5月31日、将棋の藤井聡太六冠が渡辺明名人に挑戦する名人戦七番勝負の第5局は、藤井六冠が56手目を封じて1日目を終えた。ここまでは藤井六冠が3勝1敗とリードしており、勝てば史上最年少での名人獲得と、史上2人目の「七冠」を達成する。
今回、藤井六冠が名人のタイトルを獲得すれば、谷川浩司十七世名人の持つ21歳2カ月という最年少記録を更新するとともに、羽生善治九段以来、史上2人目の「七冠」となる。
そんな中、『ABEMA NEWS』では羽生九段に単独インタビュー。藤井六冠の存在や「七冠」が持つ意味、また自身が抱えていた“苦悩”について話を聞いた。
■“七冠”なら史上最年少&史上2人目
Q.藤井さんが七冠に手をかけていることについてどう見ている?
毎年(勝率)8割以上の成績をとられているので。さすがにそれだけ勝っていると、タイトルが増えていくのは当然のことかなと。
Q.藤井さんが七冠になれば自身の記録に並ばれるが、どのように感じている?
藤井さん、今回が14回目のタイトル戦。今まで一度も(番勝負に)負けていないので、どんどんタイトルが増えていくのは当然かなと思う。今の内容や結果を見ていると、それがすごく大変な事というよりは、自然なことというか、実力をそのまま反映している状態なのかなと。
Q.羽生さんの七冠達成は25歳、藤井さんは達成すれば20歳…年齢についてお考えは。
藤井さんが20歳という事実は変わらないが、14歳でデビューした時からインタビューの受け答えも落ち着いていた。大人以上にしっかりしているという印象を持っているので、あまり年齢を意識させる存在ではない。
Q.当時の七冠と今の七冠、達成する時期については。
今タイトル戦は8つになっているし、将棋のプロの世界の全体的なレベルも底上げされている。その中で一つひとつ記録を伸ばしていくのは簡単なことではないが、現実としてはこういう状態になっている。
■棋士「藤井聡太」とは
Q.1人の「棋士・羽生善治」から見て、藤井さんはどのような存在?
人間が、将棋がどこまで強くなるのか、というのを証明しようとしているというか。そういう存在という気はしている。
例えば、100m走でボルトは9秒58。もしかしたら記録が塗り替えられるかもしれないが、そこから極端に速くなることは100年経ってもなかなかない気がする。限界とは言わないが、限界値にかなり近いところまで競技としては来ている。
将棋の世界の場合だと、頭を使うということもあるし。今の状況を考えると、今の藤井さんのパフォーマンスがベストタイムを出しているかというと、そうではない気もする。まだまだここから強くなっていく可能性もあると思っているので、そういうことを目指しているのではないか。
Q.藤井さんの強さには先がある?
常識的に考えれば今まだ20歳。記録を取り除いて考えたら、まだここから強くなるはず。
Q.藤井さんに過去の自分を重ねるような感覚は?
それは実はあまりない。将棋のスタイルでいうと、谷川先生が一番近いのではないか。キレ味の鋭さとか、「角換わり」という作戦を得意にしているとか、かなり共通項はある。
Q.羽生さんにとって藤井さんとの対局は特別?
最近はタイトル戦に出なければ対戦することも難しくなっているので(笑)。多くの棋士にとって、何とか対戦を実現したいと思っている。
■七冠の苦悩
Q.「七冠」になることの何が一番大変?
体力ですかね。長時間の将棋一局指すだけでもかなり消耗するし、タイトル戦の場合は全国各地を転戦していくことになるので。そこはかなり大変かなと思う。
Q.「七冠」になると忙しい?
対局そのものは忙しくないはず。挑戦者を待っていればいいだけなので。忙しさという観点でいうと、タイトルが4つ、5つくらいの状態で、予選もやりながら防衛戦もこなしていく状態が、対局の数としては一番増える時期。藤井さんとしても去年くらいが対局日程としては一番厳しかった。
対局の日程がなくても他の用事がいっぱいあるので、そこはちょっと把握しきれていませんが(笑)。
Q.羽生さんは当時忙しかった?
目まぐるしかったという記憶しかない。細かいことは覚えていない。
Q.「七冠」でなくなる恐怖は?
恐怖感はなかった。その間、ずっとスポーツ紙の担当者が毎局全部の対局に来ていたのが、タイトル1つ失った瞬間に皆さんお役御免になったので、そこで祭りが終わったかなという感じ(笑)。
(『ABEMA NEWS』より)