で右サイドバックに入った橋岡は「新しいことにトライするのは、自分の中では成長できるし楽しいですし、おもしろい戦術だと思います。だからどんどんトライしてフィットできればいいなと思っています」と選手らも選手らも新しい試みをポジティブに考えているようだ。
新生森保ジャパンは偽サイドバック以外にも初招集の中村敬斗や瀬古歩夢の起用など、様々な新しいチャレンジを行っていた。28日に控えるコロンビア戦ではどのようなことにチャレンジするのだろうか。
(C)浦正弘(ABEMA/キリンチャレンジカップ2023)