15日、演説中の岸田総理に爆発物を投げたとして逮捕された木村隆二容疑者は、取り調べに対し、いまだ黙秘を続けている。
事件の動機や背景が本人から語られない中、各メディアは木村容疑者の周辺を取材、生い立ちや過去の発信などから動機や人物像に迫ろうとしている。
Twitterでは「過熱報道は模倣犯を呼ぶ」「安倍元総理を銃撃した山上徹也被告の境遇や主張をマスコミが広く報じたことが今回の事件につながった」との意見も見られるなか、「岸田総理を襲撃した男の人物像、テロの動機について報道合戦が始まった。私はこれらの報道に『売れる』という以外の価値を感じない」と投稿したのが、自民党の細野豪志衆議院議員だ。
容疑者の背景、境遇を伝えることの是非について、報道番組『ABEMA Prime』では細野議員を招いて議論した。
■「事実があるから報じればいいは極めて無責任」細野豪志議員の主張
現状伝えられている内容について、細野議員は次のように話す。
「テレビや新聞を見ていると比較的冷静に報道されているが、ネット上で拡散している情報や週刊誌はかなり詳細に人となりや動機を報じている。マスコミは極めて大きな特権を持っているという自覚を持っていただきたい。事実があるから報じればいいという態度は極めて無責任だ。マスコミを批判しても政治家は何の得にもならないし、やりたくない。ただ、その自覚を促さないと、“視聴者がいればそれに応じる”ということであれば特権のはき違いだと思う」
細野議員自身、子どもの貧困やひきこもり問題などの深刻さを目の当たりにしてきたというが、「その状況にある人たちは、苦しみながらも克服しようと努力している。テロリズムをそこに結びつけるのは、努力をしている人に失礼だ。テロを起こした時点でその者の主張は無価値だということにしないと、それを見て繰り返す人がいるのではないか」との見方を示す。
容疑者の供述は他の事件でも報じられるものだが、その必要性については「ものによる。しかし、武器の作り方を克明に報じるのはミスリードだ。報道したことから出てくる結果について無責任であることはあり得ない」と指摘した。
そのうえで、「テロは社会をぶち壊すということに危機感を持ってほしい。去年の(安倍元総理銃撃事件の)報じ方をもう一回検証してもらえないか。もう一回テロがあったら日本の選挙のやり方、政治家と有権者が接する機会は限られると思う。会場で探知機を通らないと政治家の話を聞けなくなる。それは本当に深刻な状況だということをわかってもらいたい」と危機感を募らせた。
■「犯人報道を一切すべきでない」は極論? 識者からは異論が
これに対して、細野氏のツイートに反論する投稿をした国際政治学が専門の佐々木寛氏(新潟国際情報大学教授)は、「暴力行為や犯罪をする時には一生を棒に振るリスクやコストを払う。それでもなぜ、そういう人が生まれるのかを充分に考えないと暴力から民主主義を守れない。その場を作ることがメディアや政治家、市民社会の役割。興味本位ではなく深刻な問題として考える意図のもとに報道・議論されることが望ましい」とメディアのあり方を提言。
“私はテロを起こした時点でその人間の主張や背景を一顧だにしない。そこから導き出される社会的アプローチなどない”という細野氏のツイートに対して、「報道陣も政治家も知識人もテロは無意味だと言わないといけないが、なぜこのような反社会的な犯罪的な暴力現象が起きたかについては、政治家やメディアもずっと耳を傾けて調べないといけない。それを細野議員は“一顧だにしなくていい”とした。犯罪やテロが個人の資質の問題であるとするのは、社会の病気を治す立場にある政治家として失格ではないか」と指摘した。
EXITの兼近大樹は「弱者が頑張っているという話は、頑張れなかった人たちを見ていないエリート思想だ。“無敵の人”が生まれている構造があって、それを無視し続けるから闇が深くなっていく。闇に光を当てるのが政治家の仕事だと思うが、無視されるのはそういう世界にいた人間としてつらい」とコメント。
また、弁護士の南和行氏は「木村容疑者に山上被告の影響があったことは否定しない。あの事件で旧統一教会の問題がやっと国会で議論されるようになったわけだが、そもそもなぜ政治は今までそういう状態になっている人に光を当てられなかったのか。世の中の人が見たいということでテレビなどが伝え、細野さんはそれを『商売だ』とおっしゃるかもしれないが、政治が問題に光を当てず放っていた結果なので、それを政治家が言うのはどうなのか」と述べた。
■報道が犯人の主張を広めた? 細野氏の再反論
犯人の背景を報じてこそテロから民主主義を守ることにつながる――そんな反論に対して、細野議員は「社会的に困っている人は本当にたくさんいる。ただ、その問題とテロリズムを結びつけて、背景を報じることが社会全体を良くするとは思えない。模倣犯が出ることが率直に言って怖い。去年の事件後に模倣犯をどうなくすかの議論がない。しっかり議論すべきだ」とふたたび反論。そして、次のように強い言葉で語った。
「テロを起こした男は自分で裁判まで起こしている。確かにリスクはとっているが、自分の主張が世の中に流布しているという意味では成功している。選挙に出られないとか、供託金が高すぎるなど、一顧だにされなかった主張がテロによってこれだけ伝わっている。厳しい言い方だが、見方によってはメディアがそれを手伝っている。彼が伝えたいと思っていることを今マスコミが伝えることに関しての価値はまったく感じない」
この主張にはテレビ朝日の平石直之アナウンサーが言及。「かつての報道が模倣犯を生むのではないかという雑誌の指摘があり、それに近い事象が起こったこと、見る人の“知りたい”という思いに乗っかってセンセーショナルに報じてきたところへの反省は必要だと私自身も思う。ただ、容疑者の供述を報道すべきかは『ものによる』となった時、じゃあどうすればいいのか?を探りたい。全く報じなかったり、選別したりすることの難しさもあるので、両極端で終わるのはよくないと思っている」との考えを述べた。
(『ABEMA Prime』)
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