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 アマチュア時代に13のタイトルを獲得したスーパールーキー、堤駿斗(志成)が31日、東京・後楽園ホールで東洋太平洋フェザー級王座決定12回戦に臨み、世界挑戦経験のあるジョー・サンティシマ(フィリピン)に大差の3-0判定勝ち。世界3階級制覇の田中恒成(畑中)の4戦目を上回り、3戦目で東洋太平洋王座獲得という日本最速記録をマークした。

 23歳の大器がその実力を余すところなく披露した。日本人選手初の世界ユース選手権優勝、アマ13冠という肩書きを引っさげてデビューしたのが昨年7月のこと。デビュー戦、12月の2戦目はともに判定勝ちで、ファンに「倒せなかった」という印象を与えた。しかし、問題はKOを逃したことではなく、“大器”にふさわしくないバタついたボクシングをしてしまったこと。それを一番感じていたのが本人だった。

「最初の2戦は倒そうとするあまりにボクシングが崩れた。今回のテーマは自分のボクシングをすること。巡ってきたチャンスをつかみとりたい」

 佐々木修平トレーナーは次のように補足した。

「もともと倒し屋ではなく、相手に何もさせず、自分のペースにはめこんでいくスタイル。ただ、負けん気が強いので強引にいってしまうところがある。そこが課題」

 堤は過去2戦の反省をいかして自分のボクシングに徹した。「自分のボクシング」とはパワーで相手をねじ伏せるのではなく、しっかり距離を取り、打たせずに打つ王道とも言えるスタイルである。その生命線がジャブとフットワークだ。この日、最後まで有効だったジャブについて聞かれた堤の答えが非凡だった。

「相手の片眼をつぶすつもりで、ピンポイントで左眼を狙って打っていった。相手の距離感を狂わせる。いつもそうですけど今日は特に意識した」

 サンティシマは2020年2月、現3階級制覇王者、エマヌエル・ナバレッテの持つWBOスーパーバンタム級王座に挑み、11ラウンドまで戦った元世界ランカーで、現在は世界ランキングから外れているものの好戦的な実力者だ。5つの負けがあるとはいえ、プロ3戦目のルーキーにとっては、決して楽な相手ではなく、むしろタフなマッチメークと言えた。

 予想通りサンティシマはグイグイと前に出て自慢の強打を振ってきた。これを堤はジャブで止め、フットワークでさばいて対処。守っては空振りを誘って相手のスタミナを徐々に奪い、攻めてはジャブやボディ打ちでコツコツとダメージを与えていく。一撃で倒すのではなく、相手を徐々に弱らせる攻撃をボクシングでは「削る」と表現する。その狙いが如実に表われたのが3回、堤が左ボディブローを決め、サンティシマの動きが明らかに落ちたときだった。堤はあえて畳みかけなかったのだ。

「普通の人ならあそこでいくのかもしれないけど、自分は嫌らしいボクサーなので(笑)。プレッシャーをかけて削っていこう、精神的に痛めつけていこうと思った。とにかく今日の試合は“削る”がテーマだった」

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 リスクを最小限に抑えつつ、終盤のノックアウトに向けて試合を組み立てる。「徹底して練習した」という右アッパーから左ボディのコンビネーションを決め始めたのは中盤から。「最初は左フックを合わせられるのが怖くて出せなかった」。用意したパンチをすぐに使うのではなく、相手の動きを読み切ってから出してくるあたりも冷静だった。

 8回終了時の公開採点で、堤は大きくリードしていた。だから終盤は無理をせず、逆転負けだけを回避して安全運転をするという考えもある。しかし、周囲の期待を知る堤はノックアウトを狙った。11、12回は歯を食いしばり、声を上げてコンビネーションをたたき込み続け、観客の心を揺さぶった。終盤の「倒してやる」という強い意欲は、同じ大差判定勝ちでも、試合の印象を大きく変えた。

 読み上げられたスコアは120-108、119-109、118-110。中盤に左拳を痛めながら、このクラスの選手を相手に「ほぼ完封」というパフォーマンスは、堤の現在地、そして将来への期待値の高めるに十分な内容だった。

 デビュー3戦目を終え、本人はどの程度の手応えを感じているのか。勝てば日本最速記録となるプロ4戦目での世界挑戦を期待する気の早い声もある中、今後について次のように語っている。

「それなりに強い選手に、それなりの内容で勝てたと思う。少しずつプロとしてのボクシングができているという実感がある。次の3戦くらいでひと皮むけられるのではないかと思う。結果を出し続けていきたい」

 既にこれだけハイレベルなボクシングができる堤が今、最も必要としているのは経験を積むことだろう。そういう見地から3試合連続の判定決着はむしろ歓迎することができる。3試合で計28ラウンド、しかも3試合目は世界タイトルマッチと同じ12ラウンドの長丁場だ。仮に3試合とも派手な初回KO勝ちならインパクトは大きかっただろうが、経験値で言えば計3ラウンド未満に過ぎない。駆け引きも、ペース配分も、ゲームメイクも経験できた計28ラウンドは大きな財産となったことだろう。

 堤が今回、実感したのは自分のボクシングを信じ、貫くことだ。ノックアウトを狙うボクシングが別にあるのではなく、堤のボクシングを貫いた先にノックアウトは待っている。その事実を再認識できた第3戦の意味は大きかった。営によると次戦は年内。スーパールーキーの今後がますます楽しみになってきた。

写真/志成ボクシングジム

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