日本将棋連盟・会長の佐藤康光九段(53)が4月4日、東京・将棋会館で記者会見を開き、次期の役員予定者予備選挙に立候補せず任期をもって退任することを発表した。2024年に日本将棋連盟が創立100年を迎えることを期に、「大きな節目のタイミングで次のメンバーに託すのが良いと判断した」とコメント。また、次期役員選挙には通算タイトル獲得数99期の羽生善治九段(52)が立候補の届出を提出したことも公表された。
【映像】佐藤康光九段が竜王戦決勝トーナメント進出を決めた一局
佐藤九段は、1987年3月に四段昇段。デビュー以来、将棋界をけん引する「羽生世代」の一人で、タイトルは竜王1期、名人2期、永世称号を持つ棋聖6期など通算13期で、棋戦優勝は12回を数える。2011年の東日本大震災直後からは棋士会会長を務めてきたが、2017年当時に日本将棋連盟会長だった谷川浩司十七世名人(60)の辞任を受け、2月6日に会長に就任。以来、将棋界のトップとして新棋戦の立ち上げや東西の新将棋会館建設事業のかじ取りを担ってきた。
退任の理由については、「2024年に将棋連盟100周年という大きな節目を迎える。次の100年をどうしていくかを考えていかなければならないのかなと思っている中で、このタイミングで次のメンバーに託すのが良いのかなと判断した」とコメント。「役員就任当初は任期4年くらいかなと思っていたが、コロナ禍という状況もあり、もう1期務めさせていただいた。当初からそんなに長期はできないのかなと思っていた」とし、具体的な決断のタイミングは「今年に入ってから」と語った。
就任からの6年では、六冠保持者となった藤井聡太竜王(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、20)らの活躍などで将棋界が大きく発展。「皆様のおかげで、タイトル戦をはじめ女流棋戦も増加。棋士たちが自分を表現できる場所が増えたことで、近年は“観る将”といった新たなファン層の変化もあり、多くの方に注目いただけるようになった。私自身の成果ではないが、将棋界をご支援してだけることが増えたというのが何よりも嬉しい」とファンへの感謝の気持ちを語った。
また、印象に残ることとしては藤井竜王の飛躍が大きいと言い、「私が役員に就任した当時藤井竜王は四段で、まだ(公式戦を)2局指しただけだった。そこから成長を見てきたが、この短期間で実力と実績を積み上げて6つのタイトルを保持される立場に。プレーヤーとしての観点から見ても驚きで、不断の努力はもちろんのこと、将棋が強いのみならず人間としてもしっかりとした対応をされていることに感心し続けた期間だった」と振り返った。
会長とプレーヤーを兼任する多忙な日々。「棋士として使う頭や体力とは違い、疲れ方も違いがあった。精神的なところも、将棋連盟全体を率いるという責任の大きさも違う。帰宅してそのまま突っ伏して起きて寝てしまい、妻に怒られてお風呂に入るということもあった」と就任当時のエピソードを語る場面も。しかし、“二刀流”をこなす中で2021年の第47期棋王戦では挑戦権争いを演じ、今期の竜王戦でも決勝トーナメント進出一番乗りを決めている。一方、順位戦では名人を含む26期在籍したA級から陥落。「両立は非常に難しい部分もあった。今の(プレーヤーとしての)活躍状況は不満と言えば不満で、自分としてはもう少しできるんじゃないかと思っているところがある。やはり同世代の羽生さんの活躍が良い刺激になった。常に、タイトル戦に挑戦してトップを目指すという気持ちは役員の間も持っていましたし、環境が変わるのでそれをどう活かしていくかと考えている。“心技体”のすべてを自分なりにより万全にして臨んでいきたい」とプレーヤーとしての再出発を誓った。
現在進行中の東西の新将棋会館建設では、世界情勢の変化や材料費等の高騰、資金調達など課題は残る。クラウドファンディングなど様々な支援に感謝を込めるとともに、「会館建設を始めてから紆余曲折はあったが、現状は目標に向かって走り出している状況。もう進み始めているので、今回(自身が)退任することによって止まったり大きく変化することはないのかなと思っている。引き続き、会館建設委員という立場もありますので、全力で務めさせていただく」と語った。
会見では、羽生九段が次期役員予定者予備選挙に立候補したことも発表された。羽生九段は、日本将棋連盟を通じて「この度、日本将棋連盟役員選挙に立候補する届け出を提出しました。2024年に100周年を迎えるにあたり自分なりの力を尽くす所存です」とコメント。今後、4月26日に行われる予備選挙と6月9日の棋士総会と理事会を経て役員が決定する。佐藤九段は「話は伺っていたが、今回のことで特に話し合いを持ったことはない」としたが、「羽生さんが立候補したということは将棋界としても非常に大きな事実。存在感の大きさや実績もさることながら、将棋界の枠を超えて活動していたくなど、発展に大きな力を頂いている」と語った。
藤井竜王の活躍など、大きな注目を集める中で迎える2024年の創立100周年。佐藤九段は、「これまで私も今まで全力で務めさせていただきましたが、コロナ禍で役員を務めていた時期もあり、普及面などで滞っていた部分もあったのかなと思う。より多くの将棋ファンに楽しんでいただけるような関係作りを含めて、より充実した形で支度を行っていければ」とし、「『将棋は変化無限の最高峰』というキャッチフレーズも作らせていただいたが、AIの発達で将棋の持つ魅力や神秘性、奥深さをよりクローズアップしていただけたと思う。そういうところを活かして、自信を持って進んでいけば、おのずと次の100年への道は開けるのかなと感じている」と次期役員メンバーへ期待を込めていた。