シーズン終盤になると、活発化するのが「移籍の噂」だ。今季とくに注目を集めているのは、マンチェスターユナイテッドなどビッグクラブがリストアップしているとも噂されるブライトン・三笘薫ではないだろうか。
【映像】三笘薫 ファウルを訴えるも「誤審」によりPKを与えられず...
移籍に関するニュースでは「市場価値」という用語が頻繫に使用されている。市場価値とは価値を“可視化”するために、活躍度に伴った適正価格が各プレイヤーに振り分けられたものである。簡潔に説明するとサッカー選手の評価基準のことだ。また株価のように毎日変動するものではなく、一定期間ごとに更新をされるものだということもおさえておく必要があるだろう。
今回は日本人選手の例も交えながら、一般的には理解することが難しい市場価値の仕組みについて解説していく。
※市場価値は全てドイツメディア『transfermarkt』を参照。
「市場価値」で重要な4つの要素とは
現時点で最も価値の高い選手であるパリ・サンジェルマンのキリアン・エムバペの詳細を見ると、市場価値のメカニズムがなんとなくわかってくる。
このフランス代表FWは16歳の時にモナコでデビューして以降、第一線で活躍し続けている。リーグ・アンでは4シーズン連続得点王、フランス代表では既に歴代5位の38ゴールを決めており、24歳にしてジネディーヌ・ジダンやダヴィド・トレゼゲらレジェンドを上回っている。
その結果が1億8000万ユーロ(約252億円)という世界最高額の市場価値なのだ。
この経歴からもわかるようにエムバペは“若い”選手ながらも“継続”して“所属クラブ”、“代表チーム”でも成績を残し続けている。
・年齢
・継続性
・所属クラブでの活躍
・代表チームでの活躍
この4つの点が市場価値において重要な点なのだ。以下ではそれぞれの詳細について解説する。
キーワードは「将来性」
年齢は市場価値の付け方に大きな影響を及ぼしている。
例えば同じ能力を持つ20歳の選手と35歳の選手がいるとする。このケースの場合、市場価値が高いのは20歳の選手だ。当然、若い選手の方が長く活躍してくれることが期待されている。
このように選手の価値には「将来性」が含まれている。トップリーグでの実績があまりなくても、高い価格に設定されているケースがあるのはこのためである。
現在の市場価値ランキングのトップ10を見てみると、最年長がエムバペとヴィクター・オシムヘン(ナポリ)、フェデリコ・バルベルデ(レアルマドリード)の24歳と、年齢が重要視されていることがよくわかるだろう。
実際に移籍市場においても若手選手の方が移籍金が高く設定されている傾向にある。これは先述した通り、「将来性」が重要視されているためだ。
また、継続性も市場価値において重要な評価の要素である。
市場価値は選手の活躍度と比例しており、活躍すれば上がり、活躍しなければ下がる。加えて、現時点での評価額に対してのプラスマイナスのため、市場価値を上げ続けるには継続して活躍することが重要なのだ。
なぜJリーグで活躍しても市場価値は上がらないのか
先述した通り、選手の活躍度によって市場価値は上下する。当然ながら活躍すれば価値が上がるのだが、ここで生じる問題が、世界各国のリーグは同一のレベルではないことだ。
最もハイレベルとされているのが、欧州5大リーグとも呼ばれるプレミアリーグ(イングランド、一部ウェールズ)、ブンデスリーガ(ドイツ)、ラ・リーガ(スペイン)、セリエA(イタリア)、リーグ・アン(フランス、一部モナコ公国)であり、ここで活躍をすることができれば、一気に市場価値は上昇する。
その一方、Jリーグで仮に得点王を取ったとしても、市場価値が急騰することはまずない。他の欧州の各リーグのようにカップ戦で強豪国と公式戦で対戦するケースは、あったとしてもFIFAクラブワールドカップのみで、単純にリーグやチームのレベルを比較することができないのだ。
以前と比べると、Jリーグの選手たちの市場価値は上がっているが、この価格が必ずしも選手個人のレベルと比例しているとは限らない。
三笘が日本人選手の市場価値ランキングで1位じゃない理由
現在の日本人選手の市場価値ランキングを見てみよう。
1位:鎌田大地(3000万ユーロ/約42億円)
2位:冨安健洋(2500万ユーロ/約35億円)
3位:三笘薫(2200万ユーロ/約30.8億円)
4位:堂安律(1500万ユーロ/約21億円)
5位:久保建英(1500万ユーロ/約21億円)
これを見て多くのサポーターは、三笘が1位でないことに驚くだろう。だが、これまで解説してきた内容を踏まえると納得できるのではないだろうか。
三笘が冨安と鎌田に劣るのは欧州でのプレー経験だ。欧州5大リーグでのプレーが初めての三笘に対して、冨安は今季が4シーズン目で鎌田は5シーズン目となる。
冨安は今季開幕時点での市場価値が2500万ユーロ(約35億円)と現在と同額で、鎌田は2200万ユーロ(約30.8億円)だった。それに対して、プレミアリーグデビューする前だった三笘は250万ユーロ(約3.5億円)と、両者と比較すると圧倒的に低い。
先述した通り、市場価値は継続性が重要であり、時点での評価額に対してのプラスマイナスなのだ。そのため250万ユーロ(約3.5億円)で今季をスタートした三笘は、他の2人と比較すると始まりの額が低かった分、現時点では彼らを追い越すことができていない。
ただ、このランキングは3月上旬に更新されたものである。シーズン終盤にかけてのこの大活躍を見ると、今季終了後の更新時に三笘が間違いなく日本人市場価値ランキングでトップに躍り出るだろう。
文:安洋一郎(ABEMA/プレミアリーグ)(c)aflo