5月30日、ロシアの首都モスクワでドローンによる爆発が発生した。ロシア当局によると飛来したドローンは8機で、攻撃を受けた地区はモスクワの西側から南西部にかけて8カ所だという。1カ所に1機ずつ飛んできたものとみられている。
ロシア国防省は、飛来した8機のうち5機は防空システムで撃ち落とし、3機は電子妨害で無力化したと主張。1機はモスクワ市の中心から車で約40分の住宅街にあるマンションに突っ込んだが、無力化されていたためか起爆しなかったという。死者や重傷者は出ず、住民たちは一時避難した。
「非常に受け入れがたい。爆発音が響いたのは朝4時過ぎで、誰もが安心して寝ていた」(近隣住民)
この事態にプーチン大統領も言及した。
「ウクライナはロシアとロシア国民を脅迫し、住宅を攻撃する道を選んだ。これは明らかなテロの兆候だ」
ロシア側の非難に対し、ウクライナ政府高官は関与を否定している。しかし、ゼレンスキー大統領が5月29日、注目されてきた大規模反転攻勢について言及したほか、ウクライナ陸軍トップも近く攻撃をしかけると発言している。
この状況でウクライナによる攻撃が疑われるのは当然だが、ロシア国内には反プーチンの勢力もあり、そちらが関与した可能性も否定できない。5月3日に起きたクレムリンへのドローン攻撃も記憶に新しい今、またモスクワが攻撃された事実はロシアにとって由々しき事態だ。
しかし、大統領側近は重大な問題ではないといった姿勢を取っている。
「みんなが適切に動き正しく機能した。防空システムも正しく機能した。幸いなことに負傷者が出ていない。現在、モスクワおよびモスクワ州の住民にとって何の脅威もない」(ロシア大統領府・ぺスコフ報道官)
今回のドローン攻撃について、ロシアの軍事に詳しい、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠氏話を聞いた。
――場所と状況から考えられることは?
「ドローンの1機が飛来したオガリョボの近くにはプーチン大統領の公邸があり、明らかに近くを狙っているように見える。また、その近くにあるブラシハにはロシアの戦略ロケット部隊、核ミサイル部隊の司令部がある。ウクライナかは不明だが、攻撃側にしてみると『ロシアの政治や軍事の中枢にドローンを突っ込ませてやったぞ』という意思表示のように感じる」
「また、他に攻撃されたレニンスキー大通りや、私が昔住んでいたプロフソユズナヤ通りは完全に町の中、団地街になっている。ここまでドローンが飛んで来たことはロシア国民にとってかなり大きいショックだと思う」
――ロシア領内への一連の攻撃の関連性は?
「これだけ立て続けに起きているので、何らかの関連性は間違いなくあると思う。ただ、この戦争を最初から見ていくと、実はウクライナは度々、ロシア領内に対して攻撃をしている。鉄道や燃料施設など、ロジスティクス(物流拠点)の混乱を狙ったような攻撃はずっと行っていた。だが、5月に入ってからは、ロシア国家の象徴といえるクレムリンや、プーチンが住んでいる場所を狙うなど、ロシアという国そのものに対して『我々は恐れていない』という姿勢を示す攻撃を始めたように見える。それらを考えると、ウクライナ政府、軍隊が実行しているかは不明だが、ある程度ウクライナ政府の意図を受けて、この戦争と連動する形で行われていると思う」
――今後も同様のことは起こる?
「むしろ、もっと激しくなる可能性さえある。これからウクライナが反転攻勢をかけていくと言われているので、なるべくロシアの軍事力を自国防衛の方に割いてもらいたいはず。
つい先日、おそらくウクライナの支援を受けたロシア人義勇兵がロシアのベルゴロドに侵入した。ウクライナ側から見れば、ロシアが国境防衛にもっと兵力を割いてくれるということ。色々な方法でロシアを叩いて、ウクライナでの戦争に集中できない状況を作っていくだろう。また、西側諸国はずっと、プーチン大統領が核で反撃する恐れがあると警戒して、ウクライナに高度な武器輸出を控えてきた。だが今回の攻撃は、『君ら心配しているけど、我々が実際にやって見せてやるよ。ほら、プーチンは何もできないだろ?』と言っているように見える」
――ドローン攻撃は反転攻勢の初手?
「今回の攻撃は、ロシアの体勢を崩すための足払いをかけているような段階。『相手がバランス崩して一本背負いが決まったらいいな』といった考えで本番に繋げようとしているのは間違いない。ただ、問題はウクライナ軍の反攻兵力は、おそらく12個旅団くらいと言われている。これは決して小さな兵力ではないが、ロシア軍の兵力を考えると決して大きくもない。西側の軍事援助も相当入っているが、決して100点満点ではない。これが戦況を大きく変える反攻になるかはわからない」
「ロシア軍の総地上兵力とウクライナ軍の総地上兵力は、実はあまり変わらない。問題は、現在ロシア軍とウクライナ軍が戦っている戦線が1000kmもあること。なので、均等に兵力を置いているわけではない。私がウクライナ軍司令官なら、ロシア軍の本当に突破したい場所を薄くしたいので、そこに兵力を集中投入したいと必ず考える。ドローン攻撃やベルゴロドへの義勇兵の越境もその一環だと見ている」
戦場がウクライナからロシアへ拡大し、ロシア国民の意識に変化はあるのだろうか。
「これまでは地方のインフラ施設が攻撃されていたため大都市圏の人たちは危機を感じていなかったが、今回のモスクワなどへの攻撃で、大都市圏の人たちの危機感は高まっていると思う。国民がプーチンに戦争をやめるよう呼びかければいいが、それはないだろう」
ワグネルのプリゴジン氏が政権批判を激しく行ってきているがプーチン大統領の政権基盤に綻びが出ることはないのだろうか。
「プーチン大統領の権力がものすごく揺らいでいることは間違いない。こんなにプーチン権力が動揺したことはこれまでない。とはいえ、グラグラ揺れてプーチン大統領が転ぶほどではないと感じる。プリゴジン氏はすごく目立つし言葉遣いも汚い。社会のエリート層は眉を潜めるが、富に預かれていない人たちには親しみやすく見えるため、そういう意味での人気はある。しかし、プリゴジン氏がプーチン大統領を倒せるか、倒す意思を持っているかというと、そうではないと思う。結局、政権内でプロレスをやっているんだろう」
――まだ終わりは見えない?
「嫌な話だが、来年で終われば早い方、実際はもっと続くだろうと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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