“移住失敗”YouTube投稿が380万再生 トラブルの原因は? 「地域おこし協力隊」当事者取材から浮上する制度の問題点
【映像】“移住失敗”動画が380万再生 現場で何が?
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 「地域おこし協力隊」として活動した男性の動画がYouTubeで380万回再生を超え、反響と共に大きな物議を醸している。

【映像】「地域から追い出して…」反響を呼んだ“YouTube投稿”(冒頭〜)

 動画を投稿した柳生明良さん(34歳)は、都会から地方に移住し、夢だった田舎暮らしの日々を発信していた。移住先は愛媛県にある自然豊かな別子山地区。過疎化が進む人口約100人の村だった。

「いろいろ考え、離れることが最善策だと思いました。自分、地域の団体、行政の担当、三者すべてに思いのすれ違いがあり、住民トラブルが絶えませんでした」

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 もともと東京で教員を務めていた柳生さん。田舎暮らしを夢見ていた中、コロナ禍をきっかけに一念発起。2021年11月、愛媛県の別子山地区に「地域おこし協力隊」の制度を使って移住したが、約1年で退任することになる。

 地域おこし協力隊とは2009年に国が始めた制度で、都市部から地方に移り住み、地域の魅力発信や活性化をサポートする取り組みだ。任期は1年から3年で、その間、給料や活動費として年間上限480万円(報償費等280万円+その他経費200万円)が国から支給され、現在も全国で6000人以上が活動している。本来なら地域を活性化させるはずの協力隊が、なぜトラブルになったのか。

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 協力隊の仕事は、契約する自治体が設定できる。柳生さんの場合、活動の8割は自由にテーマを決めることができたため、古民家再生の動画づくりなど、地域のPR活動を行っていた。残りの2割は決められた地域活動に当てられたが、トラブルの発端はこの業務だった。

「別子山地域の未来を考える会の方々とトラブルになってしまった。協力隊の地域活動の2割は同会の仕事を手伝うことだった。だが、私が行政から受けた指示は『地域活動=未来を考える会の仕事ではない』と言われた。利益や雇用を生み出せている仕事ではなかったので、私としては続ける重要性やメリットをあまり感じなかった。私が『違った形で地域に貢献させてもらえないか』と言っても、団体からは『手伝わないならやめてもらう』『お前がいると次の協力隊が我々の言うことを聞かなくなる』と言われた」

 求められていた活動は何なのか。団体の代表を訪ねた。

 別子山地域の未来を考える会の和田輝世伸さんは「仕事がないと若者が住めない。若い人にいろいろやっていただきたい。そのために地域おこし協力隊の力が必要だ」と話す。

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 メープルシロップが採れるカエデの栽培など、新たな特産品づくりに力を入れている別子山地域。しかし、取り組みを始めて約10年、いまだ採算の見通しは立っていない。

 先行きの見えない産業に疑問を感じ、活動から身を引いた柳生さん。そんな柳生さんに和田さんは「ある日突然来なくなってそれきりだ。できないことは『できない』と言ってくれればよかった。『これだったらできる』と提案して欲しかった。我々が書いている募集要項を見て来てもらっているから、とりあえず我々と一緒に仕事をやってもらうのが筋じゃないかと思う」と訴える。

 すれ違う両者。ニュース番組「ABEMA Prime」の取材に、地域おこし協力隊を管理する自治体は「団体が行うサトウカエデなどのサポートは契約上、必須ではなかった」とした上で、「団体の取り組みに限らず、少しでも地域活動をしてくれればいいと考えていた」と回答した。

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 関係を修復できないまま、地域おこし協力隊を退任し、別子山を離れた柳生さん。「YouTubeでは、個人のプライバシーの問題に引っかかってしまって話せないこともたくさんあった」と明かす。

「何が起きたか、具体的なことは話せない。ただ、追い出されたのではなく、自分で決断して出ていった。私と妻の大人だけであれば残る選択肢もあったが、一部の人と人間関係が険悪になってしまった中で、子育てをしていくこと、妻も産後間もなかったのでケアしながら向き合っていく気力がなかった」

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 動画では団体と疎遠になった後、嫌がらせめいたことが続いたと明かされている。

 これにネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「法に触れるなら、もう一回行政を通して法律的な処理をしたほうがいい。何か嫌がらせを感じても、別にその地域の人にとっては全く嫌がらせじゃない、普通のコミュニケーションだという可能性もある」と指摘する。その上で「客観的に見て問題があっても『まずは自分たちで問題を把握しよう』はできないだろう。自分たちの村のルールはずっとそれが当たり前だからだ。外部の人が来た時に、その当たり前とズレを感じる。この仕組みで日本全国がうまくいくのは無理だ。うまくいく地域はあっても、柳生さんみたいに苦労する人が今後も出てくると思う」と述べた。

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 自治体との関係について、柳生さんは「直属の担当者との話し合いはあった。『必ずしもそれが地域活動ではないよ』というのは示されていた。私はその担当者の指示に従って動いていたので、そこは問題なかったと自分では思っている」と話す。

 YouTubeの動画の反響について柳生さんはどう受け止めているのか。

「YouTubeには約6000人の登録者がいて、その方々は応援してくれてコメントもくださっていた。そういった方々にどうして別子山で生活できなくなったか、伝えたかった。理由を説明しないといけないと思って公開した動画だった。あの動画を公開したときには、まさかこうなるとは思っていなかった。想像力がなかったことは深く反省している。新居浜市別子山はもちろんのこと、日本全国のすべての田舎がダメといった書き方をされたコメントもあって、それを印象付けたのが私の動画だ。そこは本当に申し訳ないと思う」

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 柳生さんが公開した動画について、「別子山地域の未来を考える会」は「誇張された虚偽的な内容によって地域にネガティブな印象を与えたことに憤りを感じる」とコメント。自治体の担当者は「時系列や内容に歪曲された表現もある。公務員という立場で、このような動画を公開したのは残念」と述べた。

 これに柳生さんは「虚偽的な内容や歪曲された表現と話されているが、どこが虚偽的で歪曲されているのか、明確にされていない。僕からすると、自分に起きた事実を書いただけだ」と反論。「動画を公開したあと、行政の市長や管理職の方々とも話をした。その方々にも『おっしゃられていることは事実だから、これを消してという指示はできない』ということを言われている」と述べた。

 自治体職員時代に協力隊を活用した地域おこし活動をしていた、地方創生プロデューサーの寺本英仁氏は「8割と2割の話がどういう配分なのかよくわからない」と指摘する。

「もう一つは『誰に雇われているか』だ。地域おこし協力隊は、総務省から役場で事業が始まっていて、雇用主は役場になる思う。地域団体から業務を言われても、そこはちゃんと役場から『こういう内容で受け入れをしてください』と言わないと難しい。紙に書いて契約書で業務内容を確認するべきだ」

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 寺本氏が手掛ける島根県邑南町の場合は、地域おこし協力隊事業を法人に委託契約し、業務内容とカリキュラムを決め、応募者に研修を受けてもらうという。

「役所の人間は異動がある。担当が変わったら、わけが分からなくなる。うちは12年くらい同じような法人で同じスキルを持った相談役がいる。ちゃんとルールさえ決めてやれば、田舎も都会も関係なく、僕はうまくいくと思う」

 その上で、寺本氏は「動画を公開したら影響力はかなりある。一方通行なので、その地域の人、自治体は厳しく思うだろう。地域おこし協力隊は公務員だ。だが、そういう教育を自治体もしているのかどうかだ。いきなり『公務員だから』と言われても、地域おこし協力隊の人からすると『えっ』となる。地域も反省すべきところはあるだろうが、動画を公開する前に自治体に相談されてもよかったのかなと思う」とコメント。

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 ジャーナリストの堀潤氏は「カエデの育成などは行政の要件になかったわけだ。そもそも要件になかったことなのに、なんとなく地域の慣習でやるのは不幸だ」と指摘する。

「僕も地域おこし協力隊をいろいろ取材しているが、ちゃんとやっている地域は役所の人がすごくその人の人生を背負って一緒になって考えている。公の事業だから、本来は当事者間でこじれさせてはいけない」

(「ABEMA Prime」より)
 

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