5月12日、こども家庭庁は自治体への実態調査で914件の「不適切な保育」が確認されたと発表した。今回の調査は去年、静岡県裾野市で保育士が園児を暴行し逮捕されるなど、保育施設での虐待などが相次いだことを受けてのことだ。
【映像】「お昼寝しない!」と保育園で騒いでいる子への“適切な”行動は?
しかしこれに対し、Twitterでは「不適切な保育が何を示すのか定義があいまい」「保育の正解って何?明確な線引きは難しいと思う」という疑問の声が。
ニュース番組『ABEMA Prime』では、不適切保育とは何かを考えた。
▪️「境界」が難しいケース
保育士歴30年、「不適切な保育」の定義が分からないとSNSに投稿した保育士のうめちゃん先生は「例えば、給食の量が負担になってしまって、泣いたり、吐いたりする子に対して『食べられる?』と聞くことがプレッシャーになる場合がある。対策として、少ししか盛り付けないで『完食できる喜びを味わわせてあげたい』とするが、今回のアンケートではそれも不適切だと書かれているので難しいというか、疑問に思う部分はある」と話す。
さらに別のケースとして、「お昼寝の時間に、大きな声を出してしまう子がいると周りの子が眠れなくなる。声を出している子も一人になることで落ち着いて眠れたりするが、その行為も今回のアンケートでは不適切と書かれている」と現場の難しさを伝えた。
具体的に「不適切保育」に該当するのは(1)子ども一人一人の人格を尊重しない関わり(2)物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ(3)罰を与える・乱暴な関わり(4)子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり(5)差別的な関わりとしている。しかし実態調査で、岐阜市は当初73件と報告していたものを、ガイドラインと照らし合わせた結果0件だったと訂正するなど、自治体の混乱が伺える。
現役保育士・育児アドバイザーのてぃ先生は「そもそも914件というのは自治体が確認した数字で、同じアンケートに対する保育園・保育所の回答では1万9603件もある。自治体の基準と現場の線引きが違うことが浮き彫りになった形だ」との見方を示した。
▪️不適切な保育を防ぐ「2つの指標」
てぃ先生は「完食を目指そうということ自体は悪いことではなく、それを達成するためのプロセスが問題だ。そもそも不適切な保育がどういうものなのかは『大人にしないことは子どもにもしない』という一言で表せると思う」と提案した。
「大人同士であれば、相手に対して急に差別的なことを言わないし、いきなり家庭環境を否定しない。でもなぜか、その対象が子どもになった途端に『あなたのママは…』などと言ってしまったりする。『もう食べたくない』と言っている人の口の前にスプーンを出す行為は、大人ではやらないことだ。そういうところに気をつけていれば不適切にならないと思う」と説明した。
さらに、もう一つの基準として「大人の状況によって子どもへの指導が変わってしまうと『不適切』となってしまうのでは」と話す。
「『あと1分後に家を出ないと保育園に間に合わない。会社にも遅刻してしまう』という場面で、『子どもが靴を履きたくない』と玄関でぐずっていたら誰でもイライラする。対して、『あと1時間後に家を出れば大丈夫』という場合は、心にゆとりがあるからイライラしない。つまり、ぐずっている子どもの姿は何も変わっていないのに、大人のゆとりのなさで指導を変えてしまったことになる。もちろん家庭と保育園でしつけのやり方は違うので一概には言えないが、一つの指標になるのでは」との考えを示した。
▪️人材不足などの問題も
EXITの兼近大樹は「適切な保育というものが定まっていない中で、新人の方が現場に入ってしまうのは悪循環なのでは。まずは『適切な保育士の教育の仕方』をまとめるべき」と投げかける。
うめちゃん先生は「正直、保育士の資質が低下してきていると感じる。本来であれば、私たち一人ひとりがテクニックや子どもの理解という面で向上していくべきだ」と述べた。
てぃ先生は同意しつつ「さらに人手不足の問題もある。例えば、もう一人保育士がいたらお昼寝の時に騒いでしまう子に対しても、マンツーマンで付き添えるかもしれない。それが現状できないから、子どもを不安がらせたり脅すような方法に頼ってしまう先生が多いのではないか」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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