若新雄純氏「国が代わりに施設を設けるか、本当にダメなら禁止すべき」 北海道の赤ちゃんポストが立て続けに2人受け入れ 当事者と考える民間と行政の責任
【映像】「子どもを一時的に預かっているのか、それとも最後まで育てるのか?」への回答
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 去年5月、北海道・当別町に開設された「ベビーボックス」。2月に両親から先天性疾患をもつ乳児を、3月には未婚女性から乳児を、それぞれ対面で引き取った。

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 赤ちゃんポストは、望まない妊娠や育てられない環境で生まれた赤ちゃんを守る目的でヨーロッパなどで設置され、日本でも熊本の慈恵病院が運営し、当別町の「ベビーボックス」は日本で2例目だ。

 これまで28件の相談を受けたというが、北海道は近くに連携できる医療機関がないことなどから、文書や口頭で16回にわたり赤ちゃんを受け入れないよう求めていた。今回の2人の受け入れについては、法的には問題ないとする一方、養育環境が適切かは不安な部分があるため、保健師の派遣や児相職員による見守りなどの支援を行うとしている。

 赤ちゃんポストは民間任せでいいのか?行政による積極的な対応はできないのか? 『ABEMA Prime』では、こどもSOSほっかいどうの代表で「ベビーボックス」の責任者である坂本志麻氏と共に考えた。

■2人の赤ちゃんを受け入れた経緯と体制に問題はないか

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 2人を受け入れた経緯について坂本氏は「先天性の病気がある赤ちゃんについては、“どうしても育てられなくてもう限界だ”という実母さんからの相談がきっかけ。その後、実父さんとも話を重ねて、最終的に直接お二人にお会いして、手渡しで引き受けた。もう一人の未婚女性の方はすでに出産予定日が過ぎていたが、“預けたい”と相談をもらった後、下見に来てもらってお話を聞くなかで、ニーズや行政との繋がりも含めて受け入れることに至った」と語った。

 2人目の受け入れにあたっては妊婦、乳児ともに養子縁組をしたという。「そのお母さんはすごく困難を抱えていた。法的な親でないとできない諸手続き、それも早急に行う必要があったので、円滑にいくように各方面に働きかけて、医療機関での出産も含めてやりとりをさせていただいた」と説明した。

 2人の赤ちゃんに対しては“普通のお母さん”として向き合い、24時間一緒に生活。手が足りない時は、ボランティア協力者10人(看護師5人、保育士1人、主婦、社会人、学生など)の力を借りているという。

 児童相談所や福祉事務所に相談をして、乳児院・児童養護施設・里親などさまざまな事情に対応する仕組みが社会には存在するが、なぜ赤ちゃんポストという形にこだわるのか。坂本氏は「お子さんの命もだが、親御さんの命と心も守りたいと強く願っている。お子さんを殺害したり無理心中したりという事件が立て続けに起こっているが、そこをどうしたら解決できるかと考えている」と答えた。

 作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「日本小児科学会は虐待で死亡した可能性のある子どもが年間約350人にのぼるという推計を発表している。それだけ育てられない人がいる、高校生など言い出せない人がいる中で、国・自治体が支えるのは当然のことだと思う」と指摘する。

 坂本氏は「緊急性のある相談など全ての事案で、医療機関はリスク覚悟で受け入れをしてくださっている。また、どうしても親に知られたくない、出産予定日が過ぎていてお金がないという人も、生活保護の担当者は事情を汲んで親族照会なしに即時申請で動いてくれた。行政は表面で言われている以上に“助けたい”という気持ちで、できる限りのことはやってくださっている」と補足した。

■国が施設を設けるか、本当にダメなら禁止に

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「子どもを一時的に預かっているという気持ちなのか、それとも最後まで自分で育てていくという気持ちなのか」という問いに坂本氏は「子どもにとっての幸せが第一優先なので、私が養育することがベストであれば喜んでする。そうではなく、実親さんの状況が整って育てたいと言われるのであれば、子どもの幸せを願ってそのようにしたい」と語る。

 また、「北海道庁や大きな医療機関が赤ちゃんポストを設置してくだされば何よりだから、そうなれば私は手を引かせていただく、と道庁には伝えている」とも話した。

 プロデューサー・慶応義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「これはとても大事だと思う。ネットでは『坂本さんは本当に責任をとれるのか』『その体制は大丈夫なのか』と書かれるけど、それはお門違いな指摘だと思っている。そんなことを言うなら、国が代わりに施設を設けるか、本当にダメなら禁止すべきじゃないか」との見方を示した。

 この先何人まで育てるつもりなのかと聞くと「助けが必要な親御さん、妊婦さんがいらっしゃったら断らない」と答える坂本氏。「少なくとも、私とつながってくれれば。北海道の児童相談所やすばらしい里親さんもいらっしゃるし、全国からもぜひ育ててみたいというお声も届いている。だから、みんなで子どもさんを支えるような形ができたらいいなと思っている」と話す。

 4月だけでも、愛知県と広島県、大阪府で赤ちゃんの遺棄事件が3件発生している。赤ちゃんポストの取材を続ける元熊本日日新聞記者の森本修代氏は「熊本で赤ちゃんポストができて16年経って、161人の子どもが預けられていても遺棄事件が起きている。この人たちが赤ちゃんポストに行かなかったという現実をまずは受け止める必要があると思う」と厳しい現実を語る。

 さらに「殺意を持っている親はほとんどいないんじゃないか。おそらく何らかの事情があって、医療機関にかかれずに孤立出産をしてしまって、死産だったために捨ててしまったケースがほとんどだと思う。赤ちゃんを遺棄するくらいだったら連れてきてほしいという願望はみんなあると思うけれど、死産する前になんとかして支援につなげることを考えていく必要があるのではないか」と話す。

 作家・社会学者の鈴木涼美氏は「大阪2児餓死事件は母親がマンションに閉じ込めた状態だったけど、人通りの多い道に置いていたほうがまだよかったのでは。道に捨てるほうがひどく見えるけど、誰かが見つけてくれたり、行政の支援につながって、死なずに済んだかもしれない。きちんとした手続きを踏めないような精神状態の人が『助けて』と声をあげられる場所が街にあってほしい」と自身の考えを展開。

 若新氏は「行政は積極的にできないと言いたいのかもしれないが、『捨てることがどうなのか』という正論を吐いても問題は根本解決しない。言葉は悪いが“マシな捨て方”について考えなくては」と投げかけた。

(『ABEMA Prime』より)

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