日本代表・三笘薫が所属するブライトンの評価が世界的に高まっている。
先日“世界最高の監督”の呼び声が高いマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が「ビルドアップ面においてブライトンは世界最高のチームだよ。キーパーからボールをつないでファイナルサードに運ぶプロセスにおいて、ブライトンに勝るチームはない。現代フットボールで彼ら以上のチームはないよ」と、ロベルト・デ・ゼルビ監督率いるチームを褒めちぎった。稀代の名将も絶賛するビルドアップとはどういったものなのだろうか。
ブライトンのフットボールの特徴は?
ブライトンのフットボールはGKを含む最終ラインとボランチ間でボールを回すことから始まる。少ないタッチ数でボールを回すことで、相手の前線を前に釣りだし、“疑似カウンター”を発動させる。この戦術は意図的に相手チームを前掛かりにさせることで、後方の守備陣を手薄にすることを目的としている。
そして前掛かりとなったところで、三笘薫ら圧倒的な個人技を持つアタッカー陣がゴールに迫るというものだ。このフットボールはどのようにして成立しているのだろうか。
世界最高のビルドアップとは
この世界最高のビルドアップにおいて重要なことは、中央のレーンを主戦場とし積極的に縦パスを差し込んでいくというものである。このビルドアップはカイセドやグロスら、ダブルボランチの選手がスイッチを入れる役割を担っている。
GKやセンターバックの選手がボールを持つと、ダブルボランチの選手が自陣深い位置まで落ちる。すると相手の中盤はそれに引きずられる形でラインを上げる。ボランチの選手は自陣深くに落ちてくる一方、前線のアタッカー陣は最前線でラインを形成。そうすることで相手ディフェンスラインを固定し、中盤に広大なスペースを生み出すことができるのだ。このスペースがブライトンのビルドアップにとって非常に重要になる。
このスペースにサイドアタッカーやサイドバックが絞り相手の守備の基準を乱し、パスコースを作る。またはトップの選手が落ちてきてレイオフ(サポートに来た別の選手に落としのパスを入れること)を使い、人数をかけた攻撃を展開する。
その際、マクアリスターらトップ下の選手の動きが重要になってくる。縦パスが入るタイミングで相手選手を引き付け、パスコースを作る必要がある。その流れで落としのパスを受け、前を向く。時には自らパスを受け、ターンすることもある。
前述の形で攻撃陣にボールを供給するためにはパスがズレては致命傷だ。縦パスを通すための十分なコースと時間を作るため、ダブルボランチが巧みにポジションをとり、ボールをさばく。
そのダブルボランチがマンマークにあい、ボールをさばけない場合はサイドバックが中央のレーンに入ってきて“偽サイドバック”と呼ばれる戦術をとる。そうするとサイドに張っている強力なアタッカーに最終ラインから直接パスを通すことができる。
縦パスを積極的に使い、中央レーンを最短ルートで攻略するビルドアップは世界トップクラスだが、選手の能力が高くないと実現できない上、ミスが起これば即ピンチを迎えるためハイリスクだ。
だが、ブライトンはロングボール戦術も高いレベルにある。リスクを犯すこともあれば、センターバックのダンクから一気に高精度のフィードが前線へと渡り、フィニッシュに持ち込むこともある。こうした様々な攻撃パターンがブライトンの躍進に繋がっているのだ。
チェルシー戦で見せた超絶ビルドアップ
世界一のビルドアップを体現しているのがチェルシー戦のシーンだ。GKのサンチェスがボールを持つと、センターバック2人がGKと同じラインに乗る。それと同時にサイドバックがサイドに開き、ボランチが落ちてくる。
チェルシーの中盤は彼らを完全にフリーにすることはできず、じわじわとラインを上げていく。チェルシーFWによるプレスが開始されるとブライトンの選手らはテンポよくボールを回し、縦パスを通すためのコースを作る。トップ下の位置に入っていたアイルランド代表FWファーガソンが立ち位置を修正し、トップの位置にいたパラグアイ代表FWエンシソが落ちてきて縦パスを引き出した。
見事な縦パスが差し込まれるとエンシソはそれを器用に落とし、紙一重のところで味方選手へとつなげ、完璧な流れでビルドアップを成功させてみせた。
グアルディオラ監督がブライトンのビルドアップを世界最高と謳いながらも、自らのチームで採用しないのはやはりリスクが大きいからだろう。
そして注目なのが、「世界最高のビルドアップ」を武器とするブライトンとペップ率いるマンチェスター・シティの直接対決だ。FAカップ準決勝と日程が被る影響で、両者の対戦がいつになるかは決まっていないが、両チームともに欧州カップ戦と優勝という目指すものがある中での真剣対決となる。
「世界最高」とブライトンを褒めちぎったペップは、このビルドアップにどう対抗するのだろうか。