「当院は2023年5月8日をもちまして閉院いたしました。通院いただいておりました患者さまには大変ご迷惑をおかけいたします」(ホームページより)
【映像】「遅くとも5月中には」閉院したクリニック 実際の謝罪文(画像あり)
8日、都内の産婦人科クリニックが突然閉院した。予約を入れていた患者は寝耳に水だったという。
「突然、先生から『クリニックの都合でもう診られない』と電話があった。もうびっくりだ」
そう語るのは、このクリニックで出産を予定していたゆずさん(仮名)だ。その後、ゆずさんは自分で転院手続きを行った。出産プランは組み直しになり、元々希望していた夫の立ち会い出産は叶わなくなった。
地方自治体などでは、病院の産婦人科の廃止や産科医院の廃院が相次ぎ、子どもを産む施設自体の減少が深刻化している。ゆずさんの友人も検査の結果が出る前に閉院したという。
「友人は来月出産予定だが、閉院の連絡を受けていなかった。中には紹介状も届いていない人もいて、対応もまちまちだ」
40年以上にわたって産婦人科医として地域医療に携わる、神戸のパルモア病院院長・山崎峰夫氏は「急な閉院は非常に特別なケースだ」と見解を述べる。
「妊産婦さんは非常にご不安になられたと思う。普通は分娩までちゃんと診る。何らかの形でやめなければいけない時は『ここに行ってください』と手配して、紹介状も作ってお渡しする。ある程度の準備期間が必要だが、それがなかったのかもしれない。想像だが、院長先生の健康問題、あるいは急に資金繰りが悪くなった、スタッフが大量に同時退職されたなどの場合は『もうやっていけない』となる」
ゆずさんの場合、紹介状は有料となり、10以上の病院に連絡。ようやく転院先が見つかるも再検査などで余計な費用がかさんだという。
山崎氏は「検査をもう1回するかどうかは、病院によって違う。特に大きい病院では、自分の病院のデータを優先する。一方で、10以上の病院にご自身で連絡してもらうのは、あまりあってほしくない。本来ならば、転院先を見つけてから、紹介する形が望ましい。重要なのは、医師と妊婦さんとの信頼関係だ。これをうまく早く構築する必要がある」と話す。
その上で、山崎氏は「長時間拘束の問題がずっと変わっていない」と訴える。
「拘束は長いだけでなく、異常が突発する。予想できる異常もあるが、全く順調に来ていた妊婦さんが入院されて、突然赤ちゃんの心拍が不安定になるケースもある。夜中でも急いで帝王切開をしなければいけない。これは産婦人科医であれば、誰でも経験する。急に短時間でいろいろなことを緊張状態の中でやる。しかも、赤ちゃんは『無事に生まれて当然』と思われている。初期研修医あるいは後期研修医で『産婦人科が面白い』と思っても、その矢先につらいことがたくさん起こって心が折れてしまう。私は、お産の医療に携わっていることを誇りに思っているし、本当にやりがいのある仕事だと考えている。だが、若い医師に産婦人科はなかなか選んでいただけない」
山崎氏によると「産科は医療と言いながら医療外のことも多い」という。
「妊娠、出産は健康な生理的現象だ。ただ、一歩間違えると、とんでもないことになる。助産師と医師がうまく協働して、妊産婦さんを指導・サポートする。チーム医療だから、やはり人件費がかかる。スキルを持った助産師と産婦人科医師をたくさん雇わないといけないので、施設の経営に人件費は重くのしかかってくる」
国は子育て世帯の経済的負担を軽減するために、今年4月1日以降の出産において、出産育児一時金の支給額が8万円引き上げられた。病院経営の観点では、どう受け止めているのか。
「私たちの病院では、時間外の当直は全て院外の先生にお願いしている。その分、人件費もかかるので、世間が思っているほど、そんなに収益はあがっていない。出産育児一時金が8万円上がって、私たちが『少し給料を上げたい』と思っても『便乗手当だ』と言われることもあるので、なかなか苦しい。医師の当直料は2005年あたりと比べて、今は約2.5倍に上がっている。上げないと先生に来てもらえない」
なぜ、産婦人科医の労働環境は変わらないのか。山崎氏は産婦人科医師の男女比に言及する。
「今は産婦人科の入局者の6割から7割近くが女性だ。ただ、女性医師にも出産、子育てがある。もちろん子育ての中でうまく当直をやったり、あるいはオンコールで呼んで出てくれる先生もたくさんいるが、実際はとても難しい。9時〜17時は女性医師がメインで、ほかの時間は私のようなおじさん先生や若い男性医師が頑張っている。一方で、男性医師が40〜50歳になって『少し楽をしたいな』と思っても、なかなか開業が難しい。女性の開業医に人は集まるから『俺は70〜80歳になってもお産を取らなきゃいけないのか』と思って、産婦人科に入ってくれる男性医師がなかなかいない」
(「ABEMA Prime」より)
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