3月末に報じられた、国交省OBによる民間企業への人事介入。去年12月、国交省元事務次官の東京メトロ会長・本田勝氏が空港施設の幹部に対し、国交省OBの山口勝弘副社長を社長に昇格させるよう求めていたことがわかり、大きな問題となった。
国家公務員法では、官庁の職員が民間企業の人事に口を出したりすることは禁じられているが、今回は「OBがOBの社長昇格を要求した」ということで法的には問題がない。
天下り問題が度々俎上に載せられる中、さらなる規制が必要なのか。18日の『ABEMA Prime』で議論した。
本田氏は自身のことを「有力なOBの名代だ」と説明した上で、副社長を社長に就任させれば「国交省としてあらゆるかたちでサポートする」と話していたという。この点について、当時の運輸省からマッキンゼーに転職した経歴を持つ上山信一・慶応義塾大学名誉教授は次のように話す。
「実際にこういうことを言っていたとしら、OB個人=役所そのものになっているので、さすがに問題だ。『警察一家』、昔の『国鉄一家』など◯◯一家という言い方を時々するが、子分の面倒は命をかけて守るというような非常に粘着的な組織構造が背景にあって、本田氏の発言が出ているのではないか」
経済学者の竹中平蔵・慶応義塾大学名誉教授は「許認可に関して役所は大きな権限を持っているので、その影響力は甚大だ」とした上で、人材流動の仕組みに問題点があると指摘する。
「権限を持つ役所が終身雇用・年功序列になっているし、先輩後輩の間にすごく強い人間関係があるから、◯◯一家と言われるわけだ。そこはやはり公務員制度の抜本的な改革をやらなきゃいけない。もう一つ、今は知り合いが紹介するかたちになっているのを、官僚ハローワークみたいなものを作ってオープンマーケットにする。官僚も辞めたら働いて食べていかないといけないし、その人の働く権利はちゃんと守らないといけない」
国家公務員の再就職については、内閣府の官民人材交流センターが一元的に斡旋を行っているが、上山氏によると「ここを使っていたり、民間の人材斡旋会社を利用している人はあまり見たことがない」「誰かから『ここはどう?』と紹介されて行ったという人がほとんどだ。誰かに紹介されたかは言わないことになっている」という。
「先輩がやったように、自分たちもどこかから“天の声”がかかって、『あそこに行ったらいいよ』と言われるのを待つ。それを断るのは大人気ないとなる」
また、NPO法人「トランスペアレンシー・ジャパン」理事長でジャーナリストの若林亜紀氏も「機能していないから今回のようなことが起こる。官民人材交流センターであまりにもひどい斡旋などは駄目という法はあるが、違反しても罰金10万円くらいで全く意味をなしていない」と苦言を呈する。
一方で、竹中氏は「公務員はすごくたくさんの方が辞めていて、民間の人材紹介も使っていろいろやっている。こういうニュースで目にするのはごく一部、それこそ局長や次官になった人で、そういう方々を狙い撃ちにするような議論はやめたほうがいいと思う」と指摘。
また、終身雇用・年功序列に弊害があると改めて触れた上で、「私が金融庁の大臣をやっていた時、民間から優秀な人を入れようと思ったわけだが、国家公務員には不利益処分ができないという特権がある。例えば降格や減給などの処分を受けた場合、人事院に審査請求ができる。つまり、民間から優秀な人が入ってきても、その上に行かせられないわけだ。公務員の抜本的な改革を第一次安倍内閣でやろうとしたが、当時は与党よりも野党が反対した経緯がある」とした。
今の制度を変えるには何が必要なのか。人材の流動性はどうあるべきか。上山氏は「10年で状況は変わってくるのではないか」との見通しを示した。
「今回起きた問題は60代の人たちの話。30代40代は“このまま役所にいると他で仕事ができない人間になってしまう”と焦ってどんどん辞めている。一方、役所は若手人材が足りなくなってしまうので、逆に大企業の30代を採用し始めている。次に起きるのは“出たり入ったり”で、役所を辞めて民間企業に行ったけど40代で戻るということが起こる。
官僚は将来の天下りなんかを期待していてはダメ。自分のやりたいことをしっかり見て、役所で学んだことを民間で使うという積極的な意識を持っていい。企業側も“役所から人が来ると得をする”という発想ではなくて、役所で培われたノウハウや技術が欲しいという具体的なかたちで、OBではなく現役の人を正面からヘッドハンティングするべき。どちらも性格が違うものなので、両方やってみるという雰囲気を世の中に作っていくことが大事だ。でも、最近の若い官僚は相当意識が変わってきていて、“OBの世話になってなんとかなりたい”なんて考えがあるのはあと10年くらいではないか。問題は今回の会社みたいに、天下りのために作られているように見える組織が残ってしまうこと。仕事ができない人がそこに行くような構造になってしまうと最悪だ」
(『ABEMA Prime』より)
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