将棋の藤井聡太竜王(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、20)が、4月5日から開幕する名人戦七番勝負に登場する。向かうは、棋王戦コナミグループ杯五番勝負でも戦ったばかりの渡辺明名人(38)。藤井竜王が奪取に成功すれば、最年少名人の記録を更新、さらには羽生善治九段(52)が七冠独占して以来27年ぶりの七冠王の誕生と、将棋界内外から大きな注目と期待が寄せられている。将棋親善大使を務める元乃木坂46のメンバー伊藤かりんは、藤井竜王の大躍進ぶりを「予想通り」としながらも、「ワクワクと怖さと寂しさと、いろいろ混じります」と複雑な心境を語った。
藤井竜王は、今期初参戦となった順位戦A級を7勝2敗の成績で駆け抜け、竜王戦七番勝負を戦った広瀬章人八段(36)とのプレーオフに勝利。2016年10月のプロデビューから6年半で、名人初挑戦を決めた。奪取すれば、谷川浩司十七世名人(60)が持つ最年少名人記録、21歳2カ月を更新の大偉業となる。
伊藤かりん(以下、伊藤) 「着実に進んできているなという感じです。獲得速度も皆さんの予想通りかなと。藤井さんのタイトルがひとつずつ増えるたび、どんどん八冠制覇が見えてきています。名人挑戦権も獲得しましたし、もう(全冠制覇も)間もなくだろうなという雰囲気がして、ワクワクと怖さとさみしさと…いろいろ混じります」
大躍進を遂げ次々に高い目標に挑んでいく藤井竜王に対し、多くのファンが持つ“ワクワク”という気持ちは同じ。しかし、伊藤が口にした“怖さ”と“さみしさ”とはどのようなどのような視点から感じ取ったものなのだろうか。
伊藤 「棋士の先生全員にタイトルを獲ってほしいからです!私が『将棋フォーカス(NHK教育テレビジョンで放送中の将棋情報番組)』に出演していた最後の方は、“群雄割拠”、“8人八冠”という単語をいっぱい使っていた記憶があり、そういう誰がタイトル獲得するのかわからなかった時もすごく楽しかったので…」
伊藤の脳裏に浮かんでいたのは2018年度の将棋界。全8つのタイトルを羽生善治竜王、佐藤天彦名人、高見泰地叡王、菅井竜也王位、中村太地王座、渡辺明棋王、久保利明王将、豊島将之棋聖(肩書はいずれも当時)が分け合っていた時代だ。藤井竜王がタイトル戦に登場する、まさに“前夜”とも呼べる時代で、タイトルホルダーが激しく入れ替わる戦国時代とも表現されていた。
伊藤 「羽生先生が七冠の時は将棋に詳しくなかったので、歴史的瞬間を見たい気持ちもあります。藤井竜王の七冠の瞬間も、もちろん見てみたいのですが渡辺先生も好きなので(失冠の場合)さみしさを感じてしまうと思います。羽生先生が失冠された時に“九段”と呼ぶさみしさがありました。『藤井竜王、ちょっと待って~』という感じはあります!『お願い!』って(笑)。でも(七冠達成を)見たい気持ちもあり…。難しいですよね…。でもこの勢いだと獲得する可能性が高いのかなと思ってしまいます。名人戦、見に行きたいです!」
名人の称号は、江戸時代に制定。時の将軍・徳川家康主導の下、将棋指しの家元の第一人者が名乗った称号として生まれた。初代は大橋宗桂。十一世からは名人戦を制したものが名乗る「実力制名人」へと移行し、現在に至る。現将棋界では8つのタイトルがあるが、最古にして最も権威のあるタイトルと呼ばれている。
伊藤 「将棋に詳しくなくても“名人”という単語だけはみんなが知っている格式高いイメージがあるので、藤井名人になってしまったらもう最強!名人戦はタイトル獲得までに各クラスを勝ち上がる必要があるので一番時間がかかると言われていますが、あっという間にここまで来てしまったなという感じがします」
現在最多の六冠を保持し、タイトルの数だけを見れば、名人獲得、王座まで奪取しての八冠独占を果たせば、一見ミッションコンプリート。計算上では2023年度中に達成できる可能性もあるだけに、伊藤は藤井竜王の心境を慮り“怖い”という感覚を持ったようだ。
伊藤 「もし八冠独占となってもプレッシャーなのか燃え尽き症候群なのか、どういう気持ちになるのかわからないですし表には出さないと思います。ただ、私ならコンプリートをしたら気持ちが落ち着いてしまいそうです。あまりにも将棋が好きな方なのでそうはならないのかな…」
現在は将棋が何よりも中心の生活を送る藤井竜王だが、全冠獲得のあかつきには見てみたいことがあるという。
伊藤 「今でもいろいろお忙しいですが、将棋界のアイコンとして活躍していただきたいです。今はメディアに出られることが少ないので、今後メディアに出て下さるようになったら嬉しいです。藤井さんのことをもっと知りたいです!」
まもなく迎える新しい季節。藤井竜王にとって新しい挑戦が始まるとともに、ファンにとってもますます心揺さぶられる出来事が増えそうだ。盤石の藤井時代か、はたまた新しい主役の登場か。楽しい想像はどこまでも止まらない。