ブライトンはクラブ史上初となる欧州カップ戦の出場権獲得に向けて快進撃を続けている。5月8日時点で、他クラブと比較して3つの未消化試合を残して7位という高順位だ。
ただし、成績やチームの戦いぶりが順調な一方で、右SBは怪我人の影響で満身創痍でもある。本来であればフェルトマンが1番手で、2番手がランプティなのだが、前者はハムストリングの負傷、後者は膝の怪我で今季は絶望という状況なのだ。
これまで、彼らの不在時は中盤が本職のグロスを右SBとして起用してきたが、同選手も日本時間5月5日のマンチェスター・ユナイテッド戦をコンディション不良で欠場した。
トップチームに右SBが誰もいないという緊急事態……。指揮官、デ・ゼルビ監督が抜擢したのはボランチのカイセドだった。試合序盤、このエクアドル代表MFが右サイドから起点となる形で、逆サイドの三笘薫がフィニッシュに持ち込む場面も作り出した。
果たしてカイセドのSBという選択は吉と出たのか──。
【映像】“右SB”カイセドが起点となって三笘薫がフィニッシュ!
ぶっつけ本番だったカイセドの右SB起用
先述の通り、ブライトンのデ・ゼルビ監督は、本来3つあったはずの右SBの選択肢がなくなったことで、カイセドを同ポジションで起用することを決断した。
地元メディア『The Argus』の取材で、このエクアドル代表MFは「右SBは初めてだったので、ベストを尽くそうと思った」と明かしており、同ポジションでプレーすることはキャリアでも初めてのことだったようだ。
プレーに関しては「よかったんじゃないかな。(対峙することになった相手の左WG)ラッシュフォードはマークするのが本当に難しいウイングなので大変でしたが、できる限りのことはしたと思う」と、自身に及第点を与えている。
驚くべきことに、カイセドは練習でも右SBの練習をしていなかった。試合の3時間前にデ・ゼルビ監督とミーティングを行い、このポジションでプレーしたいかどうかを問われたそうだ。それに対して「監督がそこでプレーしてほしいのであれば、喜んで(プレーします)。できる限り頑張ります」と答え、試合直前に右SBでの起用が決まったのだ。
カイセドが右SBで活躍できた理由
カイセドが自身のパフォーマンスに及第点を与えたように、彼のパフォーマンスは初めて右SBとして出場した選手とは思えないほど上出来だった。DFとして最も重要な役割である、対峙するFWを抑えることだけでなく、状況に応じて右サイドを駆け上がって攻撃参加し、ボックス内にクロスも供給した。そして中盤の選手らしく、内側にポジションを取る「偽サイドバック」の役割をこなすことで、ビルドアップのサポートにも回った。
カイセドはなぜ、ぶっつけ本番でも右SBとして活躍できたのか。それは、スピードと対人戦の強さ、相手のプレスにも動じない足元の技術、周りの状況を常に把握しながらプレーできるサッカーIQの高さなど、彼があらゆる秀でた特徴を備えているからだ。
中盤でプレーする選手は360度の視野を求められているため、視野が狭くなるSBへとポジションを移しても、ビジョンの観点では困ることはほとんどない。その一方で、相手WGとの対人に関しては、中盤と比較するとより1対1の強さを求められるが、カイセドはすでに、その強さを持っている選手だ。さらに、周囲の状況を的確に把握し、最適解を選べるため、ビルドアップのサポートや攻撃参加も可能である。SBの適性も十分だと言える。
”SBカイセド”は今後のオプションになるか?
ただし、カイセドの右SBが「今後のオプションになるか?」と問われれば、答えは「ノー」だ。厳密に言えば、今回のようにSBを主戦場にする選手がことごとく起用できないといった緊急事態でなければ、このポジションでピッチに立つことはないだろう。
というのも、カイセドの右SB自体には問題がなくても、彼が中盤から抜けることでブライトンの生命線であるビルドアップに課題が生じるからだ。
マンチェスター・ユナイテッド戦でカイセドに代わってボランチで出場したビリー・ギルモアもいい選手ではあるが、カイセドは今やワールドクラスの選手であり、彼が中盤に”いる”と”いない”とでは、チームの機能性が著しく変わってしまう。もちろん偽SBとして中盤に顔を出すことも可能だが、あえて右SBで出場するメリットがあまりない。
それどころか、三笘薫ら前線の選手にとっては、カイセドが中盤からいなくなるデメリットは大きい。彼はダイレクトでボールをさばき、前線の選手が前掛かりに攻撃をしやすい体勢でパスを出してくれる選手だ。中盤での舵取り役がいなくなる影響は計り知れない。
こうした背景を考えると、今後カイセドの右SB起用はあまり考えられないだろう。デ・ゼルビ監督もこの若きMFを中盤で固定して起用したいと思っているはずだ。幸いにもグロスのマンチェスター・ユナイテッド戦の欠場はエヴァートン戦に向けて大事を取ったものとされており、再びの緊急事態でない限り、次節は再び“ボランチのカイセド”となるだろう。
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