18日、内閣府があるポスターの使用中止を発表した。内容は若者の性暴力被害予防を啓発するもので、ネットでは絵柄が「イラストレーターのたなかみさきさんの作品とよく似ている」と指摘が相次いで寄せられていた。
【映像】わざと“さいとうなおきさん風”に描いたイラスト ※番組作成(画像あり)
実際にポスターを制作した凸版印刷は「デザインの時にたなかさんの作品が一番テイストに合ったということから『こういうテイストで』という話になった。そこの類似性のチェックが不十分だった」とコメント。制作過程でたなかさんの作品を参考にしたと明かした。
コピーやトレースではない“絵柄パクリ”といわれる問題。ニュース番組「ABEMA Prime」の取材に対し、たなかさんはこうコメントを寄せた。
「色々な立場での意見はありますが、迅速な対応に感謝しています。全てが先人の方の上に成り立っている仕事で、完全なオリジナリティは難しく、作家は悩み考えながら作風を作り、それを大切にしています。見過ごされてきた作風の類似や作家性、もともと伝えたかったメッセージについてもっと深刻に考え、体制を整えていくべきだと思います。私も広告事業に携わる者として、共に考えて良い作品を作って行けたら良いなと思います」
ポケモンカードなどでキャラクターデザインも行う、イラストレーターのさいとうなおき氏は「個人と企業でニュアンスが違ってくる」と話す。
「絵柄パクリ問題は、どちらかというと作家同士の場合が多い。今回のケースは、公的機関が作家本人に依頼せずに、人気作家の上澄みだけをすくってポスター制作をした。少なくともこれが外からの見え方で、悪印象に繋がっている。テーマもデリケートな内容で、より悪印象を強めてしまった。たなかさんへのリスペクトを感じないところも問題だ」
実際にポスターを見たさいとう氏は「法律的にパクリかどうか、証明は難しいと思う」とした上で「本人に直接頼めばよかったのではないか。僕も『僕に頼んでくれ』と言いたくなる」と述べた。
日頃、YouTubeでも情報発信を行っているさいとう氏。「僕の絵柄はいくらでもパクっていいと言っている。パクリに対してそんなに悪印象はない」と話す。自身に仕事が来なくなる可能性については「ありがたいことに仕事がきている」と答えた。
「真似して学ぶ“真似ぶ”という言葉があるように、真似は創作のスタートラインでもある。僕自身も真似して成長してきた。これ自体を悪と決めるのは作家の委縮にもつながる。ずっと明確に線引きしたいと思っているが、なかなか説明しづらい。イラストの価値の一番の源流は何か。僕は、たくさんコピーされることだと思っている。アートとは違う考え方だと思う」
法的には問題ないのだろうか。著作権法にも詳しい「レイ法律事務所」の弁護士・河西邦剛氏は「イラストレーターの権利を侵害しているかどうかだ」と指摘する。
「法的に著作権等を侵害しているか。片方に依拠しているかどうかがポイントになってくる。たまたま同じ作品が日本とアメリカで出てきたら、先後(せんご)関係なく、当然ながら著作権法は問題ない。今回のケースは『参考にしている』と明確に言っている。裁判官は両者の作品を見て、本質的な特徴が類似しているかどうかを判断する」
今回のポスターの場合、イラストのどの部分を見て判断するのだろうか。
「まず、人物の肌が白く、頬だけが少しピンクだ。全体的にすごく細い線で描かれている。目と口も非常に細い。髪型や背景の描き方にも特徴がある。たなかさんの作品をいくつか拝見したが、類似している部分がある。私はイラストのプロではないが、実際にパッと見てたなかさんとの類似性を感じる人が多かった。これを裁判所がどう判断するかだ」
イラストレーターの松尾たいこ氏の夫でもある作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「この手の話は山ほどある」と指摘する。
「売れていない頃は誰も真似しない。だんだん人気が出てくると、ギャラが上がってくる。すると、途端に依頼が減る不思議な現象が起きた。同時に、街の中に松尾たいこ風のイラストがあふれてきた。ギャラの安いイラストレーターに『松尾たいこさんの作風で描いてくれ』と依頼するからだ。本当に業界の悪習だ。トレースなら明らかにコピーだと分かるが、作風だけでは、裁判を起こしても著作権が認められるかはどうか難しい」
アメリカではAIが生成した画像をめぐって裁判が起こっている。アーティスト3人が「作品がAI学習用に無断で使われた」「派生作品で不利益を被った」として著作権侵害などで提訴。ゲッティ・イメージズ社も保有する1200万枚以上の画像が勝手に複製され、AIモデルの学習に使われたと訴えている。AIを利用した画像生成はどこまで許したらいいのか。
河西氏は「まだ法律が対応できていない。AIがいくら作っても、法律上は著作物ではない。思想や感情を表現したものが著作物だから、それらがないAIが作ったものは著作物に当たらないという考え方だ。だから『誰が権利者なの?』という問題になってくる。AIがある以上、世の中に作品がどんどん増えていく。AIが作ったものの権利を認めるのかどうか、法律の大きな問題だ」と話す。
▲さいとうなおきさんの作品
「ABEMA Prime」では、実際に「さいとうなおきさん風に絵を描いて」とAIにお願いして、作品を制作した。AIが作ったイラストを見たさいとう氏は「似ているか似てないかは別」とした上で「AIと人間、どちらに真似されるかでニュアンスが違ってくる」とコメント。
「人間に真似されるのは、少しリスペクトの精神が含まれる。『この人の絵が好きだから影響されてしまった』などが含まれると思うが、AIはそれがほとんど欠落している。だから、イラストレーター本人もだが、見ているファンもハテナマークがつくのだと思う。それが商売として成り立つのか、疑問だ。表現者自身もAIがある世界を前提として、作品がパクられたとしても、その上でどのような価値が生み出せるのか。これも考えていかなきゃいけないと思っている」
(「ABEMA Prime」より)
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