今シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)も佳境を迎えた。現地時間16日と17日には決勝進出をかけた運命の準決勝セカンドレグが行われる。それでは“事実上の決勝戦”とも呼ばれる「マンチェスター・C対レアル・マドリード」のセカンドレグをプレビューしよう。
[写真]=Getty Images
昨シーズンの準決勝と同じカードになった2つの巨星の対戦は、互いに一歩も譲らないまま運命のセカンドレグを迎える。マドリードで行われた先週のファーストレグでは、ホームのレアル・マドリードがヴィニシウス・ジュニオールの強烈な一発で先制するも、後半に入るとマンチェスター・Cのケヴィン・デ・ブライネも負けじと圧巻のミドルシュートを叩き込み試合は振り出しに。その後は均衡破られず、1-1の同点のまま17日にマンチェスターで開催されるセカンドレグを迎えることとなった。
同点ということで、やはり有利なのはセカンドレグをホームで戦うマンチェスター・Cだろう。CLだけでなく、プレミアリーグとFAカップを含めた3冠に邁進する同クラブはホームで圧倒的な強さを誇っている。とりわけCLでは、ホームで最近25試合も負けていないのだ。2018年9月に本拠地でリヨンに1-2で敗れて以降、ホームでは23勝2分け0敗というほぼ完璧な成績を誇っている。
無論、レアル・マドリードも今シーズンのCLではリヴァプールとチェルシーをなぎ倒しており、彼らの勝負強さは異質だ。それでもアウェイゴールがない今、やはりマンチェスター・Cに分があるだろう。しかし、筋書きがないのがサッカーである。豪華な攻撃陣に注目が集まったファーストレグも、カギを握ったのは守備の戦術だった。UEFAのテクニカルオブザーバーは、両チームとも可変式システムで主導権を奪い合ったとファーストレグを振り返っている。
■プレスの強弱
世界的アタッカーの競演となったが、ファーストレグで称賛を浴びたのは守備組織だった。とりわけ、“怪物”と称されるFWアーリング・ハーランドを完封したレアル・マドリードの守備は完璧に近かった。試合を分析するUEFAのテクニカルオブザーバーも同クラブの老獪かつ柔軟な戦術を称えている。
互いに基本システムは4-3-3。だが、これはあくまで基本であって、当然だが試合中に変動する。レアル・マドリードは高い位置から守備をするときは4-1-4-1に構えてマンマーク気味に守る。マンチェスター・Cの緻密なパスサッカーを完全に封じることなどできないので、そこはプレスの強弱で対応した。高い位置で守りつつも、様子をうかがいながらコースを絞る。そして浮き球のパスが入ったり、相手選手が後ろ向きでパスを受けたりした瞬間、一気にプレスのインテンシティを上げて奪いにかかった。
無論、常に高い位置から守ることなど不可能だ。そこのメリハリもレアル・マドリードの強みなのだろう。UEFAの分析官は、レアル・マドリードが中盤でブロックを敷くときは、優先順位をはっきりさせていたと指摘。中盤の底に入るMFロドリには比較的自由にボールを持たせつつ、インサイドハーフのデ・ブライネとイルカイ・ギュンドアンにはタイトに体を寄せてボールをハントした。
レアル・マドリードは低い位置で守ることも辞さない。自陣の深い位置でブロックを敷き、マンチェスター・Cの攻撃を招き込むと、両ウイング(WG)のヴィニシウスとロドリゴまで帰陣し、敵を囲んでボール奪取。そこから即座にカウンターを仕掛け、スプリントが自慢の両WGが前方に広がったスペースを有効活用した。
試合後にカルロ・アンチェロッティ監督も「我々は(前線、中盤、守備の)ライン間のスペースをコントロールすることに専念し、デ・ブライネとギュンドアンにスペースを与えなかった。彼らはボールに触る機会こそ多かったかもしれないが、ライン間のスペースを封じることが重要だったのだ」と戦術を明かしている。
そしてレアル・マドリードは“怪物”ハーランドを封じることにも成功した。常にセンターバック(CB)2枚がハーランドに付きまとって自由を奪ったのである。そのせいで生まれてしまうCBとサイドバック(SB)のスペースは、中盤の選手たちが献身的にカバーした。特に高い評価を受けたのはドイツ代表DFアントニオ・リュディガーだ。肉体派CBは、体を張ってハーランドにボールを遮断。結局ハーランドはフル出場しながらボールタッチ数は「21回」だけ。これは先発出場したどの選手よりも少なかった。
「(ハーランドにとっては)難しかったはず」とマンチェスター・Cのジョゼップ・グアルディオラ監督もエースに同情した。「両SBとCBの間のスペースにはフェデリコ・バルベルデとトニ・クロースがいたからね。通常、ボールがサイドに動いたときには、CBの一人がサイドにシフトしてハーランドのマークは一人になるのだが、常に二人ともハーランドから離れなかった。」
レアル・マドリードは出場停止でファーストレグを欠場したブラジル代表DFエデル・ミリトンがセカンドレグは戻ってくるが、第2戦もリュディガーを起用するようだ。アンチェロッティ監督は週末のリーグ戦でリュディガーを温存し、マンチェスター・C戦で「起用する。というか先発する」と語った。
■可変システム
可変式のシステムと言えばグアルディオラ監督のマンチェスター・Cが有名で、ファーストレグでもCBのジョン・ストーンズが中盤に上がって4-3-3から3-4-3に移行して中盤で数的優位を築いたが、UEFAのテクニカルオブザーバーは試合後半のレアル・マドリードの戦術をピックアップし、流動的な戦術が流れを引き寄せたと指摘している。
前半はマンチェスター・Cの時間帯が長かったが、それはハイプレスが機能していたからだろう。しかし後半に入るとレアル・マドリードがこれに対応。左SBエドゥアルド・カマヴィンガが一列上がって中盤に入ることが増えたのだ。これにより、レアル・マドリードはボールを保持できるようになったという。
後半、レアル・マドリードは最終ラインから攻撃を組み立てる際に、ルカ・モドリッチやクロースが左SBの位置に落ちてきて、カマヴィンガを一列前に上げたのだ。そうすることで、攻撃面で彼の走力を活かせるだけでなく、的確なパス回しでマンチェスター・Cのプレスも回避できるようになった。世界有数のパサーであるモドリッチとクロースは、まるで試合前のウォームアップの“ロンド”のように、狭い局面でも平然とプレスをひきつけながらパスでいなしたのだった。
モドリッチは前半45分間でボールタッチ数が23回だったが、後半は途中でピッチを後にするまでの42分間で倍近い41回のタッチ数を記録した。このよううにしてレアル・マドリードは前半わずか「32%」だったボール支配率を、後半には「57%」まで引き上げたのである。
とはいえ、皮肉なことに両チームともゴールを決めたのは劣勢に立たされていた時間帯。「我々の時間帯に相手がゴールを決め、相手の時間帯に我々がゴールを決めた」とグアルディオラ監督も試合を振り返った。守備も大事だが、やはり最後は決定力が差を生むことになりそうだ。
■二人の22歳に注目
レアル・マドリードはファーストレグでもネットを揺らした22歳のヴィニシウスの切れ味に注目だろう。昨シーズンのCLでもリヴァプールとのファイナルで決勝点を決めているアタッカーは、CLの申し子と言っても過言ではない。今シーズンのCLでは11試合に出場して12ゴールに直接関与(7得点5アシスト)しているのだ。
ちなみに、2018年夏にフラメンゴからレアルに加入したヴィニシウスは、これまで公式戦222試合に出場して59ゴールを決めている。彼がゴールネットを揺らした50試合で、レアルは40勝5分け5敗の成績。勝率「8割」を誇っているのだが、最近では異変が起きている。彼がゴールを決めた直近3試合、4月8日のビジャレアル戦(2-3●)、4月25日のジローナ戦(2-4●)、5月9日のマンチェスター・C戦(1-1△)でレアル・マドリードは一度も勝利できていないのだ。
一方、マンチェスター・Cにはゴールを量産する22歳の“怪物”がいる。今シーズンのハーランドは一人で公式戦52ゴールを叩き出しており、CLでも今季ここまで12ゴールを決めて得点ランキング1位を独走中。この大会ではザルツブルクやドルトムント時代を含め、計28試合にして通算35ゴールも決めているのである。
ちなみにCLの舞台で、ハーランドが2試合以上を戦い一度もゴールを奪えていない相手はマンチェスター・Cだけ。ドルトムント時代の2020-21シーズンにペップのチームと対戦し一度もネットを揺らせなかった。今回のファーストレグで無得点に終わったハーランドは、次のセカンドレグも不発に終わると、レアル・マドリードに対しても、2度以上対戦してノーゴールとなってしまう…
果たして、どちらの22歳が決定的な仕事をするのか? そしてイスタンブールで開催されるファイナルに駒を進めるのはどちらなのか? 2つの巨星の衝突から目が離せない。
(記事/Footmedia)