先週末、東京・代々木公園で開催されたLGBTQの人権啓発イベントに去年の約2倍もの企業などが出展。2日間で20万人が来場するなど年々、性的マイノリティへの理解は深まっている。そうしたなかで最近ではカミングアウトの様子を自ら撮影、YouTube上で公開する人も増えている。
少しずつ理解の輪は広まっている一方、まだ充分ではないのも現状だ。カミングアウトをしたことで親との関係が崩れ、悩む当事者たちも多い。
そこで、『ABEMA Prime』では当事者と専門家を交え、課題や必要なサポートなどについて議論。実際にトランスジェンダーであることを母親にカミングアウトし、当初は受け入れてもらえなかったものの、今や一番の良き理解者になったという家族の例を中心に考えた。
トランスジェンダーをカミングアウトした貴毅さんと母・春美さんの苦悩
31歳の貴毅さんは「女性として生まれ、今の性自認は男性として生活している。自分の性に対して悩み始めたのは小学3年生ぐらいの時だった」と話す。女性として生まれたが、性自認が男性で、恋愛対象は女性だ。
語り始めたのは、母親から拒絶され苦しんだ現実だった。
15歳の時、貴毅さんは母親に自らの性自認をカミングアウト。帰ってきた言葉は「やめてよ、気持ち悪い」だったという。
その直後から「ドアノブを触ったところを拭かれてしまったり、買い物に行っても“私の近くを歩かないで、恥ずかしいからやめて”と言われて、もう生きてていいのかなと正直思った」と当時を振り返る。
貴毅さんの母、春美さんにも話を聞くことができた。
春美さんは「私の中では想像していなかったことが起き、拒絶になってしまった。勇気を持って伝えてくれたんだろうなと考える余裕は全然なかった」と振り返った。
春美さんが受け入れるまでにかかった時間は10年。何がそう変えたのだろうか。
今は一番の良き理解者に 春美さんが10年を経て“変われた”訳
春美さんは「私に知識がなくて、どうしても現実を受け入れ、理解することができなかった。とにかく間違っていることが起きたとしか捉えられなかった。それで数年かかってしまった」と語る。
「当時は正直、かなりしんどかった」という春美さんは、貴毅さんを受け入れられるようになった経緯を聞かれ、次のように答えた。
「何かをしたとかではなく、私自身が子どもを受け止めたいのに、受け止められないのはなぜかという視点で自分と向き合った。いろいろな壁にぶつかっている子どもを見て、私自身その部分にすごく向き合ったことがきっかけだ」
「やはり私自身、知識を自分から取りにいこうとしなかった。当時、もう少し社会に、気楽にそういうことを知ることができる場があれば、10年もかからなかったのかなと感じている」
専門家が語るカミングアウトの実情とは?
専門家はこの問題をどう見ているのか。全国の当事者やその親と交流するNPO法人「ASTA」共同代表の松岡成子氏に話を聞いた。松岡氏は自身も息子にゲイだと告げられた経験があるという。
親へのカミングアウトは、やはりハードルが高いのだろうか。
松岡氏は「“産まなきゃよかった”という声もある。ハードルは高いし、最大の壁。どっちも慈しみ合っているのに切ない状況になる」と述べた。
親の反応については「もともと多様性に敏感で、いろんな人がいて当たり前という価値観を備えている人は、概ねポジティブな反応をするが、社会的な刷り込みをまっすぐ受け止め、性的マイノリティ=常識から外れていると思い込んでいる人は、ネガティブなことを言ってしまう印象を持っている」と答えた。
そのうえで、親へのカミングアウトがうまくいった事例を「つい泣きながら言ってしまったという例など、肩肘はらずに素直に話している人のほうがうまくいく印象がある。準備を整えて発表するほうが案外失敗するのかなと。親の日頃の言動を見て、“今は言っちゃ駄目”“こういう友達がいるけれどどう思う?”とリサーチしたり、本当にみなさんいろんなことをしている」と分析した。
松岡氏は「自分の子が保育園、幼稚園、小学校に上がっていくなかで、LGBTQや発達特性を持っている子、移民の子などいろいろな子がいる。そのクラスメイトを“いじる子”に育てたいのか、“守る子”に育てたいのか、“寄り添う子”に育てたいのか。あなたはどんな子どもに育てたいだろうかということを、子育てをしている保護者の方に考えてもらえたらと思う」と述べた。
無理して親へカミングアウトしなくて良いという意見も
一方でスタジオでは、テレビ朝日の田中萌アナウンサーから「友達なら“ふーん、そういう人なんだ”で終われることも、家族だからこそ、親目線でこう育ってほしいと、思いを強く持ってしまうこともあるのだろうか。だからこそ子どもは親のものではなくて、やはり別人格で別の人生があることを理解しないといけないと感じた」という意見も出た。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「人生相談も距離が遠いほうがしやすく、身近な人には相談しにくい。それこそ1990年代に2ちゃんねるが登場した時に“俺にも人生相談をする場所があった”と言っている人がたくさんいた。ああいうところなら匿名で気楽にしゃべることができるという。親と子は距離が近すぎるからこそ、無理をして理解しなくてもいいのではないか。
無理してカミングアウトするよりも、とりあえず親は置いておいて、もっと遠くに仲の良い友達を作るとか、気楽にしゃべれる場を作るほうが健全ではないか。人間関係は、少し遠い距離の友人をたくさん作ったほうが健全で、人生楽に過ごしやすいという研究結果もある」という見方を示した。
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10年を経てカミングアウトを受け入れた春美さんは、「10年の体験は本当に必要だったと感じている。この体験を通してお伝えしたいのは、我が子は自分のものではない、親がコントロールできるものでもなく、子どもが自分らしく笑顔で生きることをどこまで親が理解できるか。それが子育てには必要だと感じている。当時、子どもを苦しめてしまったが、今こうして命あること、本当に息子の存在に助けられたなと感謝している」と語った。(『ABEMA Prime』より)
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